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ミモザが欲しかった1週間の日記

本州には、春が来ているらしい。
花粉のニュースを見た。
本州にいる私の好きな人は、花粉症で鼻をすすりながら仕事でもしているんだろうか。

こちら北海道にはそんな兆しはない。
どこまでも真っ白な世界。ツルツルと滑る足元。グレーの雲。
緑なんて全く見えない。

でも、花屋さんの花はいつもの間にか春のラインナップになっていた。
国際女性デーなんてものがあるのは知らなかったけれど、ミモザは好きだ。
ミモザが所狭しと並んでいる。

人生で初めて自分に花を買ってみようかと思ったけれど、自分には似合わないし勿体無いと辞めてしまった。
私という女性に優しくないな。苦笑いをする。

社会人二年目の時、毎日のように上司に飲み屋に呼び出されていた。
酒豪の女上司について行く、「フットワーク軽めの独身彼氏無し女」は私しかいなかったからだ。

次の日も仕事だと言うのに、朝まで付き合わされる。
毎日通っていると、店員とも仲良くなり朝まで店長と一緒に飲むこともしょっちゅうだった。

その店には、シャンパンの飲み放題があり、ミモザがメニューにあった。
まだ、世間知らずの私はミモザがどんなカクテルなのかも知らず、一気に飲み干し苦味に衝撃を受け、強いアルコール度数にクラクラと目を回した。
お酒が強くない私は、それ以来ミモザを頼むことは無かったのだが、上司がミモザを頼むとお決まりの儀式があった。

ミモザが机に置かれると、
私は指を鳴らしてリズムをとらないといけない。
すると上司が歌い出すのだ。

ガラスの靴で踊るミモザ 金色の甘いキスを
連れていくよ君がいれば きっと最後の恋さ

ゴスペラーズ「ミモザ」

ワンコーラスを気持ちよく歌い終わると、私は大袈裟に拍手をして、乾杯をする。

今考えると、普通の大衆居酒屋でそんなことをしていて笑ってしまうが、
当時の私は10個も上の上司が、シャンパングラスを綺麗にネイルされた長い指でユラユラと揺らしながら、歌う姿を「大人だ」と思っていたのだ。

そこから時が経ち、私もミモザを飲めるようになった。
お酒が弱いこともあり、あの時の上司のようには飲めないけれど、苦味も楽しめるようになった。

上司は数年前に異動になり、私はその店に久しぶりに1人で訪れた。
団体客でうるさい店内の中、
「いつも一人で来てかわいそうなやつだな」と店長は笑いながらカウンターに通してくれる。
昔はチャイナブルーばかり飲んでいた。今でもこの店では注文していないのにチャイナブルーが目の前に置かれる。
真っ青な甘いカクテル。この青い甘いカクテルだって、当時の私にはおしゃれに見えたのだ。

ミモザを頼んでみる。店長は「大丈夫か?送ってやれないぞ?」と私に言う。
「大丈夫ですよ。もう大人です。」
店長はいつまでも私は2年目の新人だと思い込んでいるのだ。
シャンパングラスに黄色の液体。
目の前に置かれる。

小さな声で歌ってみる。
ワンコーラスを小さな声で歌っても、私は上司には成れない。

あの時、憧れた大人にはまだまだ成れていない。
余裕もなく、力もなく、仕事にも、自分にも恋にも自信もなく、成果を出せてない。
チャイナブルーを飲んでいたあの頃とおんなじ私だ。
いつになったらなれるのだろう。どうしたら成長できるんだろう。
あと何回辛い思いをしたら、私は彼女みたいになれるんだろう。
いつまでもなれないんだろうか。
ああ。美味しいなあ。

そんなことを考えた日。



また、彼との思い出の話。
彼に告白された日。
私たちは、もう半年ほど一緒に暮らしていて、付き合ってるも同然だった。
一緒に居れれば別に何でも良かったし、当然、彼女彼氏の関係性だった。
だが、彼は告白するタイミングを逃したことを後悔していたらしい。

3月のある日、私の部屋に小包が届いた。
彼の名前。なにか頼んだのかな?と受け取った時に、箱に「商品名 プリザーブドフラワー」の文字。

彼は1週間ほど、旅行に行っていて、家を留守にしていた。
見てしまった。と思いつつ、ホワイトデーのお返しだと思い、笑みをこぼした。

そして何も見てなかったかのように、小包を部屋の片隅に置いた。
長い旅行を終えた彼は、食べきれないほどのお土産を私に持ってきて、思い出を散々語り、満足すると、小包には触れず、旅の疲れで寝てしまった。

その週の土日は私とデートの予定だったので、その後だろうか?と思ったが、土日のデートも2人交代で徹夜ドライブをしたせいで寝落ちしてしまった。

寝落ちから起きた彼が、
「りおさん!見た?この箱!?」
(彼は私をさん付けで呼ぶ。出逢った時から変わらない。)
と叫ぶ声がする。
「見てないよー。それなにー?」
白々しく布団の中から返事をする。

すると、
「りおさん!はい!ホワイトデー」
どんな花を選んでくれたんだろう?

