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【 Crew.2 】 パートナー企業/井上 栄治

2023シーズンより福井ユナイテッドFCのユニホームの胸元には、際立つロゴが入った。「イノウエ」―― 地元福井でも知名度は高くないが、オフィス家具業界のトップランナーとして知られるパートナー企業だ。

井上金庫販売株式会社は1907年10月、井上金庫店として創業。100年以上の歴史を持つ老舗は、現在オフィス家具販売の全国展開を手がけている。

創設わずか5年のサッカークラブとパートナー契約を結んだのはなぜ?
J1から数えて5部に相当する地域リーグ所属のクラブをサポートすることで得られるメリットとは?
大海原に漕ぎ出たばかり、難破の危険もある”小さな船”に同乗した理由とは何なのか?
昨年からトップパートナー契約を結ばれている理由をはじめ、その思いについて、井上栄治社長に話を聞いた。

― まずは御社の事業について、現状も含めてご紹介をお願いします
現在の主な事業は、オフィス家具販売の全国展開です。もともとは、金庫の製造販売をしていました。時代の変化や流れを受けて、今はオフィス家具のメーカー的存在と、卸売りの業務をしています。

― もともとは御社の社名にあるとおり"金庫販売"という形ですが、この業態展開をし始めたのはいつ頃から、どんなきっかけでしたか?
先々代の2代目社長の頃から、金庫はなかなか売れなくなっていました。
その当時は、オフィス家具が木製家具からスチール家具に変化するタイミングで、金庫業界がオフィス家具業界に流れていきました。そんな時期に、2代目がオフィス家具事業をグッと引き上げました。
そのなかで、例えば「100人乗っても大丈夫!」のCMで有名なイナバ物置の代理店をしながら、全国に展開をしていきました。特に、東日本地域の代理店を担ってきたという流れです。
続く3代目 先代社長の時代には、ある程度オフィス家具卸売の様々なメーカーとの取引を始めています。

― 大手オフィス家具との販路拡大の中で、差別化やオリジナリティを打ち出していく課題も出てくると思いますが、その辺りの工夫などについて、お聞かせください。
3代目社長の時代に卸売り業が色んな業界でとても大変になり、マージンがなかなか取れないというなかで、自社のプライベートブランドを立ち上げました。ここにある木製家具も自社のPB商品ですが、中国や台湾など、低コストで作ることができるプライベートブランドを強化して、そこからメーカー的な動きもできるようになってきました。

― ここからサッカーの方に話を移します。まずは福井ユナイテッドとの出会い、そして支援に至るまでの思いについてお聞かせください。
私が社長に就いて15年目でしょうか。もともと関わりたかった社会的弱者と言われる方々への支援のことも含めた社会貢献事業に、何かしら関わることができないかと思っていました。
私自身、以前は福祉業界で働いていたこともあります。そんなときに、福井のスポーツクラブのスポンサーであったり、支援で関われないかと思って、福井ユナイテッドに電話をかけさせてもらったのが、一番最初の出会いです。

― もともと井上社長自身が社会貢献にご関心があったということですが、どんな背景があって、そのような思いに至ったのでしょうか。
もともと私の父方の実家が教育関係者が多かったので、私も教育関係に進もうと思い、大学は教育学部に進学しました。そんな背景も含めて、子供に関わる仕事であったり、もしくは社会的弱者と言われる老人や障がい者に関して、学生の頃からとても興味がありました。

― 実際、クラブを支援することになりましたが、福井ユナイテッドというクラブ、チームは社長からどんなふうに見えていますか?
僕自身、会社経営者としてやらなければならないことのひとつに、まずは現場を見なければいけないと考えています。福井ユナイテッドも試合だけでなく、現場を知るには練習での姿が一番大事だと思い、練習を見に行かせてもらいました。実際に行ってみると、選手たちはとても真面目でコツコツとひたむきで、礼儀正しい。そんな選手たちを見て、人間としてすごいなと思いました。人として応援したいと思いました。
彼らは彼らで、サッカーに人生を賭けているわけですから、特に福井ユナイテッドにずっと在籍して欲しいという気持ちではないんです。福井ユナイテッドを踏み台にしてという表現ではないですが、良いステップにして次のステージへと羽ばたく、自己実現を成し遂げてくれればという気持ちです。そうした人間性の確立が、やはり色々なことを成功するには必要だと思っていますし、福井ユナイテッドは良い選手がいるチームだなと思っています。

