どぅるんべ
おい、君。 君だよ君。
あーもう、これ読んでるお前でいいよ。
足の親指の爪に溜まったあの臭い垢は知ってるか?
あの垢からゴミや埃なんかを取り除いた純度100%の垢の事をどぅるんべって言うんだ。
お前のどぅるんべ俺にくれよ。
あんなもん、掃除でもしなきゃ溜まる一方だろ。
見たところ君は社会でちゃんと生きてそうだな。
なら尚更いい。
俺には分かるんだよ。 口に入れて鼻に抜ける香りの中から、持ち主の心情が。
あんた、社会人ならストレス溜め込んでんだろ?
殺したいくらい憎んでんなら尚更いいんだよ。 上司でも親でも誰でもいい。
殺意はどぅるんべにも宿るからな。
思いは強ければ強いほど、葛藤があればあるだけいいんだ。 そうすれば食った後に1冊の小説を読んだような気分になれる事さえもある。
それが俺がどぅるんべをやめられない理由なんだ。
俺からしたら情報の種とも言えるかもな。
溜まってんなら俺にくれよ、お前のどぅるんべをよぉ。どうせ捨てんだろ? ただの汚ねぇ垢だもんな。
汚ねぇ人間が作り出した汚ねぇ価値観の中では無価値な汚いもんだろ? そうすると人間嫌いの俺からしたらそんなものほど欲しいんだよ。
美しくて輝いてるんだ。
お前らの欲や興味から逃れれた汚れのない価値あるものだからな。
そして俺がそっち側の世界を覗ける唯一の手段でもあるんだ。
にしても、あれの正体はなんだろうな。
自分から出た垢ももちろんあるだろうけど、俺の推測ではあれはもともとここら辺を揺蕩ってた、いつかの誰かの感情なんだ。
持ち主から離れた憎しみや怒りや悲しみなんかだ。
そいつらが力尽きてそこらに落ちて横たわってんで。
そんなのが吸い寄せられてか、自らの意思なのか親指の隅に収まり、長い時間かけて密着して、最後の力を合わせて臭いや色を出してるのかもな。
星の消滅前の最後の輝きみたいだな。
なぁ、とにかく俺が怪しいやつじゃねぇって事は分かっただろ? 早くやこせよ。
じゃねぇと、ひっくり返して無理やりとっちまうぞ。 例え女でパンツ丸見えになってもその奥の穴に見向きもせず爪でカリッとどるんべ取っちまう。
狩りだな。
エアマックス履いてたってどぅるんべ取れりゃそんな俗なもん返してやるよ。
そのうち去勢された野良猫の耳の印みたいに、外歩いてるやつらみんね恐れて足の親指の爪の端をカットしちまうかもな。
そうすると今度俺はカットされた破片の方に興味が湧きだすかもな。へへ。
なぁ、おい。
欲しがられてるからって値打ちなんかこくなよ、早くよこせよ。
親指の爪を切っている時に思いつきました。
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