寝返りを打って目を向けると彼は、小さなアルバムを持っていた。
私との思い出をアルバムにしてくれていたのだ。

道理で。
あの写真っていつだっけ?りおさんが好きな写真ってこれだよね?とか
怪しいところはあったのに、全然気付かなかった。

サプライズが失敗してばかりの彼が唯一成功したサプライズだった。

「ホントはちゃんとあげたかったんだけど、待ちきれなくて、寝てるりおさんに渡しちゃった!」

彼は照れくさそうに言う。

中身を一緒に見る。
私たちの軌跡だ。写真が2人とも好きでよかった。
笑い顔もおどけた顔も、どんどん似てくるのが分かる。
私の写りのいい写真ばかりで、彼は目をつぶってる写真も多い。
一つ一つの思い出を遡る。

見終わって「本当にありがとう」と彼の方を向くと、
プリザーブドフラワーを持っていた。
ピンク水色黄色、色とりどりの花の向こうに、少し困った顔の彼がいた。
なんで、そんな自信なさげなの?笑

そして告白をしてくれた。
「遅くなったんだけど」
と照れくさそうに。

散々ふたりで泣いた。
なんでだったけ。
本当は鮮明に覚えてるけれど覚えてないことにしたい。


嬉しくて、未来が輝いて。2人のこれまでとこれからを思って。彼が可愛くて、泣き顔がブサイク過ぎて。
彼が泣くから続いて泣いてしまった。

「よく、プリザードフラワーなんて知ってたね?」
と聞くと
「告白といえば、花じゃん?」
と彼は涙目で嬉しそうに言っていた。

私が生涯で男性から貰った唯一の花だ。
どうして枯れない花をくれたんだろう。

別れてから、ずっと仕舞っていたけれど、
自分に嘘はつかないと決めてから、外に出してあげた。

飾ってみる。
私のなにもない小さな部屋を鮮やかに彩る。あの日のまま変わらない色彩だ。

この前彼から電話が来た時。
彼は辛そうな声をしていた。
隠しているんだろうけど、彼の秘密事はあのアルバムのこと以外全てお見通しだ。
というか、分かりやすすぎて彼以外の全ての人がお見通しだろう。

生きてたら辛いこと沢山あるよね。
聞いてあげられないことが歯痒いけれど、彼は聞いて欲しいなんて思ってないんだろうな。

彼の部屋からは、春の緑が見えているんだろうか。
どうか、彼の心が少しでも彩りますように。
そして彼の心が回復しますように。
写真を撮りたいと思うほど綺麗な春の景色を見れますように。

そして、いつかの話。つぎは、私から花を渡すね。
「告白といえば花じゃん?」

私が自分で初めて花を買う日が、この理由であればいいな。
そんなことを思った日。




カレンダーを見る。
取引先とのアポイントを決めるために、
先方は「忙しいので、まだ先なんですけど。ついたちでいいですか?」
と聞いてきた。
スケジュールをめくって確認して大丈夫ですよ。

と答えて。
ついたち?しがつついたち?4月、4月。。。
4月になってしまう。
新年度なんて勝手に人間が決めた決まりだけど、
さすがに焦る。
目標も達成してない。成長もしてない。彼に好きとも伝えてない。
時だけが過ぎてく。

少し絶望。

そんな日、唯一の男友達に仕事終わり車で買い物に連れて行って欲しいと言われた。
了承し、彼を迎えに行く。
少し遠くが行先だったので、他愛のない話をする。

彼は「いまの頭のまま、中学一年生に戻れるなら、どんな仕事したい?」と聞いてきた。

「うーん、分かんないや。
でも、勉強の仕方はあの時より分かってるはずだから、大学受験を真剣にしようかな。」

そんな話をしていたら、生まれ変わっても会いたい人の話になった。

生まれ変わっても会いたい人か。。。
友達も生まれ変わってまで、私と会わなくていい。
両親も私より違う子の方が幸せだろう。

好きな人はどうだろう、、
生まれ変わって、また会ってしまったら、また好きになってしまって振り回されるかもしれない。

「うーん、、、いないなあ、
強いて言うなら、大学の友達かな。
でも、私の知らないとこで幸せなら。どうせ私がいてもいなくても変わんないだろうし。別にいいや。会わなくても。」

「悲しいね」

「そうかな。やっぱり?」

「でも、それが君の選択の結果だからね
寂しい人間なのも自分のせいだよ。」

酷いこと言うなー。
そうだけど。事実だけれどさ。

私が、私自身が選択を間違ってきたんだろうか。
私が間違ってきたから、寂しい人間なのだろうか。
私がこうして選択してきた結果がこの苦しみなのかな。

もし生まれかわったら、双子として生まれたいな。
同じ年齢で、弱音を吐いても良い存在が欲しい。心の中を全部見せれる人が欲しいな。
でも私の双子として生まれたら可哀想かな。

4月になれば、、春が来れば、焦りが増すのかな。また絶望するんだろうか。
それとも、自分をもう少し許せるようになるのかな。
北海道で花が咲くまではもう少し。もう少し。頑張れるかな。

そんなことを思った日


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