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中間宿主さがし

吸虫(二生)類の中間宿主は、終宿主が生息する地域の川や海に生息している無脊椎動物です。水産無脊椎動物は星の数ほどいるので、「川に生息している無脊椎動物」といわれても見当がつきません。基本的には、論文や教科書の情報をもとに検討をつけますが、調査地点にどのような動物が生息しているか知らなければなりません。中間宿主さがしに必要なのは、まずは川遊びでした。網を片手に魚·エビ.貝昆虫をとりまくりました。

調査地点にいたのはカワニナだけ

幸いなことに、二生類の第一中間宿主は貝類軟体動物)に限られています。そして、新たな調査河川には、カワニナ類(おそらく1、2種)しかいませんでした。また、魚もオヤニラミをはじめ5種程度しか確認できなかったので、時間をかけずにオヤニラミの吸虫の中間宿主を見つけられると考えていました。
しかし、実際にカワニナをもちかえり解剖をしてみると、考えの甘さを実感しました。

カワニナinカップ

寄生虫の取り出し方

第一に、調査地点のカワニナにあまり寄生虫がいませんでした。毎月1回調査をしていたのですが、カワニナを 20個体解剖して 2,3個体から寄生虫を得られれば良い方で、寄生虫がいないこともたまにありました(感覚で5%くらいの寄生率でした)。毎月確実に寄生されているカワニナを持ち帰りたければ、毎月100個体は必要でした。そんな数のカワニナは扱えませんし、年間通して行うと1000個体以上持ち帰るため生態系に影響を与えてしまいます。
後に、カワニナを潰さずに寄生虫を取り出す方法を知ることになりました。写真のように直径5 cm深さ3cmほどのカップに、カルキを抜いた水を入れた後に、カワニナを入れるだけです。この状態で一晩置いておくと、カワニナの体内にいる寄生虫が出てきます。この方法によって、寄生虫のいないカワニナをもとの川に戻すことが可能になりました。

幼虫

ムシも色々

次の問題は、カワニナの寄生虫の種類でした。調査地点の魚の種類数から、3〜5種類程度の吸虫の幼虫が出てくると想定していました。しかし、実際にはカワニナから出てくる寄生虫の形態は全て異なっていました。形態が多様な理由の1つに、吸虫類はカワニナの体内で、袋状のスポロシスト平扁なレジア尾のあるセルカリアというように形態をかえていることがあげられます(写真左がレジア, 右がセルカリア…かな?)。

そしてなによりカワニナを第一中間宿主としている吸虫の種類がとても多いことも問題でした。これが中間宿主さがしの難しいところでした。カワニナの寄生虫(吸虫の幼虫)は未熟で生殖器官(成虫の種同定は生殖器官の形態で行うことが多い)はおろか、消化器官や吸盤も発達していないため種同定ができません。カワニナの寄生虫を魚やネズミにわざと寄生させてから、腸管内に寄生している成虫を種同定するという昔ながらの方法があるのですが設備の面から断念しました。

セルカリア

次はDNA解析!

カワニナに寄生している寄生虫の種類の多さに思い悩んでいた頃に、ちょうど勤務校で、単生類(吸虫類と同じ扁形動物)の DNA抽出やPCR法によるDNAの増幅ができるようになっていました。そこで、オヤニラミの吸虫の幼虫を探すのではなく、カワニナからでてきた寄生虫を片っ端からDNA 解析し、同じ塩基配列をもつ成虫とその宿主をさがすことにしました。

【参考文献】

湖と川の寄生虫たち 浦部美佐子 サンライズ出版

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