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交差する3本の道 ~クレスとタイタス、そしてサザントス



聖火騎士  タイタス

  エンバーグロウの為政者タイタス。彼は聖火騎士だった。南方からの異民族が大陸に攻め込んできた18年前、その時の彼の状況を少し考えてみたい。

彼は強く聡明であったが、若く、未熟で、地位に飢えていた

追憶の塔 地下書庫 「力、求めし者」

 燻っていた彼にチャンスが訪れる。南方より異民族が攻め込みうろたえるオルステラの諸侯。彼は願う『この機に力を示せば自分は昇れる、もっと力が欲しい』と。そこに黒衣を纏った者が現れ、彼に指輪を授けるのだ。
 タイタスの年齢は40代とされている。侵略を受けたのは18年前、仮に45歳とすると当時27歳。それほど若くはないような気もするが、未熟で地位に飢えているあたり少し焦りも見えるので、指輪を手にしたのはやはり20代後半ではないかと思う(あまり若くすると後出のサザントスの項で矛盾が生じるので45歳〜にしておこう)。
 
 雷神の如き活躍で異民族を退けたタイタス。鎧に無数の傷を彫り、大きな戦果をあげるとともに、大陸を異教徒から守った自負と自信を抱いて帰還した。その彼に教会が与えた報酬は、騎士としての地位ではなく、教会直轄地の北に位置するエンバーグロウの統治。統治と言えば聞こえはいいが、それは左遷を意味していた。味方をも畏れさせる彼の凶暴さを警戒してのことだった。

名声を授けし者 第一章冒頭
左からエドラス王、教皇、そしてホルンブルグ王
雪深きエンバーグロウに追いやられたタイタスは復讐を誓う

    エンバーグロウは教皇直轄地であるフレイムグレースの北の玄関口。聖火の残り火とはなんとも皮肉な町の名前である。タイタスは再起と復讐を誓い、統治や軍の編成を始める。しかしその地で民衆の心を捉えていたのは義賊団『雪狼』だった。

『雪狼』と暁のナスターシャム

 雪国の夜は長い。短い日照時間で地表が温まらず雨は雪となって町を覆う。どの国の支配も受けない聖火教会直轄地。しかし、フルイムグレースから離れたエンバーグロウは聖火教会の手から逃れているのか、貴族や領主の不正が蔓延する。景気は下がり治安も悪い。人々の不満は蓄積し生活に対する不安を抱きながら夜を過ごしていた。そこに現れたのが義賊団、雪狼である。
 『迂闊なる者 露見が怖くば ひざを抱け』を謳い文句に彼らは次々と不正を暴き悪を倒していく。民衆たちにとって雪狼はヒーローとなった。なかでも一際注目を集めたのが盗賊団のエース、ナスターシャムである。誰が呼んだか彼の二つ名は『暁』。エンバーグロウに夜明けをもたらす英雄、この時若干19歳。
 雪狼の話で酒場は盛り上がる。悪代官を懲らしめる話はそれはスカッとしただろう。彼らの活躍は娯楽の少ない閉ざされた雪国の民の一種のエンターテイメントであったのではないだろうか。

サンシェイドにまで届いた雪狼の名声 彼らの物語は旅人とともに大陸に広がる

 これを読んでいる方々はナスターシャムが誰であるかはご存知だろう。そう、エンバーグロウの⭐︎4盗賊、クレスである。前記の内容は彼のトラベラーズストーリーで語られることだ。彼の年齢については30代後半ということがオクトラジオの設定公開でわかっている。タイタス同様幅が広いのであるが、同ラジオの中で35、その位、のような発言もありもうよくわからない。ここでは35〜39の間の37歳で計算することにする。(余談であるが19歳だとバナナフィッシュのアッシュと同じなのでちょっとトキめく)

 雪狼は今はもういない。義賊とはいえ正しい方法で悪を裁いたわけではなく、いつか彼らにも審判の時は来る。18年前、彼らはエンバーグロウに赴任した新しい為政者によって粛清された。彼らがこれまで暴いてきた不正は全て自作自演でだったとタイタスは発表し、手のひらを返すように雪狼の名は賞賛ではなく侮辱や嘲の的となる。今後タイタスの圧政に苦しむことになるとも知らずに。

