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ニンジャスレイヤーイビル二次創作:ショウダウン・ウィズ・ザ・ダーティニンジャ

作者注:この作品はダイハードテイルズのコンテンツであるニンジャスレイヤープラスにて公開されている『ニンジャスレイヤーイビル:ワルサイタマ・ブロウナウト』を下敷きにした非公式二次創作小説です。ご覧になる前に、是非上記作品の一読をオススメします。また、この作品は公式サイドとは一切関係がありません。


◆猥褻しかない◆


 暗黒混沌都市ワルサイタマの中にあって、一際異彩を放つ地区が存在する。数々の店舗が軒を連ねながらも、一帯の空気を支配しているのはありふれたマイコセンターやポルノショップではない。カンバンや大型ディスプレイには、高度に戯画化され雑味を完全に取り除かれた少女たちで溢れかえり、透き通るような声とともに笑顔と裸体を見せつけている。

 この通りにおいて価値を持つのは高級オイランでもなければ有名メーカーのエッチ・ビデオでもない。道行く者たちが何よりも求めるものは、違法合法問わず日夜生み出されてゆく新たなヘンタイ・グッズである。それがこのアラハバキ・ストリートであった。

 ナードひしめくストリートに、場違いとも思えるアトモスフィアを漂わせた少年が一人。群青色の瞳はネオンカンバンの光に照らされ、丁寧に切り揃えられた髪型は高級マツタケめいている。名だたるブランド物であろうスーツは体脂肪率の高そうな身体に沿って曲線を描いていた。……さらに、付き従う男が一人。

「遅いぞ、マジオ! 何のためにお前を連れてきていると思ってるんだ!」小太りな少年が声を上げた。「ハッ、申し訳ありません……」

 男は大量の荷物を運びながら抜け目なく周囲に目を光らせている。その剣呑さは誰の目にも明らかであり、皆が彼らを避けて通る。その奥にある、見る者が見ればわかる存在感……そう、このマジオ・ヤバクラは即ち、ニンジャであった。そしてその危険なニンジャを使役するこの少年こそ、コウカイ・シンジケートのトップたるワオモトの実子。ワオモト・ギバである。

「しかし坊ちゃん。お言葉ですが、これだけの荷物です。店の者に宅配を言いつけた方がよかったのでは……」「お前はなンにもわかっていないな! 帰りのリムジンの中でパッケージや説明書をじっくりと眺めるのがイイんだろ!」「ハァ……」ギバはマジオに対して心底呆れたような表情の後、すぐにその丸顔に尊大な笑顔を作った。

「よし、あとでさっき買った『セツナイ・オンナノコ・ダメ』シリーズの魅力をたっぷりとお前に教えてやる! ボクが直々にだ!」「ハッ……」マジオは恭しく頭を下げながら、心中で己のウカツを呪った。この日がな高カロリー食品にまみれている小僧は、隙あらばこの理解不能なヘンタイ群に関して我が物顔で講釈を垂れようとすることに余念がない。無論、素っ気ない聞き方で機嫌を損ねようものならばケジメは必至だ。

(大体なんなんだこの値段は……これだけあれば高級ビールや高級オイランが余裕で買えるぞ……こんなモノが……)

 彼は未だ胸中に困惑を抱き続けているが、表に出すことは決してない。プロのボディガードであり、殺し屋だからだ。ギバを誘拐し身代金をふんだくろうなどという輩がいたところで、並の相手では指一本でも触れる前にサンズ・リバーを渡っていることだろう。

「おいゲキヤス、今から車まで戻るからな。……ウン。ウン。よし、よくやった」ギバはIRC通話を終えると、再び悠然と歩き出す。「今日のミッションは終了だ。帰るぞマジオ」「ヨロコンデー」


 ……二人を乗せたリムジンが走り出す。ギバは車内に入るやいなや用意されているオイランバーガーの袋に手を伸ばし、その中身に目を輝かせた。「うむ、確かに全種あるな! よくやったぞ!」「お安い御用ですぜ!」ギバを挟む形で反対側に座っているネバネバーモアが頭を下げた。彼はコウカイ・シンジケートのニュービー・ニンジャであるが、組織内で白眼視されるそのヘンタイ趣味がギバの目に留まり、たちまち側近に等しい立場を得たのだ。ギバに負けず劣らず、体脂肪率の高そうな身体をしている。

