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世界的なマーケターがなぜフィッシャーマン・ジャパンを応援してくれるのか? Allbirds日本代表、蓑輪光浩さんインタビュー

私たちフィッシャーマン・ジャパンを強力にサポートしてくれている恩人の一人を紹介します。大ヒット中のシューズメーカー「Allbirds(オールバーズ)」日本代表の蓑輪光浩さんです。

Allbirdsのスニーカーと言えば、天然素材を使い、製造工程での「脱炭素化」を徹底している点が特徴です。デザイン性、実用性に加えて環境へのやさしさも兼ね備えた「エシカルファッション」として注目されています。

ナイキ、ユニクロ、レッドブル、ビル&メリンダ・ゲイツ財団とキャリアを積み重ねてきた蓑輪さんは、Campaign Asiaで「最も影響力のあるTOP50マーケター」に選ばれるほどの実力の持ち主。そんな蓑輪さんがなぜ、フィッシャーマン・ジャパンを応援してくれるのでしょうか。インタビューしました。

快適かつ環境にやさしいAllbirdsのスニーカー


Allbirds公式サイトより

――蓑輪さん、じゃなくて今日もいつも通り「ミッツさん」とニックネームで呼ばせていただきますね。

蓑輪 どうぞ(笑)

――ではミッツさん、まずは現在日本代表を務めているAllbirdsについて教えてください。

蓑輪 Allbirdsは2017年にサンフランシスコで誕生したライフスタイルブランドです。主にスニーカーを扱っていて、世界40カ国ぐらいで展開しています。日本では3店舗とeコマースを行っています。Allbirdsがスニーカー作りで一番重視しているのは「快適さ」です。同じ靴で1日1万歩ぐらい歩くこともあれば、体重の10倍ぐらいの力が靴にかかることもあるので、快適な足入れと足の運びを実現できるかどうかがとても大切です。

でも、もう一つとても大切なことがあります。ファッション業界は世界で2番目に二酸化炭素を排出している業界なんです。たとえば靴底を作る時には石油由来の材料を使っています。また、クローゼットの中に眠っている靴や服がたくさんあるように、過剰供給・大量廃棄の問題もあります。

Allbirdsの公式サイトでは詳細なサステナビリティレポートを見ることができる

Allbirdsは地球へのインパクトを減らす方向に1人1人の行動が徐々に変わってほしいと思っています。だからスニーカーには石油系のものではなく、なるべく天然素材を使用しています。靴底で言うと主な原料はサトウキビです。生育時に光合成を行うサトウキビは、その時点で二酸化炭素を吸収して酸素に変えてくれます。また、栽培時に灌漑の設備をあまり必要とせず、生産地への環境負荷も低く抑えることができます。

あと、フィッシャーマン・ジャパンの皆さんにも履いてもらっているメッシュの靴ですが、あれはユーカリの木からできています。木も同じく光合成していますよね。そうやって天然の素材になるべく置き換えていくことを常に考えています。

世界的なマーケターがなぜ石巻に?

――マーケターとして世界を股にかけて活躍しているミッツさんですが、震災後たびたび石巻を訪れていますね。私たちフィッシャーマン・ジャパンにも貴重なアドバイスを授けてくれていて、フィッシャーマン・ジャパンの中にもAllbirdsのスニーカーのファンがたくさんいます。フィッシャーマン・ジャパンに関心を持ってくださったのはなぜでしょうか?

蓑輪 漁業も地球環境の影響が大きいですよね。靴を作るAllbirdsと漁業を盛り上げるフィッシャーマン・ジャパンは業界こそ違うけれど、目指している方向は一緒かなと思いました。かつ、漁業は高齢化の問題を抱えていますが、その高齢者の社会となんとか結びつこうとしているFJの若い人たちの姿にすごく共感するものを感じた側面もあります。

2022年6月 FJの拠点がある石巻まで会いにきてくださいました

――もともとはどんなきっかけで石巻に関わるようになったのですか? 