 さて、雪狼は本当に自作自演であったのか。もしかしたら黒幕とアリストロが密通していて、政敵の不正をリークあるいは捏造し雪狼に狙わせていたという可能性はあるか。色々と考えるが、クレスの口を封じようとしたことから、冤罪説の方が正しいような気がする。ただ、アリストロの言うように、義賊が民衆のガス抜きであった、というのは一理ある。また、クレスは正義を信じ戦っていたかもしれないが、中にはそうでなかった者もいただろう。雪狼は全員処刑。ただ一人、ナスターシャムの遺体だけは見つからず、裏切り者の烙印と共にその名前だけが残ったのだった。

手前味噌で申し訳ないが、トラベラーズストーリーの幕間を描いた自身の漫画のワンシーン。クレスは元雪狼の仲間であったアリストロが生きていたことに驚く。『指導者として』という部分に私は引っかかっている。もし本当の指導者がナスターシャムであったとしたら、指導者として処刑されたとされるアリストロに対して罪の意識を感じて生きてきたのではなかろうか。そして絶望を抱いたナスターシャムを雪と氷の檻に入れて飼うことがアリストロのもう一つの狙いだったかもしれない。なんちゃって。


 クレスが逃げ切ったのか逃がされたのかもわからないが、この頃恋人のカレンが彼の元を去ったことはわかっている。そしてそれは彼を助けるための行動だったが、若いクレスにはそれがわからず、自分は呆れられ捨てられたと思っていた。民衆はすっかり新しい為政者の味方。なんのために自分達は命をかけてきたのか。生きる理由もわからぬまま18年が過ぎたに違いない。

 でも私はよかったと思っている。クレスがカレンの真意を知り、アリストロの裏切りやタイタスの企みを知っていたら、彼は一人でもタイタスに戦いを挑んだだろう。そしてそれはもちろんクレスの死を意味する。いくら町の伝説のヒーローでも、連合国軍を率いた将軍には敵うわけがない。ゲーム的にもタイタスの弱点が短剣でないところが面白い。雪狼だけではタイタスに勝てないのだ。

トラベラーズストーリーの特性(旅立つ理由だからメインストーリーには絡まない、時系列はふんわり)から、クレスの本当の敵はきっと明らかにはされない。しかし、雪狼を処刑したのはタイタスであり、また、この町で聖なる者とは、やはりその名を冠した大聖堂を建築している彼ではないだろうか


 時を経て、彼らはもう一度出会う。今度はエルフリックの指輪を持った選ばれし者と雷剣将ブラントの指輪を持つ権力の覇者として。そしてタイタスはあの時逃した名も知らぬ一人の盗賊に倒されるのであった。

二人の時系列をなんとなく書いてみた。キラキラ時と地べた(燻り)期が交差する。
タイタスがマイルズみたいにエンバーグロウに赴任した時期があったとして、その時に雪狼が活躍していたらそれはそれで面白い。私がタイタスなら、盗賊如きに遅れをとり悔しい思いをするだろうし、エンバーグロウを統治するとなったら、力を示すためにまずその盗賊団を潰す。(妄想です)


選ばれし者 サザントス

 サザントスは生まれながらに青い炎の才を持ち、聖火守指長になるべく教会に育てられた。母親のこともあり、きっと彼は自らの幸福を望まぬよう、使命のために生きるよう育てられたに違いない。

お前はいずれ 大陸の覇者となる
“選ばれし者”なのだ

全授6章後編 サザントスの回想
暗い一室、白いフードの人間たちは幼いサザントスを囲んでこう教えた

 どこかで聞いたことのあるフレーズではないだろうか。そう、権授シナリオのエンディング、戦いの終わった船上で昇る朝日を浴びながらアラウネがプレーヤーに言ったセリフとほぼ同じである。あの時クレスを主人公として動かしていた私は、雪狼壊滅からここまできた、見ているかお前たち、俺はやったぞ、この勝利はお前たちと共に……と心の中で雪狼の証をぎゅっと握りしめた。フィニスが気まぐれに指輪を授けた人間は、選ばれし者としてこの一年、仲間を導き降りかかる火の粉を払いながらここまで来た。そして大陸の危機を救い、アラウネ女王に「選ばれし者よ、あなたこそが大陸の覇者」と言われるのである。