 ギバが袋から取り出したのは……ヘンタイ・フィギュアである! それがなぜオイランバーガーの袋から? それは取りも直さず、この地に蔓延る重篤ナードたちを獲得するための抜け目ない販売戦略の一環に他ならない。生身の異性よりもフィクションの少女こそが尊ばれるアラハバキ・ストリートにおいて、通常のノパン・サービスセットの10倍もの値段が付けられたフィギュア付きバーガーセットが主力メニューとなることは、まさしく必然であった。

 かような値段であっても、全4種類のフィギュアがランダムに付属し、さらには数量限定という販売形態のためナードは皆こぞって買いに走る。その結果、ストリート各地のゴミ箱には大量のオイランバーガー食品が投棄されるという事態すら引き起こされていたが、このワルサイタマの街でそのような瑣末事を気にする者は誰もいないのだ!

「造形も塗装の精度も良い……アタリを引いたな」「買う時にちゃんと店員を買収して吟味しましたからねェ、ぬかりはありません」「やはりお前はよくわかってるなゲキヤス! そのあたり不勉強なコウカイニンジャが多すぎるんだ!」「勿体なきお言葉!」

 ギバはハンバーガーとポテトとケモコーラを口に運んでは、手にしたばかりのヘンタイ・アイテムを手に取って穴が空くほど見つめている。隣に座るマジオはどうかそのまま夢中になり続けていてくれと願うが……ブッダに聞き入れられることはなかった。

「……『セツナイ・オンナノコ・ダメ』シリーズ初代メインヒロインのハビキノ=サンはそれはもう奥ゆかしくてカワイイでな。それでいておっぱいが大きい。そのギャップがイイんだ。シリーズが続き後継作品が数々発売している今でも、ハビキノ=サンの関連グッズの売上記録はシリーズ随一。しかも未だに記録更新中だ……もちろんボクは全部揃えているぞ。他にもショウレンイン=サンはオイラン志望で高飛車なスカム女かと思いきや、専用ルートに入るとどんどんカワイイな素顔が明らかになってくる。そのギャップがイイんだ。あとおっぱいも大きい。そうだ、忘れてはいけないのがナミモ=サンだな! カラテ一筋で事あるごとに主人公に鉄拳を喰らわせてくる堅物女なんだが、専用ルートに入るとどんどんカワイイな素顔が明らかになってくる。そのギャップがイイんだ。あとおっぱいも大きい」

「アッハイ」爪垢ほどの興味すらない話題に対し、マジオはどうにか精神をフラットに保とうと心がけた。……だが、その時だった。

 BLAMN!BLAMN! 突然の銃声、そして大きく揺れる車内!「アイエエエエ!?」叫ぶギバ! マジオはすぐに悟った……襲撃である!

「オニワァーソトッ!」「フクワァーウチッ!!」BLAMN!BLAMN!

 奇妙なチャントを発しながらリムジンを取り囲むバイクの集団! しかも、皆一様にオカメやエビスのオメーンを被っているではないか! ……ひと目見てお気づきの聡明な読者諸氏もいるであろう。これこそが日本伝統の神事を犯罪利用せしめた、恐るべき節分強盗団の姿である!

「オニワァーソト!」「ソトッ!」「ソトーッ!!」BLAMN!

 ホーリーアイテムたる大豆でオニを追い払う節分は、平安時代より続きし由緒正しいイベントであった。そのため日本人の心には、オニは即ち一方的に滅ぼされるものという認識が今も強く根付いている。そこに目をつけたヨタモノ達はホーリーサイドのオメーンを悪用し、伝統的認識に基づいた精神的優位に立つだけでなく、大豆に見立てたショットガンの散弾を容赦なく浴びせてくるのだ! なんたるマッポー極まりし冒涜的発想か!

「車内に肥えたガキがいますぜーッ!」「攫っちまえ! 商売繁盛重点だ!」「フクワァーウチッ!」「ササ・モーテ・コイ!」リーダー格と思しきエビス・オメーンの男がオカメ・オメーンの部下たちを扇動する。いかな防弾加工が施されたリムジンと言えど、ショットガンの威力はチャカ・ガンなどとは比べ物にならぬ。このままでは時間の問題だ。オメーンの威光と過剰ドラッグがもたらす暴力に、限度の二文字などない。

 ギバはネバネバーモアにしがみつきガタガタと震えている。「マジオ、なんとかしろーッ!」「オニイサン、ヤッチマッテクダサイ!」「……ハイヨロコンデー」マジオは車内で立ち上がり、誰にも知られることなく口端を歪めた。「連中は俺が片付ける。お前達はさっさと逃げろ」言うが早いか、マジオは開放されたリムジンのルーフから回転ジャンプを決め車外へと躍り出る!