蓑輪 最初は僕がナイキで働いていた2012年の頃でした。当時は「ISHINOMAKI2.0」が始まっていたので、少しでもサポートしたいと思って、ナイキとしてISHINOMAKI2.0に広告を出稿したんです。それからずっと石巻のことがすごく気になっていました。その後、これはAllbirdsに入るくらいの時期ですが、FJの「Gyosomon!」ってあるじゃないですか。あれに応募しようと思ったんですよ。そうしたらすでに締め切られてしまっていて(笑)。それで知人に頼んで長谷川琢也さん(FJのCo-Founder)を紹介してもらったという流れです。

ISHINOMAKI2.0 “世界で一番面白い街を作ろう”というコンセプトで始まった石巻の地域おこしプロジェクト  ishinomaki2.com
Gyosomon! 他業界で活躍する人材がその知識やスキルを基に副業として水産業者を支援するフィッシャーマン・ジャパンのプロジェクト。「お金」ではなく「現物(魚)」で報酬をもらえるところが最大の特徴。

――そうだったんですね。ISHINOMAKI 2.0は「震災」がキーワードになっていると思います。そこから「漁業」の関心も高まっていったのはなぜですか?

蓑輪 昔から魚が好きだったんですよね。家の近くに多摩川という川があって、小さい頃から魚を釣りに行っていました。あとは母親が逗子の生まれだったので湘南でも釣ってましたね。大学受験の時、父親から「そんなに魚が好きなら水産大学を受けなさい」って言われたほどです。結局は普通の大学に行ったんですけど、やっぱり心の中にちょっと思うところがあったんでしょうね。

ビル&メリンダ・ゲイツ財団という、ビル・ゲイツさんが持っている世界で最も大きなプライベートな財団に在籍していた頃のことです。ゲイツさんのチームと話し合う中で、「どうやって世界を救うのか」ということを真剣に考えるようになりました。ビル&メリンダ・ゲイツ財団はグローバルヘルスと言って途上国の医療支援などがメインでした。僕は気候変動などの問題に取り組みたい気持ちが強まっていて、それでAllbirdsに移籍したんです。そんな思いがふつふつと沸き上がっている時期にフィッシャーマン・ジャパンのことを思い出し、Allbirdsの仕事と昔から好きだった「魚」「漁業」「環境」を結びつけることができないかと思ったんです。

日本の食文化はもっとプレミアム化できる

――水産業というフィールドを客観的に見た時、ミッツさんはどのような点に興味を持っていますか?

蓑輪 来日経験がある外国の友達が必ず言うのは、「日本の寿司屋の味を知ってしまってから自分の国では寿司を食べられなくなった」ということです。日本の寿司の魅力は素材の良さだけでなく、魚のさばき方や鮮度を維持する技術など多岐に渡っていて、もっと海外に向けてプレミアム化やブランディングを進める余地があります。そこは自分がお手伝いできるところかもしれないと思っています。

フレッシュで食べる魚の美味しさと、ちょっと寝かせて食べる美味しさとの違いとか、本当はいろいろあるじゃないですか。こういうのも海外の人はまだほとんど知らないと思います。日本には「限りあるものをなるべく美味しく食べよう」っていう文化が昔からあるし、それが現代にも深く浸透していると感じます。海外にまだ十分伝わっていない日本の食文化の魅力だと思いますね。

campaign "Asia-Pacific Power List 2022" に掲載されている

――さすが「アジアで一番のマーケター」ですね。

蓑輪 「1位」じゃないよ。「50位以内」ですよ(笑)。あとは、国内の売り場を眺めていると、いろんなものを出し過ぎなんじゃないかと思うことがしばしばありますね。道の駅に行くと商品がすごくいっぱいあるじゃないですか。いろんな缶詰があって、いろんな業者が混在していて、角煮もあれば蒲鉾もある…。どれを買ったらいいか分からなくなります。それが日本の良さのような気もするのですが、もうちょっと絞ってもいいんじゃないかなと。

ほぼ一緒の味なのであればパッケージとかも一緒にすればいい。細々したところでちょいちょいビジネスするぐらいだったら、一緒にまとまって売った方が海外へ売る時に分かりやすいと思うんです。

