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死なないから生きている

「ほんとうはあまり生きていたくない。我が子と同じくらい愛してしまった酒をやめてまで、生きる理由が見つからない。理由がないけれど、死なないから生きている。生きてしまっているからには、あの子を煩わせないように、酒を飲まないことだけを考えて一生懸命に生きる。生きることが嫌いなことと、一生懸命に生きることは、矛盾しない。」


『坊ちゃん』の清になろう、と決めた。
煎茶を飲みながら新聞をゆっくり音読する。
米のとぎ汁でフローリングを床を磨き、ハタキを手作りする。
かっぽう着を着て、おばあちゃんっぽいおやつを中学二年の息子のために手作りする。
外でセックスをしている旦那については、感謝と諦念の気持ちを抱いている。
すべては二度と酒を飲まないように。アルコール依存症だった過去を償っている最中であるために。

好きでたまらない息子からは避けられている。
夫の顔からはなんの表情も読み取れない。
残欠ーモノの一部が欠けてしまったものーこんなものを大事に持っているなんてくだらない。
そう気づいてしまえば、ふくらんだ怒りはもう歯止めがきかなかった。


甘いお菓子は食べません 残欠/ 田中兆子



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