「ドーモ。ダーティニンジャです」土留色の装束を纏ったニンジャが周囲に殺気を放ちながら強盗団の前へと姿を見せた! ざわめくヨタモノ達!「ニンジャ……?」「ニンジャナンデ?」「オニワソト……ニンジャは? ドッチダ?」

 BLAMN! エビス・リーダーによる部下を諌めるショットガン発砲!「アワテルナ! 俺達はホーリーサイドで、ニンジャは当然ダークサイドだ! 囲んでショットガンで撃てばニンジャだって死ぬ! ヤッチマエー!!」「「「ワオオーッ!!」」」

 異常興奮下の強盗団はニンジャを前にしても臆することなくバイクのエンジンを唸らせる! ギャルルルル!! だが陣形が変化した隙を突き、ヤクザリムジンは素早く強行突破逃走! それを横目で見届けると、ダーティニンジャは静かにカラテを構えた。「「「ニンジャァーソトッ!」」」BLAMNBLAMNBLAMN!! ショットガンがダーティニンジャめがけ一斉に放たれる! だが……既に一瞬前の場所に彼はいない!「アイエッ!?」

「沢山撃つと実際当たりやすい」とは有名なレベリオン・ハイクであるが、そのような一般常識をも覆すのがニンジャの身体能力である!「イヤーッ!」空中のダーティニンジャはオカメ部下達へと何かを連続投擲!「「「グワーッ!!」」」これはスリケン……クナイ……いや、そのどちらでもない! フォークだ! どこにでもある調達容易なフォークが、ダーティニンジャの手により超小型の殺人トライデントとなったのだ! ヨタモノ達のオカメ・オメーンを貫通し、顔面に深々と突き刺さる!

「貴様ら程度、これで十分」「かまうな! ヤレ! ヤレ!」「ニンジャァーソトッ!!」ドラッグは激痛すら抑え込み、ヨタモノをゾンビめいた不屈の兵隊へと変えている! なおも浴びせかけられる散弾の嵐!

「脳をやられたバカどもめが!」弾丸の軌道を予測しているダーティニンジャは、難なくオカメ部下の背後へと回り込む!「アイエッ……!?」「イヤーッ!!」「アバーッ!!」ナ……ナムサン! 空へと向けた掌とともに相手の首目掛け繰り出されるチョップ突き! これこそ暗黒カラテ技、ヘル・ツキだ! オカメ部下は喉元貫通即死!!

 おそるべき殺人ムーブを目の当たりにしたオカメたちの引き金にかける指が緩む! すかさずダークニンジャは殺したばかりのオカメ部下の死体を脚から抱え上げ……そのまま回転を始める! ジャイアント・スイングである! しかもニンジャが用いるジャイアント・スイングは、カラテ竜巻にも等しい!

「アイエエエエエ!?」「どうなってんだ!」「アバーッ!?」回転状態のまま機動し、周囲を囲むオカメ部下たちをなぎ倒していくダーティニンジャ! 的確に首の骨を折ってゆく、なんたるワザマエか! 全ての部下をジャイアントスイング殺! 回転の勢いで……死体をエビス・リーダーへと放り投げた!!

 CRAAAAASH!「グワーッ!」バイクから転げ落ち、地面へと激突するエビス・リーダー! よろよろと身を起こしたその視線のすぐそばには……ダーティニンジャの姿!「ア……アイエエエエエ!!」至近距離からのNRS症状だ! 最早ドラッグとオメーンの力でも上書きできぬほどの衝撃が彼を襲う!「イヤァーッ!」間髪を入れず……身動きの取れぬエビス頭部へと、体重を乗せたエルボードロップが炸裂した。「アバッ」


 ……オメーンごとトマトめいて潰れた頭部を前に、ダーティニンジャはザンシンを解いた。そして処分完了の報告を行おうとした瞬間、彼は自分の手に違和感を感じ取る。「……オット、いかんな」ダーティニンジャはあたりを見回し、動き出した。その先は……自動販売機!