― これまで、公に広告はしてこなかったと思いますが、トップパートナー(ユニフォーム胸)として契約を結ばれるというのは、社内外を含めた反響はどのような感じでしたか?
んー、難しい質問ですね。もともと弊社は卸売業なので、表に立ってもあまり意味がない業種なんですよね。そんな業種で福井ユナイテッドのトップパートナーになって、胸に「イノウエ」と入っていることは、多分福井県内の人たちには、どんな会社かわからないと思うんですよね。
でも、ユニフォームの胸にロゴが入ることによって、将来的にはリクルートに繋がるといいと考えてます。「福井にこんなに面白い会社があるんだ」ってことを認知していただく。私たちの将来を担う若者や、子供たちが興味を持ってくれる会社となって欲しいという願いも含めて、ユニフォームの胸に「イノウエ」と入っているのは、私としては嬉しいです。
それとウチの社員にとっても、いままで表立った企業広告は出して来ませんでしたが、全国に各拠点がありますから、胸に会社名が入ったユニフォームを着て、選手たちがプレーしているということを、とても誇りに思っている人は多いんじゃないでしょうか。

2024シーズンのユニフォームを着用、学生時代にはサッカー部でも活躍された井上社長

― 福井ユナイテッドだけでなく、他のスポーツやスポーツ以外でも幅広くご支援、サポートを続けられていると思います。それも含めて、どのようなとこを見つめて、どこを目指しているのでしょうか?
私自身、福井で生まれて、福井で育ちました。いま、福井に対する誇りを持っていない子が、あまりに多いなと感じています。
福井の子どもたちは学力も高いし、体力・運動能力もある。そういった環境から、もっと福井に自信を持って、福井から羽ばたいていこうとする人たちを応援できればと思います。あとは、福井に住んでいる人たちにとっても良い刺激になるのではとは思い、スポンサー活動などをさせていただいています。

― 井上社長が福井ユナイテッドというクラブだったり、チームに期待するところはどんなところですか。
チームには良い選手が揃っていて、実力もある。それは、試合を見ていても思うのですが、どこかスマートな試合運びというか、闘争心を本当に剥き出しにした試合運びという点が、物足りないようにも感じます。
もっと闘争心を剥き出しにしたプレーが見られれば、より支援者の人たちも盛り上がってくるのではないでしょうか。支援者の皆さんからも、すごく盛り上がってきているとの話も伺っていますので、熱い思いを露わにした試合になってもらえれば、またスポンサーも含めて、福井ユナイテッドを取り囲むもの全てが、さらに変わってくるのではと思います。
それと、先ほどと重複しますが自分たちの夢を掴むために、ここを踏み台にしてやるぐらいの視点で、自身がしっかりと目指すようなプレーをしなければならない。彼らもより上のカテゴリーで勝負したいはずですから、その点が逆にエリートながらにスマートな試合運びになっているのかもしれないです。もう少し闘争心であったり、自己アピールや自分を表出するところも欲しいなと期待しています。

― 人が生きていくことで、井上社長にとって一番大事なこととは何でしょうか?
私がやはり思うのは、「情熱を持てる何か」を探して欲しいですね。
◯◯を思えばすごい情熱が出てくる。何かを思えばすごいやる気になるとか。そういった何かを自分のなかで確立することによって、自分のモチベーションを高めていく。今日はやる気が出ないけど将来的にはこんなポジションに就きたい、とかね。お金持ちになりたいでも別にいいと思うんです。何でもいいから、何かに対する情熱を持っている。その何かを持つことができれば、人間はやっぱりイキイキするよなって感じています。ご飯を食べているときが生きてるときじゃないですよね。その生きる意味とか、使命感を自分のなかでどう作っていくか、というのが大事ではないでしょうか。
例えば、最近やる気のない子供が多いと言われている現状についても、“机上論”のなかで教育をしすぎていて、学んでいることが何かを理解をしていないけど、「覚えなきゃいけないから覚えています」というところがあるんじゃないでしょうか。
ではなくて、たとえば自然の中で遊びながら自分で体感したり、会社の工場見学をして「会社ってこういうふうになってるんや」って思ったり。海に行ったら魚を釣って「魚ってこういう生物でこんなんなってるんや」って、ということから、将来的には、もっといろんな国の魚を知りたいとか、なんでも構わないと思うんです。
それがないから、結局のところ、ゲームで満足しちゃったり、自分の精神を何か身近に頼れるところで満足しちゃう人たちが、すごく多いんじゃないかな。っていうのは最近やっぱり思いますね。
私自身も、それは自問自答し続けています。

― 最後に、井上金庫販売の社長として「これから目指すところ」「夢」があればお聞かせください。
私も51歳になりました。これからの次世代を担う若者や子供たちに、ちゃんとした背中を見せられるよう、事業活動や行動で示すことができたらと考えています。「地元の福井にもこんな社会貢献をしている会社があるよ」と、認知されたいですね。それを“お手本”にしてウチの会社に入社したいと思ったり、福井ユナイテッドの選手を見た子供たちが「あの選手のように成長したい」って思うような、そんなサイクルができたら、すごく嬉しいですね。
福井だけじゃなくて、それを全国各地に広げてもらえるようなシステムというか、循環のなかで、いい世の中作り、いい社会作りに貢献できたら、ありがたいなと思っています。

インタビュー/細道徹