たとえば似たようなサバの味噌煮を5社が作っているとしましょう。商品が多ければラベルをいくつもデザインしなければいけない。一つ一つの商品を管理するシステムも必要になる。商品をまとめるだけでこれらの余計な資源や費用をかけなくて済みます。個々の生産業者さんの味へのこだわりなどについて、どのようにアライメントを取るかという課題はあります。でも、今のビジネスが5倍になるんだったら、「レシピを一緒にしましょう」とか「うちの秘伝のレシピを教えましょう」という業者も出てくるかもしれません。

――それは結構、「目からうろこ」です。バリエーションがあればあるほど良いという先入観があるような気がします。

蓑輪 逆のことを考えてみたらいいと思います。モーリシャスのタコについて、現地の人はA湾で獲れたタコのほうがB湾産やC湾産よりも質が高いと思っているわけです。でも、日本の業者はみんな「モーリシャスのタコ」として輸入しているわけでしょう。それを考えると、石巻産があって気仙沼産があって、産地ごとにいろいろなブランドがあってというのは、もう少しまとまってもいいんじゃないかなと。

――今のご意見を聞くにつけ、ミッツさんが水産業のことを深く考えてくれているのを感じます。私たちにとっての強い味方です。

蓑輪 お手伝いできることがあれば何でも言ってください。僕は人間が覚えていられるのは3つぐらいだと思っています。たとえばメニューを見た時に、美味しいものが10個書いてあっても覚えられません。同じように水産業の魅力も三つぐらいにそぎ落とさないと伝わらないのではないかと。

Allbirdsでチームのみんなにいつも言っているのは、「なるべく絞る」ということです。重複している言葉を削り、丁寧すぎる言葉も必要ない。なるべくそぎ落とし、シンプルかつシャープにしていくことを求めています。そうじゃないと幕の内弁当になって、「このお弁当、美味しいんだけど…」と鮮烈な印象を残しにくくなります。

まずは自分たちの商品・サービスをピカピカに

――海洋環境への取り組みとして、日本では今、ブルーカーボンが話題になっています。ミッツさんはこの点をどのように見ていますか?

蓑輪 正直言ってカーボンクレジットにはあまり興味がありません。クレジットを創出して、環境問題を金融商品に変換している印象が強いんです。それよりも、どうやってCO2を吸収するかに重点を置くべきだと考えています。

日本はまだカーボンクレジットの概念が浸透してから日が浅いので、脱炭素対策の手法として受け入れられていますが、海外ではもう、「グリーンウォッシュ」の一つとして考えられてしまっています。たとえば製造業が石油をバンバン使っておきながらクレジットを買って帳尻を合わせるというのはちょっと違うんじゃないかと。Allbirdsは今、「カーボンクレジットを買うのはもうやめよう」という議論をしています。本当に気候変動対策として効果を上げるために、再エネや自然保全に投資していく流れになってきています。

――とはいえ、国内ではブルーカーボンの取り組みを進めるために頑張っている現場の方たち、特に漁業者の方々がたくさんいまして…。そういう人たちはどういう方向に進んでいけばいいでしょうか?

蓑輪 漁業者の方々には美味しいものを獲り、生産するところに集中してもらったほうがいいのではないかと思います。カーボンクレジットという仕組みは残ると思いますが、それにこだわり過ぎないことが大切でしょう。環境対策としてはむしろ、船の油を環境に配慮したものに変えるとか、余計なものをなるべく作らないようにするとか、無駄を省いた漁業を営む方向に注力すべきであり、そうした努力が総合的に評価される必要があると思います。

漁業者の方々にとっては美味しいものを獲ること、生産することが生業なはずです。やっぱり生業が大切なんです。Allbirdsもサステナビリティだけでは買ってもらえません。履き心地が良くてデザインもフィットする、お財布事情にも見合っている。そういう前提の上でサステナビリティを評価して買ってくれるわけです。自分たちの商品やサービスをピカピカにしていくのが、一番大事じゃないかなと思います。

FJ代表理事が勤める漁業生産法人浜人も、ワカメでASC認証を取得した

「これはカーボンクレジットで生まれたワカメです」っていうのと、「これは石巻の自然に育まれたワカメです」というのだったら、消費者はやっぱり後者の方を買います。もちろんパッケージにカーボンクレジットの認証ロゴが入るのはいいと思うけれど。

