#海

海が好きだったので、海辺に住んでみた。8年住んだ。岸辺の近くに4年くらい。そしてオーシャンビューが広がるホテルみたいな家に4年くらい。当時訪問した知人が、「いいですねえ、人生上がりですね」と言っていた。まあ、そんな印象はあった。

朝、カーテンを開けると、180度とまではいかないが、100度くらいは遠く水平線が広がる。果てしない海という感じである。ベランダには、いかにもホテルみたいな椅子も置いてある。毎日がハワイ、マイアミみたいな生活である。小さい子どもがいなければ、そんなものだったかもしれない。

海が美しいのはその色が静かに変わることだ。当たり前だが、日々見ていても、時々で色は変わる。そして海の美しさは空との調和にある。こう言うのもなんだが、曇りの日、雨の日の海は美しいものである。神々の悲しみとはこういうものだろう。

夜の海も美しい。絵のようだ。あまり絵みたいなので、なんだこの凡庸な風景はとも思うが、美しいものは美しい。

なにより美しいのは、夜の雷である。夜の海に落ちる雷は、おそらくこの世で人間が見ることができるものでもっとも美しいものの一つだろう。太古の地球そのもの。SFXでもこの迫力はないというくらい、どかーんと鳴って、震撼したり、鈴の音のように遠く網のような光りが海を覆っていたりする。

広がる海の美しさは沈黙の美しさでもある。本当の夜には人間の光がない。そのとき空の星は、溜息をつき終えたように輝き出す。驚いたのだが、夜空を見ていると、10分に一度は流れ星があるのである。流れ星なんてそのくらい普通にあるものだった。


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