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カンパニュラ・ホテル、の日。


2023.5.25

ときどき、木曜日の夜、

パートを終えて
一度、アパートに帰り、

ベランダで育てた苗などを持ち、

庭へ行くのは、
庭の町の可燃ごみの日が、

金曜日だから、で、ある。


なるべく、庭で、
ごみを出さないように

花殻や咲き終わった花茎などは、
日に当てて、乾かして、

マルチにしたり、

土に還れ、と、
埋め込んだりしているが、

それでも、まだ、
荒れ果てている庭は、

ごみ、として、
出さねばならない枝や葉や
雑草が、出てしまう。

なので、
月に一度くらいは、
金曜日の朝に、庭にいる
必要があり、

わたしは独り、
夕方のラッシュの終わりごろの
列車に乗って、庭のある村へ
向かうのだ。



駅から乗った、バスを降り、
夜道を歩きながら

ヨルニワ、へと向かうとき
すこしく、緊張する。

10日ぶりくらい、の

特に、植物さんの
生育著しい春と夏、は

《庭で何が起こっているか》と
緊張する。


階段をのぼり、
庭が見えてくるとき、

荷物を家の玄関に置いて
夜目をこらして
庭をひとめぐりするとき、

(何かが必ず起こっている、
のが、庭だから)

《それ》を発見するとき、
驚きや喜びにカラダが満ちる。


ダリアさんが咲いていた。

早春にアパートで種を蒔き

双葉から、おおきくなってきた頃。


苗を大切に育てた
ダリアさんたちが
いよいよ、咲きはじめていた。

ファムファタルなお方。
艶めかしくて、きりっ、としている。




カンパニュラさんが、満開だった。

濃い紫と薄い紫と淡いピンクが
夜のなかに、浮かびあがるように
咲いていた。

わー、
こんな風に咲くのね、と

iPhoneで、ライトをつけて
感嘆、観察する。

(写真やインターネットの動画で
咲いている姿を見ても、
それは、知識として頭で見た、ので
ほんとうに見る、とは違う。)

しみじみと仔細に眺める。
一度離れて、また、近づいて。


街灯のひかりを
花のなかに入れて
ランプみたいに、光っている。

ホテルみたいねえ、と思う。

疲れたいちにち、夜道を歩き、
灯がともっている
カンパニュラを見つけたら

わたしが小人だったら、

やれやれ、今夜は
ここに泊めてもらおう、と

思うに違いない。

今夜の安息は、ここに在る、と。

わたしは、薄むらさきの
高層階の部屋に
チェックインすることに、決めた。

(空想は、瞬時に果てしなく湧く)


カンパニュラさんの苗を植えたのは、
一月末の、寒い寒いころ、だった。

うまく育つかなあ、と
JAで購入したちいさな苗に、
霜に負けないように、と、
藁をかぶせた、のだった。


あの冬の日から、4ヶ月を経たら
カンパニュラ・ホテルが
夜庭にできていた。

ほんとうに、庭は
何かが、必ず、起こる。

しづかに、密やかに。


他に起こっていたことは、

カモミールの背丈が高くなりすぎて
根元から折れるように
土の上にどさりと倒れている、

だった。


夜なのに、鋏を持ち、
根元から、剪った。

カモミールの、
青林檎みたいな匂いが
夜庭に満ちて、

わたしは、それを抱えて
庭の中央にあるテーブルへ置き、

ようやく、家の鍵をあけ、入った。


コンビニエンスストアで買った
簡単な食事をして、シャワーを浴び、

あたたかい紅茶を飲んでから、
布団を敷いて、寝た。

ほんとうの
カンパニュラ・ホテルで
眠るような、心地だった。


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