 キャバァーン! 自販機から小気味良い音とともに吐き出された缶のラベルには「極・悪い金塊」の文字。その自販機で最も高いアルコール度数のサケを迷わず買い、迷わず開け、迷わず飲み干した。一息でだ。

「フゥーッ……!!」メンポを解いたマジオは、身体中に染み渡るアルコールの味に安堵の声を漏らした。手の違和感もすぐに消えた。そう、彼はアルコール中毒者なのだ!「アーイイ……遥かに良い……」傍に設置されたベンチに座り込み、余韻に浸る。根っからのサケ飲みである彼は、これまでの人生における数々のストレスをアルコールの力で吹き飛ばしてきた。それも全ては常人の域を超えたニンジャ肝臓力の賜物である。

(サケさえあれば、あんなガキのお守りもどうということはない……サケさえあれば……)マジオはワオモトへの連絡の前にさらにもう一本ほど飲んでおこうと、自販機を見やる。するとそこには一人の男がベンダースロットに素子を投入していた。(チッ……まあいい。後で買えば済むこと。事を荒立てる必要もなし)

 キャバァーン! 男が受け取り口からサケを取り出す。次は自分の番だ……マジオは胸を躍らせながら立ち上がった。しかしその瞬間!「大当たりドスエ!」「何!?」ストコココピロペペー! 電子ファンファーレとともに自販機からマイコ音声! キャバァーン! もう一本!

「オッ、珍しくツイてんじゃねぇか」男が追加のサケを取り出すと、マジオのニンジャ第六感は不吉な予感を知らせた。「まさか……オイ、どけ!」「んだテメェ……!」目付きの極めて悪い男を乱暴に押しのけると……そこには無慈悲な「売切」の二文字!「アアアアーッ!?」

 マジオのニューロンがたちまち落胆の色に染まる。既にもう一本飲む気満々だったのだ! そのショックの大きさは果たしていかばかりか……皆さんにもご想像いただきたい!

「ザッケンナコラー! 貴様! 俺のサケをーッ!」目付きの悪い男へと掴みかかるマジオ!「いきなり何テメッコラー!?」「よこせ! そのサケを!」「他の買えばいいだろうが!」「それが飲みたかったんだよォー!!」おお……ブッダ! 彼はサケが絡むとたちまち人が変わるのだ!「知るかッコラー!」振りほどく男!

「かくなる上は……力ずくで奪い取るまで!」男に対してカラテを構えるマジオ!「イヤーッ!」顔面狙いの鋭いフック! だが男は紙一重で避ける!「「ムッ!」」その瞬間、男達は互いに理解した……目の前の相手がニンジャであると!「まさか……!」「イカレ野郎が……仕方ねぇ」

 たちまち目の前の男の身体に、ニンジャ装束とメンポが生成される! 青黒のニンジャ装束が!

「ドーモ。ニンジャスレイヤーイビルです」「ドーモ。ニンジャスレイヤーイビル=サン。ダーティニンジャです」

ダーティニンジャはコンマ秒のスピードでメンポを装着し、アイサツを返した。イクサの前のアイサツはニンジャにとって絶対の掟であり、どれほど憎き相手であろうとも欠かしてはならない。

「青黒の装束……ニンジャスレイヤーイビル……そうか、貴様か! コウカイ・シンジケートのニンジャを何人も殺し、ドラッグを掠め取っている命知らずは!」「ゲッ、よりにもよってコウカイニンジャかよ……」二者の間に油断ならぬアトモスフィアが漂う中……コール音が鳴った。ダーティニンジャはすかさずIRC端末を取り出す。

「モシモシ……ドーモ、ワオモト=サン。連絡が遅れ申し訳ありません。坊ちゃんは……無事お帰りで。何よりです。ハイ。指一本触れさせませんでした。ハイ。ボーナスを。ハイ。ありがたき幸せ。それで今目の前にですね、最近噂の青黒の……ハイ、ハイ、好きにしてかまわぬと。ハイ。ヨロコンデー」ダーティニンジャはIRC端末をしまうと、カラテを構え直す。「ボスは貴様のことなど眼中にはないが……殺しても構わんそうだ。故に殺す」

 対するニンジャスレイヤーイビルは、通話の隙に取り出した青黒のチェーンソーを構えていた。「オイ。コイツが見えンだろ。トンズラするなら今のうちだぜ」ドルルルル……スターター紐が引かれ、威圧的なエンジン音が鳴り響く。「フン、くだらんな」ダーティニンジャはメンポの奥で不敵な笑みを浮かべた。「そうかい! イヤーッ!」ニンジャスレイヤーイビルはチェーンソーを振り上げ、仕掛ける!

 ダーティニンジャへと青黒殺戮回転刃が迫る……このままではツキジのマグロめいて解体されてしまうであろうことは、誰の目にも明らかであった。しかしその時! 激しい金属音! ギャリリリリィ!!「何ッ!?」ニンジャスレイヤーイビルの表情が困惑に歪む!