――そういう部分はフィッシャーマン・ジャパンが進めている国際的なサステナブルシーフード認証「ASC」についても言えますね。日本でサステナブルシーフードが浸透しない理由の一つには、取り組んでいる人たちがあまりにも「やってます」と言い過ぎているのかも。

蓑輪 「暑苦しい」と思われてるかもしれない。僕らも思われてるけど(笑)。でも認証はあった方がいいです。そうしないと結局、価格差で選ばれてしまうことがありますよね。価格じゃなくてその価値が大切で、ASC認証されている魚介類を使うこと、食べることが、当たり前だけどカッコいいという流れを作るのが大切かと思います。パタゴニアは良質だし、持っているだけでカッコいいし、何かいいことをしているみたいな満足感があるじゃないですか。Allbirdsもそういう風にしなきゃいけないと思っているし、フィッシャーマン・ジャパンに引きつけて言えば、「ASC認証がついた商品を買うのが心地いい。そんなにお財布とのギャップもない」みたいな世界に持っていけるといいですね。

失敗してもいい。いつもフルスイングを

――フィッシャーマン・ジャパンの活動の中でミッツさんが一番共感してくれているのはどんなところですか? 

蓑輪 やっぱり漁業に革命を起こそうとしている点です。漁業の仕事をいかに魅力的に見せるか。若者に刺さるようなコミュニケーションに取り組んでいると感じます。石巻を基軸にして地域の加工会社やアカデミアの方々とも連携して、単なる人手不足対策ではない本質的な課題解決を目指すシンクタンク的なアプローチをしている点もすごくユニークです。さらに最近は石巻で得た知見を他の地域にも展開しようとしているじゃないですか。本当に革命的だなと思っています。

Mitsさんは定期的に石巻を訪問してくださっている

――ミッツさんが初めてフィッシャーマン・ジャパンの視察に来てくださったのは2年前です。そこから試行錯誤を続け、ようやく海外輸出についても本格的に展開できるフェーズに入ったと思っています。そんな私たちにメッセージをお願いします。

蓑輪 岩手県出身の大谷選手がなぜかっこいいかと言うと、もちろん性格もあるんだけど、フルスイングするじゃないですか。他の野球選手もそうだけど、フルスイングする人はかっこいい。フィッシャーマン・ジャパンも失敗したっていいから、いつもフルスイングしてほしいですね。そのエネルギーみたいなものを見て、たぶん石巻のおじいちゃんやおばあちゃん、ベテランの漁業者の人たちは「若いっていいね」と感じると思います。バットを当てに行ってはダメです。失敗してもいいから突き進むことです。それをしないとたぶん革命は起きないし、他の人と同じことをやってもフィッシャーマン・ジャパンの意味がないと思いますね。

――沁みる言葉です。結成から10年になり、「守りに入ってるな」という瞬間もあるので…。

蓑輪 僕もあります。まあ、3回しか振れないからね(笑)。組織ってやっぱり初期メンバ―の熱量がとても高いんです。時間がたったり世代交代があったりすると、なんとなく雰囲気に慣れてしまう部分がある。だから10年の節目とかに初期メンバーの人の話を聞くと、今働いている人たちは「こういう人たちが作ってくれたから今があるんだ」と感じます。そうして新旧世代が融合してくると、また一段と強いチームになれるんじゃないでしょうか。

――ミッツさん、10年目を迎えたフィッシャーマン・ジャパンへの熱いアドバイス、ありがとうございました!

蓑輪 こちらこそです。僕も漁に連れて行ってください(笑)。

蓑輪 光浩 (ミノワ ミツヒロ)
オールバーズ合同会社 日本代表 1997年NIKE JAPAN入社。ワールドカップ、箱根駅伝、NIKEiDをはじめとしたマーケティングに携わる。2008年にNIKE EUROPE赴任。2011年よりユニクロにて、錦織圭らトップアスリート契約、PR広告戦略、商品開発に携わる。2016年よりレッドブルジャパンにてフィールド・マーケティングを統括。2018年にビル&メリンダ・ゲイツ財団 東京オリンピック プロジェクトマネージャー就任。2019年オールバーズ入社、2023年より日本総括マネージング ディレクターに就任。2022年Campaign Asiaにおいて、最も影響力のあるTOP50マーケターに選出。愛称は「ミッツさん」。


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