第8回:『ウマ娘』 オタクの異種混合交流戦

 「ガルパンはいいぞ」という定型句がある。劇場版ガールズパンツァーの出来が非常に良く、各方面のオタクおじさんたちを唸らせるほど造詣が深かったことを簡潔に言い表したものだ。そして「ウマ娘 プリティーダービー」においても、似たような評価をできるのではないかと思う。メディアミックス作品であり、公開が遅れた経緯があり、そもそも美少女擬人化作品である…と、ガルパンと共通点の多いこのタイトルを、「ウマ娘はいいぞ」で終わらせずに敢えて語ってみることにしよう。



1.競馬おじさん…原作再現とifストーリー

 改めて書かずとも周知の通り、ウマ娘は実在の競走馬をモチーフにしたキャラクターであり、その再現性は一目の価値がある。例えば看板娘の『スペシャルウィーク』は、実馬の顔の中央だけ白い模様があった。それを踏まえてウマ娘では、前髪の真ん中だけ白抜きにするというデザインになっている。

Netkeiba.com
ウマ娘公式ポータル

 外見以外にも、元馬の父・母を猛烈に尊敬しているだとか、ホーム画面での会話が実際の厩務員の自腹エピソードだとか、シナリオ中でやたら濃ゆいモブが出てくると思ったら現実で縁のある人物だっただとか、とにかく史実のネタは枚挙に暇がない。

 では史実をそのまま準えるだけかと言うと、そんなことはない。「もしあの時のレースの結果が違っていたら」というif展開を(創作とはいえ)味わえるのだ。ゲームならではである。
 これを語るのに適任なのは、やはり「サイレンススズカ」だろう。レース最初からぶっちぎりで先頭を走り、そのまま後続の追随を許さずゴールまで行くという、大逃げの走りで観客を沸かせた馬である。
 しかし98年の天皇賞(秋)のレース中に前脚を骨折してしまい、その後間もなく安楽死となった。競馬に無知な筆者(当時)でも「オグリキャップとハルウララと、そういう逝きかたをした馬がいる」と知っていた程度には有名な出来事である。
 ゲーム中では、キャラクター個別のシナリオだけでなく、メインストーリーにも抜擢されている。このメインストーリーではチームの仲間たちの応援によって、怪我を起こすことなく駆け抜けるという展開になっている。前後の演出も含めてとても盛り上がるシーンであり、当時の経験者の感動はおそらく筆舌に尽くし難いものだろう。


2.ゲームおじさん…名作いいとこ取り

 こちらも一見ですぐ気付く周知の事実だが、ウマ娘の基本システムは「実況パワフルプロ野球」のサクセスと瓜二つである。パワプロは20年以上続く超ロングランシリーズであり、サクセス部分だけを切り取ったアプリが出るほど人気のゲームだ。その原型は同コナミ製の「ときめきメモリアル」から受け継がれていて、少しでも触れたことがあれば、その奥深さはわかると思う。
 目標とするステータスのためにどのコマンドを選ぶのか、体力と成功率を天秤にかけた判断、残りターンや季節の確定イベントを見据えたスケジューリングなど、ランダム要素と確定情報のバランスが、周回プレイ向いた良い塩梅なのだ。

 また、競走馬育成ゲームと言えば真っ先に「ダービースタリオン」が思い浮かぶが、そこからも着想を得ている。
 ダビスタの肝は「良い才能を持った親同士を掛け合わせ、より強い子を作ってゆく」という部分だ。これはウマ娘では因子と継承という形で表現されている。
 まず育成完了時に得られる因子がランダム性が高いので、「良い才能を持った親」の幅が広く、作ることから難儀する。強い親が良い親とは限らないのもミソだ。
 ここから継承に進むと、距離適性が似ているかやら、レースに勝っているかやら、実馬での関係性がどうだやらのマスクデータが加わり、組み合わせが無数に広がっていく。
 出来上がった継承表を眺めていると、さながら本物の血統書のようである。