 それよりずっとずっと前から“選ばれし者”として教育され、聖火守指長として生きてきたのが、そう、サザントスだ。聖火守指長の彼の使命は、青き炎で邪悪を焼き払うことと教会の宿願である8つの神の指輪を探し、それらを取り戻すこと。役目のために大陸中を回りながら、彼は疑問を持ち始める。邪悪とはなんだ?人間の欲こそが邪悪を生み出すのではないか?彼の手記を読むと途切れ途切れではあるが、彼の迷いや行き詰まりが見える。そして彼自身の中にも生まれる疑問ーーーあのような邪悪な方法で生まれた自分の青き炎は本当に正しい力なのかと。


 そんな時に出会ったのが、プレーヤーであるあなた、フィニスに“選ばれし者”だ。弊旅団ではクレスである。名授の冒頭で教皇はサザントスに選ばれし者を探せと命ぜられる。サザントスは“フィニスに選ばれし者”のことをどのように見ていたのだろうか。“選ばれし者“として自我の全てを封じて生きてきたサザントス。その前に、言っちゃ悪いがポッと出の、たまたま指輪をフィニスからもらった人間が“選ばれし者“として現れる。さまざまな思惑や互いの欲の駆け引きの中、泳がせざるを得なかったタイタスやパーディス王を討ち果たした“選ばれし者“。では自分は……?

 運良くなのか、教会の教育()のおかげでサザントスにはあまり感情や自我が育っていない。母親の受けた所業を知った時も大きなショックも受けず、ただ母に対する思慕の念を覚えた。選ばれし者の存在と活躍は、普通なら自己の存在意義が揺らぐ事柄だとは思うが、サザントスはそのことは特に語ってはいない。むしろ後継者のロンドの存在を祝福するほど彼は無垢だ。
 サザントスが感じた決して満たされぬ空白、とはなんだったのだろう。私はそれを「人並みの感情」でないかと思っている。抑制されてきた喜びや悲しみ、愛と欲。人としての生き方を望んだ母親のようにならぬよう彼は育てられたのだ。「自分の存在」よりも「教会にとっての正義」と「神の指輪」の方が優先される教育をされてきた。この時点では選ばれしものに対して本当に特に何も感情を持たなかったかもしれない。

 聖火神の指輪に選ばれし者や未熟だが青き炎の後継者候補も現れ、彼はもう“選ばれし者”でいる必要はなくなった。悲願の指輪も揃いつつある。教会の秘匿する忌まわしい行いで生まれきたサザントスより、竜石を預かるレイヴァーズ家の子息の方が教会にとっては都合が良いかもしれない。教会は後継者育成をサザントスに要求する。そんな頃、サザントスはセラフィナの黒呪炎を浴びるのだ。

 誤解のないように言っておくが、サザントス自身は正義感の強い、清廉な人間だったと思う。自己犠牲も厭わず、感情を抑え、ひたすら任務に忠実に生きてきた。ちょっとスーパーマンすぎてつまらないな…とすら思った。しかし物語終盤で読まれる彼の手記で彼が決して完璧な人間だったわけではないことがわかった。常に自己の生き方を問いながら、迷い、でも突き進み、「教えられた世界の平和」を守るために戦ってきたのだ。女帝やパーディス、セラフィナらに比べたら、なぜ死ななければならなかったのかと今でも思う。選ばれし者として育てられ、別の選ばれし者によって倒されてしまう。なんとも苦しく、悲しい物語だ。

 

タイタス、クレス、そしてサザントス

 

 タイタスとクレスの因縁はわかる。クレスは個人としてより、選ばれし者としてサザントスとの因縁が生まれたーーーーと、思っていた。が、全授5章で驚くべきことがわかった。サザントスは死んだ辺獄のタイタスを前にこういうのだ。

私の父親かもしれぬ男というのに

!?!?!?!?!?

サクッといま、すごいこと言いましたね?!?!?!?!?!
全授終始ボケッとしていたクレス(私)の目も覚めましたよ?!?!?

 第6章で教会暗部のものすごい所業が明らかになる。サザントスの母親は青き炎の才を持つ神官だったが、愛する人とのごく普通の人生を望み、聖火守指長になることを拒んだ。そこで教会は彼女を幽閉し、炎の才を受け継いだ子を産ませるために13年もの間さまざまな男たちと交配させたのだ。その中に、若き聖火騎士タイタスも入っていたと思われる。これは衝撃だった。おそらく覇者一の衝撃。13年もの間、教会の身勝手な理由で一人の女性を子作りのために監禁し、子に才がなければ処分をし、そしてその事実を隠してきたのだ。真に倒すべきは聖火教会暗部。サザントス、今から一緒にこれから一緒に殴りに行こうか!!と脳内でYAHYAHYAHが流れなかったか?

