北極


小さい時車で15分ほどの距離に小さな遊園地があって小学校低学年の頃に閉園してしまうまではよく家族で遊びに行っていた。

空中自転車やら、お化け屋敷やら、小さいジェットコースターやら様々朧げな記憶として存在しているけれど一つだけ北極体験。のような歩いて回るアトラクションがあった事はひどく鮮明に覚えている。

中に入るとひんやりなんてもんではない冷気が溢れており、ペンギンコーナーやらシロクマコーナーやらにわかれていて、一つ一つ進んでいく。
ある日初めてそれに入りたい。と言ったら
私が言い出したのかなんなのか一人で入る。と言うことになった。
入った途端の冷気や仄暗さがお化け屋敷みたいで既に怖かったけれどここで戻るわけにも行かずペンギンもシロクマももう正直どうでもいい、早く出たい。と言う気持ちで突き進んでいた。
最後の最後の部屋に入ると突然扉が閉まり、煙と雄叫びが聞こえて大きなトドがライトアップされ、もう私は限界だった。扉を叩いたし、泣く暇もなく助けを求めた。
何十秒か経ち、扉が開いた時アトラクションは終わり出口の光が見え、のほほんと祖父母が待っていた。
泣いたらおしまいだ、と思い「楽しかった」とだけ精一杯口に出したと思う。
そこで涙を流せたらよかった気もするし、怖かったと言えたらよかった気もする。
それ以降その根性が染み付いてしまったような気もする。
怖いとか、不安とか。言えた方が可愛げと言うよりは大人になった今面白みがあるような気がしている。
無理をして、大丈夫でしょ〜と言う時にいつも思い出すのはあのライトアップされたトドの顔。

先日水族館に行きトドの剥製を見た時にまた思い出したんだ。

怖いとか、辛いとか、不安とか口に出した方が面白みがある気がする。
私はものすごく最近に気付いたけれど、早くから知っていたらもっと面白いに変えることが出来たこと沢山あるような気がする。

今思い出しても、あの日のあの北極体験は、免許を取った後初めて事故を起こした日より、たまたま迷っていたら辿り着いてしまった心霊トンネルより、財布を1日に2回落とした時より、何より怖かった。

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