anone最終話

忙しさにかまけて放置してしまいました。最終話の感想です。
最終話、何もかも最高でした。9話が終わった時点でちっとも10話がどうなるか見当がつかなかったけれど、納得のいく最終話でした。ひとところに集約されて終わるのではなくて、こういうのも大切だし、こういう面もあるよね。と、いろいろなものを提示して、私たちの背中をそっと押し出すような最終話だったと思います。

『anone』の中でもずっと手を触れあう表現が好きだったから、最終回はたくさんのものが邂逅していく中で、手が触れ合う瞬間がたくさんあってうれしかった。鑑別所ではハリカちゃんと彦星くんが、海辺では陽人くんと中世古さん、刑務所からの帰り道に亜乃音さんとハリカちゃんが。それらのシーンを観て、今までとか、これからとか、そういうことを無視して、今この瞬間のすばらしさで胸がいっぱいになった。

最終話の肝となったのは魔法や奇跡はない中でどう生きていくのかということだと思う。最終話の肝というより、『anone』という作品の肝かもしれない。
魔法や奇跡がない、というのは、過去や病気や罪は消えないということだ。最終話で言えば、鑑別所で「人生ってね、やり直せるんだよ」と言われたハリカちゃんがまっすぐに「想像してみたりすることはあります。あの時もしもって。もしちょっと違ってたらどうなってたかな。子供の頃逃げ出したことがあって、それが成功してたらどうなってたかなって。でもそれはなかったから。ここが今の自分だから」と答えるシーン。起きたことは巻き戻らないということだ。るい子さんと逃亡をした持本さんの病気も治らない。そして、偽札作りは犯罪であり罪は消えないし、北海道に逃亡することもできないから、ハリカちゃんも、亜乃音さんも、るい子さんも、中世古さんも罪を償うことになった。

重要なのはその続きだ。どうしても消し去れないし、抗えない現実を前にしたときに、絶望せずに生きていくとはどういうことなのかが描かれている。ハリカちゃんの変えようのない過去も、彦星くんの治療費を出すことができなくて、これから先彦星くんと別れていってしまう現実も、そこに亜乃音さんやるい子さんや持本さんとの生活があるから救われる。持本さんが死んでしまっても、テレビに向かって「青葉さんの青」と答える持本さんがいて、持本さんの幽霊がいる。そして刑務所に入っても、出てきてまたいつもの生活をおくる場所がある。細かなことの積み重ねや小さな幸せは、人生を立ち行かせていってくれるということが、つぶさに描かれていた。

中世古さんの人生を立ち行かせる何かも、最終話で描かれていた。それが海辺の陽人との会話だ。中世古さんがひどいおじさんだったから殺した、と言ったときに陽人が「それはいいこと?」と聞くと「悪いことだよ。悪い人をいなくさせるために悪いことをした」と中世古さんは言う。そこにある放火と殺人という罪は悪い事として消えないが、それを肩代わりできるということが、奇跡のない世界でどうやって生き延びるかを示している。

それともう一つ気になったのは、同じクールで流行っていた『アンナチュラル』ともクロスするようなテーマがあったことだ。『アンナチュラル』には、何か理不尽なことで人生を傷つけられた人は、他人を傷つけたいという欲に負けてはいけない、欲に負けて自分の人生を壊してはいけない、というメッセージがあった。
『anone』では最終話の中世古さんとハリカちゃんの会話にある。中世古さんはハリカちゃんの過去を聞き「そういう人間はさ恨むことができる権利っていうのがあって」という風に言う。それに対して「つらいからって、つらい人がつらい人傷つけるのって馬鹿みたい。」という。『anone』の登場人物はみんなつらい人であり、『アンナチュラル』で言えば何か理不尽なことで人生を傷つけられた人たちだ。『アンナチュラル』のミコトは恨む権利を振りかざさないために理不尽と戦う人だった。しかし『anone』では戦うのではなく理不尽とうまく暮らしていくすべを探っている。そして恨む権利を振りかざしてしまった人にも焦点を当てるというアプローチをしていた。
例えば、3話で銃を持ち出し自殺してしまった西海は理不尽に負けた人間だった。でも、持本さんやるい子さんと西海の差は紙一重だったということが語られ、どんな人でもそちらに転がらざるを得ない運命があることを肯定している。そして最終話では、理不尽に負け権利を振りかざしていた中世古も、陽人の罪を肩代わりする姿が描かれる。最低な面だけで固めて、中世古をただ嫌うのではなく、そういう負けてしまった人にも感情移入できるように描かれるのである。
別にどちらが優れているというわけではなく、そこに『anone』という作品が表れていたと思う。

やっぱり『anone』という作品は、自信がない人やつらい気持ちの人の背中をそっと支えてくれるような作品だったなと思う。毎回俳優陣の演技も素敵で、大好きなシーンがたくさんあって、大好きな作品でした。

坂元さんはしばらくテレビドラマお休みされるということでしたが、また別の活動もするみたいで、楽しみだなあと思います。

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