 

教会の要求を拒み軟禁されるファラメ
教育される幼いサザントス 。この部屋は知られざる場所なのかもしれない。しかし炎と祭壇、そしてベンチがあり、昔の教会や隠された集会所を思いおこさせる。床はエンバーグロウ地下研究所と同じデザインだ。

   話がとっ散らかるが、タイタスは聖火騎士なりたての頃、若い種を求めて『これ』に呼ばれたのではないかと思っている。タイタスも最初は意味もわからずきっととまどっただろう。これに呼ばれたのにたいして出世していないのもまた彼の不満や焦りの一つとなったかもしれない。タイタスは最初のオクトラカフェで枢機卿との繋がりを仄めかされている記述があった。最初からもうこのことはプロットの中にあったのかもしれないと思うと、シナリオライターに敬服する。(でも本当言うともっと掘り下げて欲しかった!!)

 ファラメが軟禁されていた場所であるが、床の装飾があのさびれたエンバーグロウの地下研究所と同じで驚いた。これは仮説であるが、ファラメはエンバーグロウに幽閉されていたのではないか。流石にフレイムグレースであのような所業はできなかったのかもしれない。タイタスがエンバーグロウに入った頃はもうファラメは役目を終え、処分()されたいただろう。彼は、あの儀式が行われていた旧聖堂に居を構え、緋晶薬の研究や実験をさせる。そしてファラメやサザントスの日々を隠すかのようにタイタス大聖堂を建立するのだ(ここでまた枢機卿や誰かと取引があったかもしれないし彼の独断かもしれない。教会にあのことを俺は知っていて証拠も握っているというアピールかもしれない)。彼はどれほどファラメのことを覚えていただろう。忘れられない女だっただろうか。どんな女と寝てもあの日のことを思い出しだろうか。それとも女を道具と思うようになっただろうか。それは想像にお任せするしかない。

 サザントスはその「教育」のため、幼少期おそらく外部(俗世)との接触を絶たれて、教会暗部の息のかかった人間に世話をしてもらっていたのではないかと思われる。彼が育てられた場所はファラメと同じような部屋だ。教育用の部屋かもしれないが、彼は幼少期の多くをそこで過ごしただろう。青い炎の持ち主が下っ端からスタートするとは思えないので、サザントスの存在は成人するまでそれほど多くの人には知られず、教会が選ばれしものとして大事に大事に育て、成人を待って聖火守指長として鮮烈デビューしたと予想する。
 サザントスがこっそりと育てられ、教会に選ばれしものとして躾けられていた幼少期、それは実はナスターシャムの活躍した時代と重なる。タイタス赴任時サザントスはおおよそ12、3歳。もうフレイムグレースで教皇や高位聖職者の小姓としてそばにおいても良い年齢だ。タイタスの凱旋と左遷、ナスターシャムの失脚、それと入れ替わるようにサザントスは表舞台に立ちはじめる。それはまるで蝶の羽化のようだ。そして最期は、世に舞い戻ったクレスによってサザントスの天命は尽きる。
    サザントスとクレス。私は彼らがコインの裏表のように見える。どちらも選ばれしものとして人に望まれ、しかしともに活躍することはなく、どちらかが生きればどちらかが死ぬ。タイタス、クレス、サザントス。フロストランドを舞台に、3人の男たちのそれぞれの人生が指輪をめぐって絡み合うのだ。なんというドラマ……!ハリウッドで映画化してほしい。
 

 
 後半『想像』の話ばかりしたが、いかがだっただろうか。選ばれし者とサザントスの因縁は考えれば考えるほど深い。弊旅団はクレスだったので、タイタスのことも含めて大いなる妄想の風呂敷を広げてしまった。ここでエンバーグロウ民の言葉を借りよう。

 妄想でも俺は信じるね、

 だってその方が面白そうだからな!!



大変迷惑であるが彼はとても楽しそう

 ここまで読んでくださった方、ありがとうございました…!想像の部分は断定した言い方は避けるようにしましたが、打っているうちに熱くなってしまってまたも長文になったことをお許しください。また、サザントスに関しては自分が知る限りのことで考え、感じたことを書いたつもりですが、不快な表現があったら申し訳ないと思っています。
 
 それでは次はなんのお話をさせてもらおうかな……(懲りない)

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