 おお、見よ! ダーティニンジャの手元に握られし得物を! センヌキである! 身の丈ほどもあろうかというチェーンソーを、センヌキ一本で止めているのだ! これは一体、何たることか?

「……このセンヌキの名は『デラ・ベッピン』。畏れよ。失われし古の技術の結晶たるこのセンヌキの前では、貴様のチェーンソーなどオモチャに等しい」「ヌウーッ!」「イヤーッ!」チェーンソーごとニンジャスレイヤーイビルを弾き飛ばすダーティニンジャ! それでいてデラ・ベッピンにはカスリ傷一つついてはいない! ゴ……ゴウランガ!!

「クッソ、マジかよ……」即座にウケミを取り体勢を立て直すニンジャスレイヤーイビル。だがチェーンソーは衝撃で既にその手から離れてしまっている。全ては質量差を物ともせぬダーティニンジャのカラテである。「所詮貴様はドラッグジャンキーのサンシタよ」「アル中のコウカイニンジャ野郎に言われたかねェな」

 ニンジャスレイヤーイビルの言葉を聞いたその瞬間、ダーティニンジャの表情が変わる!「ダマラッシェー! イヤーッ!」「グワーッ!?」「俺は貴様のようにドラッグをキメたことは一度もない! サケだ! サケのみだ! ドラッグとアルコール……どちらが悪いかなどわかりきったことよ!」激昂し猛烈なカラテを浴びせるダーティニンジャ! しかも拳にはセンヌキを握り込んでおり、その威力は倍化!「偉そうに言うことかよグワーッ!」

「ハァーッ……ハァーッ……! 俺は少しサケが過ぎることもある程度だ……たまに手が少し震えたりするぐらいで……薬物中毒者と同じにするんじゃない!」なんという豹変ぶりであろうか。マジオ・ヤバクラは、中毒者ヒエラルキーの中でアルコールが最も上に位置すると考えることにより、己の精神のバランスを保っている男でもあったのだ。「ドラッグやヘンタイにのめり込む恥知らずな連中に比べれば、アルコールなどまだまだ序の口……!」

 ダーティニンジャは怒りに任せ、メンポに仕込まれた緑色の霧を噴射させる! これは明らかにアブナイだ!「グワーッ麻痺毒!」毒霧はメンポの上からでもなおニンジャスレイヤーイビルを苦しめる!

 すかさず背後に周り、伝説のカラテ技、チョーク・スリーパーの要領でその首をロックしにかかるダーティニンジャ!「グウーッ……!」「イヤーッ!」さらにデラ・ベッピンで脳天への執拗な連続攻撃! ニンジャスレイヤーイビルの頭部から赤い血が噴水めいて吹き出す!「グワーッ!」「フハハハハ! 精々俺に美味いビールを飲ませろ、ニンジャスレイヤーイビル=サン!」

 ダーティニンジャの目が狂気の光を帯びる! 彼はセンヌキで敵を殺し、なおかつそのセンヌキで開けたビールを飲むことを極上の愉しみとする異常嗜好の持ち主なのだ!「俺のサケを横取りしたインガオホーを知るがいい!」

(((こいつ頭おかしいんじゃねぇのか)))

 窮地に陥ったニンジャスレイヤーイビルのニューロンにダラク・ニンジャの声が響く!

(ンなことは最初からわかってンだよ……いい加減本気出しやがれ、マジで死んじまうぞ……!)

(((チェーンソーなしとかめんどくせぇなぁ……今月はこれで終いにしろよ)))

 ダラク・ニンジャがそう言い終えると、されるがままだったニンジャスレイヤーイビルの身体に突如カラテが漲り、ダーティニンジャの拘束を凄まじい力で振りほどいた!「バ、バカナー!」「イヤアーッ!!」吹き出すマグマの如きカラテパンチのラッシュがダーティニンジャを襲う!「グワーッ! グワーッ!」だが致命傷には遠い! カラテを構え直さんとするダーティニンジャ……しかし!

「ヌウッ!」ダーティニンジャの左手がガタガタと震え始めている! ナムサン……アルコール切れだ! 激しい攻撃の数々が、彼の血中アルコールを急速欠乏させたのだ!「シマッタ……!」並のニンジャ相手ならばいざ知らず、この状態で今のニンジャスレイヤーイビルを相手にするのは極めて危険!「ならば……イヤーッ!」速やかに自販機を叩き壊し、サケを一口でも口にすればよい! 状況判断したダーティニンジャは、ニンジャスレイヤーイビルへとフォーク投擲で足止めを図る!

