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セクハラの構造問題が議論されるべきなのに、被害者同士の殴り合いで発散していく地獄

日本の#MeTooムーブメントが、妙な方向にドリフトし始めて、ちょっと残念な展開に。

はあちゅうさんの勇気あるセクハラ被害の告白で、日本の大企業の裏にあるセクハラ問題の闇についにメスが!…と思いきや、議論は思わぬ方向へ。はあちゅうさんの過去の言動が原因で、童貞炎上が発生し、大企業そっちのけで、はあちゅうさんに逆流する地獄絵図。

本来ならば、大企業のセクハラ体質や、それを隠蔽する構造にメスが入るはずで、業界全体で是正の圧力がかかるべきでした。それが異次元の方向に発散して、収集がつかなくなっている。結果的に、社会問題から個々人の泥仕合いへとスケールダウンする流れ。

大企業の危機管理担当者からすれば、まさに神風。10年に一度の業界正常化のチャンスが、うやむやのまま消滅しそうです。


むしろ童貞騒動が、国内の#MeeToo運動を破壊しかねない展開に、ちょっと危惧しています


童貞をネタに弄られて、本当に心に激しい傷を受けて怒り狂い、周りが見えなくなった人は、まぁしょうがないと思います。正当な怒りですし。でも、それ以外の人、いったん冷静になって状況を俯瞰してみるといいんじゃないかなと。

面白半分で燃やしたり、「ムカついてるからこれを期に叩いてやれ」とか、そういうプロレス感覚で炎上に火をくべてる人は、自分が何をしてるのか冷静になって欲しいところ。

無自覚に、かなりヤバイことをしてるんじゃないかと思うのです。


個々の事例から一歩引いて、状況を俯瞰してみると、

「セクハラを受けてた人が、頑張って告白をして… 最終的に大炎上してネットで全方位から叩かれて潰される」というストーリーが、完成してしまいそうなんです。

しかも#MeTooの第1号案件で(伊藤詩織さんが第1号案件?)。これは今後の運動を萎縮しかねない、非常に残念な流れです。


個々のプレイヤーの意図とは無関係に、総体として、結果的に、

「勇気を出して告白しても、ネットで炎上して潰される(可能性がある)。だから告白なんてしないほうが良いぞ!」


という強烈なメッセージを形成しちゃったわけですね。

個々の怒れる童貞や、面白がって燃やしている人々の意図とは関係なく、勝手に生まれてしまうのです。そういう社会的なメッセージが。

これを、はあちゅうさんの脇が甘いというのは酷ですし(そう言うならば、過去に汚点がある人は、一切の問題提起や告発ができないことになる)。個々の怒れる童貞も、個人として(本人的には正当な)感情を発露してるだけなので、しょうがないっちゃしょうがないのです。


それでも、少なくとも、あるていど冷静な人は考えて欲しいのです。自分の行動が大局的に、どういう意味を持ってるのか。それを見返すといいんじゃないかなぁと。

「ヒャッハー! セクハラとか告発しないほうがいいぜ!勇気出す奴は、過去の罪状ほじられて処刑だー!」

みたいなメッセージを、結果的に支援してしまう…その一部になっちゃうことを。誰が意図したわけでもなくても、悪気はなくても、結果的には生まれるのは、そういう社会的メッセージな訳です。


もし心に余裕があるならば、「本当に、それっていいんだっけ? 」というのを、深呼吸して、いったん考えてもいいと思うんですよね。

「この件については、一言もの申したいけど、さすがに#MeeToo運動を吹っ飛ばしてまで主張したいことでもないね。別のタイミングに別の方法で文句言っとくか」という選択肢もあるんじゃないかなと。

もちろん、「#MeToo運動とか知ったことじゃねぇ!」とか「俺の怒りは、#MeToo運動とか破壊してでも貫くべきものだ!」という意見も、本当に怒れるなら正当な権利だとは思いますが… ぶっちゃけタイムラインを見る限り、結構な割合で面白がってるか、ちょっとした不快感を発散させてるだけですよね。

どうしても叩きたいなら、叩くのもいいです。でも、その行動が最終的に、何を引き起こすか?「結果的に、#MeToo運動で勇気を出そうとしていた人々を、威嚇して萎縮させてしまう」…ということに、自覚的だといいなぁと思うのです。それでも自覚して、スイッチを押すならば、それは個人の自由なのでしょうがない。


こういう個々の行動の集積が、地獄に通じてる問題。そう簡単には解決しないのがまた辛い。


私的には、今回の問題でようやく業界の闇にメスが入って、多少は健全になるかなぁと思ってたのですが…どうやら大山が鳴動するだけになりそうです。

業界の人もみんなダンマリだし、アンタッチャブル感が満々で、この闇は当分の間、闇のままなんでしょうか。業界の内情色々と知ってて、声をあげれば会社や業界を良い方向に変えられる、あの人も、あの人も、みんな沈黙です。


これで、セクハラ問題と勇気を出そうとしてた人々が萎縮してしまうのが、とても残念です。

こういう社会運動の大半が、虐げられるもの同士の内ゲバとなって発散する…それ自体、もうネットの宿命なのかもしれません。でも、そこまで達観するのはちょっと切ないなぁと思うのです。


追記
うまく伝わってないようなので補足。文中にも書いてありますが、童貞弄りで傷ついて正当に怒ってる人が、それに対して抗議するのは別にいいと思います。正当な権利なのです(ただし吊るすとかは正当な権利じゃない)。

問題は、それほど怒ってないのにあえてこのタイミングで突撃したり、面白半分に茶化したりする人で、別のタイミングでやれば?あるいは、やるならやるで「自覚的」になるべきだ、と思うんですが・・・うまく伝わらないもんですね。


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