見出し画像

1月4日(木):書籍「疲労とはなにか」からの整理⑦

この1週間ほどは12月に発売したばかりの書籍「疲労とはなにか(近藤一博著)」を取り上げながら、本書からの学びを自社の事業領域(フィットネスクラブ運営)に沿って整理を進めているところです。

前段としては「疲労感」と「疲労」の違いに触れ、「生理的疲労」と「病的疲労」の区分のもとで、まずは生理性疲労から説明を進めて前回から病的疲労の内容に入りました。

改めて振り返ると生理的疲労は仕事や運動などで発生し、1日休めば回復するような短期的な疲労を指し、一方の病的疲労は、それが何ヶ月も続いて少々休んだぐらいでは回復しない疲労にあたり、書籍内で病的疲労として慢性疲労症候群、うつ病、新型コロナ後遺症が取り上げられています。

生理的疲労と病的疲労においては共通点がある反面、相違点もあり、それらは以下のように整理されています。

・疲労感の原因は脳が炎症性サイトカインにさらされることである(これは生理的疲労も病的疲労も同じ)

・脳が炎症性サイトカインにさらされる原因は次のとおりである
生理的疲労:抹消組織で産生される炎症性サイトカイン
病的疲労:脳内の炎症

・新型コロナ後遺症の脳内炎症の原因は、脳のコリン作動性抗炎症経路の障害である

一言でいえば生理的疲労と病的疲労の本質的な違いは脳内炎症の有無で、その違いを生むのは脳の抗炎症機構が正常に働いているかどうか、ということでした。

この機能が正常に働いていれば労働や運動による疲労で炎症性サイトカインが大量に産生されても脳内炎症は起こらず、通常の風邪などで高熱が出ても、この機能が正常に働いていれば疲労感はすぐに回復し、病的疲労にはならないのだそうです。

そうしたなか、脳の抗炎症機構に障害が生じてしまう要因に挙げられているのは著者が研究によって発見した「SITH-1(シスワン)」という物質になります。

詳細については書籍を手に取ってもらいたいのですが、割愛して説明をすると「SITH-1」が発言することで、嗅球細胞のアポトーシスが起こり、それによってアセチルコリンの産生低下を招き、それが抹消組織からの炎症性サイトカインを鎮静化させることができずに脳内炎症になる形です。

また「SITH-1」がつくるタンパク質に反応して産生される抗体をうつ病患者が持っているかどうかを調べたところ、約80%のうつ病患者が陽性で、陽性の場合のうつ病のなりやすさは陰性の場合の12.2倍にのぼるといいます。

それゆえ、うつ病を引き起こす危険因子であるのはもちろんのこと、先ほどの数字からすると「SITH-1がうつ病の原因である」といっても過言ではないほどの値だとのことでした。

なお、うつ病になる原因を考える場合は「環境因」と「素因」に分けられ、前者は置かれた環境が原因に関係するもので、後者は同じ環境のなかでもうつ病になる人とそうでない人がいるように、その人自身に由来する要素を指します。

前述した「SITH-1」は先の区分けでいえば素因にあたり、そこに環境因として掛け合わされるものが「ストレス」と「疲労」です。

「SITH-1」が発現していると、通常では問題にならない程度のストレッサーの負荷に対してもストレス応答が過剰に反応してしまうようです。

それによりストレス応答の疲憊期を招いて副腎皮質ホルモンの産生が低下して疲労負荷による炎症性サイトカイン産生の抑制ができなくなり、強い疲労感が発生することにつながります。

「SITH-1」の発見や新型コロナ後遺症の研究によって病的疲労のメカニズムが解明に向かいつつあり、現在はそれをもとにした治療薬の治験も進められている旨が本書でも記されていました。

そのうえで書籍内では疲労そのものをなくすことは危険であるし、「SITH-1」やうつも意味があってそうした物質や機構があるから、それをなくそうとすることは得策ではなく、人類が疲労やうつと上手くつきあっていくことが肝要である点を説いています。

この点でいえば私たちフィットネスクラブが担う運動指導や栄養、休養への助言は、それぞれが疲労の回復と密接に関係しているだけに、病的疲労にならないように果たすべき役割は大きいですね。

今回のように疲労を科学的に捉え、そのメカニズムをしっかりと理解したうえで、疲労回復指数を高められるような運動や栄養面でのサポートができれば良いと思います。

宜しければサポートお願い致します!