 これらのシステムのニクいところは、見せ方の上手さだ。極論を言えば、育成後のレースを含めてまるまる運ゲーなのだが、プレイヤーの選択次第で確率が上がるような
システムなので、理想を求めて周回プレイをしてしまう。
 知識には左右されるが操作は複雑でないので、カジュアルプレイヤーもガチ勢も楽しめるのだ。気軽に育成した娘がとても強くなったとあれば、ハマってしまう人もいるだろう。

 高みを望まなければ、対人戦に向けて廃課金や苦行をする必要がない部分も、ささやかながら付け加えておく。


3.アイドルおじさん…ライブは数だよ

 推し活の部分も無視はできない。拒否反応を示す人も一定数いるが、やはり全キャラ美少女化というのはそれだけでユーザーの呼び込みやすさが上がる。いつの時代もイケメンとカワイイは正義なのだ。
 そしてその可愛い女の子が歌って踊るライブムービーを、レースの後の第二の目玉として採用することで、公式的にアイドル化・推し活を推奨している。実装人数100名に迫る勢いなので、選り取りみどり、大勢の中から好きな娘を探してね、ということだろう。現実での秋元康(AKB48)が取ったスタイルだ。

 では、ただ人気を得やすい方法を安直に選んだだけかというと、そうでもない。ゲーム内でライブムービーをいつでも見返せるのだが、このクオリティがすこぶる高い。
 まず曲自体が数十曲実装されており、そのひとつひとつに振り付けと演出が付けられている。現実のライブイベントと遜色ない…どころか、2次元だからこそできるもの(ジャンプしたら衣装が変わる、など)も散見される。
 そこに、モブを含む千差万別なキャラ骨格と衣装差分が無数の組み合わせで存在しており、全て破綻せず動き回るのだ。これだけで1本のゲームになる。その完成度たるや、とあるプロデューサーさんをして「その技術でアイマス作らない?」と言わしめた程だ。

 そしてサイゲームスは、それを現実でも実行するという、ある意味暴挙にも出ている。「ウイニングライブ」と称して毎年、担当ウマ娘の衣装に扮したキャスト達が実際にライブで歌とダンスを披露している。これはサクラ大戦でもとられた手法に近いが、あちらは1公演あたりのヒロインが10名以下なのに対してこちらは最低25名。規模が違う。

 キャラの数が多いというのはメディアミックスにおいても有利にはたらく。キャラクターグッズやコラボ企画を発表する際の手札が際限なく出てくるからだ。作る方にとっても選り取りみどりなのである。
 実際、アニメ1期〜3期&外伝・コミカライズ数作・舞台・劇場版とさまざまな媒体で、主人公が全員違う。因縁のある競走馬もウマ娘化しているので、物語のタネには事欠かないのだ。


4.お互いの沼へ…

 このように、各方面のオタク達から評価を得た結果、ウマ娘は多くのファンを巻き込んだ巨大コンテンツへと成長した。
 しかしただクオリティが高いだけでなく、関係者への配慮が行き届いているのが上手くいった要因だろう。
 競走馬をモチーフにする際、無断使用しても法律上は問題ない(らしい)のだが、所有者へのリスペクトとしてサイゲームスは全て許可を取っているとのことだ。また公式ガイドラインにおいて、二次創作をする際は元の馬のイメージを著しく損なう表現を避けるように明記している。

 そのような姿勢がファン達にも好評を得たおかげか、お互いのコンテンツに手を出しやすくなっているようだ。ここ数年で競馬場に入場する客層は若年層が爆増したそうだし、普段行かない舞台を観に行って感動した人もいるらしい。ゲーマーとしても、同じゲームを語れる同志が増えるのは、いつ経験しても楽しいことではないか。


結びに

それまでサイゲームスの代表作と言えば「グランブルーファンタジー」や「シャドウバース」あたりだった。どちらもヒット作と言えるし、息も長い。ただ、どうしてもスマホアプリの域を出ない印象だった。
 ウマ娘は、別ベクトルのジャンルを掛け合わせると間口が広がるという好例になってくれた。筆者も、全く知らなかった競馬のアツい物語を知れたし、推しも出来た。これこそが、ゲームを超越した、メディアミックス作品の持つ力なのかもしれない。


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