 だがフォークの軌道を即座に見切り、ダーティニンジャへと迫るニンジャスレイヤーイビル! ダーティニンジャの拳が自販機を捉えるよりも先に……ニンジャスレイヤーイビルの右ストレートがダーティニンジャへと襲いかかった!「イヤーッ!」「グワーッ!」

 よろめくダーティニンジャへと、さらに左ストレートが襲いかかる!
「イヤーッ!」「グワーッ!」

 さらに右! 左! 右!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「オゴゴーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 圧倒的であった。ダーティニンジャはどうにかサケを手に入れようともがいた。だが離脱症状が出始めているダーティニンジャの身体は、ダラク・ニンジャの力を表出させたニンジャスレイヤーイビルの動きについてはゆけず……「イイイイヤアアアーッ!!」

「ヤ! ラ! レ! ターッ!!」

 顔面への痛烈な一撃とともに吹き飛ぶダーティニンジャ! その先には偶然にもフタの開いたダストボックスが! ナイスシュート倍点!!

「ハァーッ……ハァーッ……」ニンジャスレイヤーイビルが荒い息を整えながらザンシンを行うと、チェーンソーを回収し、ダーティニンジャが目覚めぬうちにその場を後にする。最早ダラク・ニンジャの力も収まっていた。「クソッ、今のうちにズラかるか……カネにならねぇケンカしちまったぜ……!」懐から取り出したサケを飲みながら、ワルキド・ゲンはワルサイタマの雑踏へと走り出していった。

 ……幸いにも、集積されたゴミがクッションとなり、致命傷は免れていた。青黒のニンジャへの殺意を燻らせながら、自販機から排出された6本目の缶ビールを飲み干す。痛みなどサケがあればどうということはない。アルコールがあれば無敵なのだ。あの時も、手元にアルコールさえあれば……!

(これからは常にサケを携帯しておかねば……)

 決意を新たにするダーティニンジャ。先のイクサに関しては激戦の末あと一歩まで追い詰めたが、惜しくも逃げられたと報告しておいた。失態ではあるが、ギバを強盗団から守った功績もある。大きな傷にはなるまい。

(精々高級ビールでも飲みながら療養するとしよう……ムカつくことは全てサケが忘れさせてくれる……サケは最高だ……)


 ……負傷をおしてコウカイ・シンジケート本拠であるヒトコロザワ・ピラーまで戻ったマジオの前に現れたのは、ネバネバーモアを従えたギバであった。その手にはいかにもカロリーの高そうなスナック菓子を抱えている。

「先日はご苦労だったな、マジオ!」「いえ……御身がご無事で何よりです」「そんなお前に個人的に礼をしてやる。おい、ゲキヤス!」「ダーティニンジャ=サン、ドーゾ!」ギバのその言葉とともに、ネバネバーモアがマジオへと袋を差し出した。思わぬ殊勝な行動に多少面食らいつつも、恭しく受け取り、オジギをしてみせた。

「坊ちゃん自らこのような……アリガトウゴザイマス」「本当にな!」袋の中身はスシか、菓子か。……重さからして、サケではあるまいが。しかし無闇に詮索すれば奥ゆかしさを欠く。この場は何も言わず、後日改めて礼を言うのがスジというものだ。だが。

「ちゃんと全ルートクリアして感想を聞かせるんだぞ」「……ハッ?」思わず顔を上げた。マジオにはその言葉の意味を瞬時に理解することができなかった。

「シリーズ最高傑作との呼び声も高い『セツナイ・オンナノコ・ダメ』シリーズの5作目だ。お前にくれてやる。キャラクター、システム、シナリオいずれも高水準でな。攻略可能なヒロインの数が減ったのがダメだのキャラクターデザインが劣化しただの喚くバカな連中もいるが、袋小路に入りかけていたこのシリーズに新たな風をもたらした傑作と言っていい。初心者にも自信を持ってオススメできる一作だ。特にマンゲキョウ=サンはシリーズでも数少ないオイランドロイドのヒロインで、彼女のストーリーがまた泣けるんだ……! おっぱいも大きい。彼女をキワモノだなんだと言う奴はなんにもわかっていない! お前なら彼女の良さがわかるはずだ! あとな……オシロイ=サンは……スゴイぞ。ウン。あんまり言うとネタバレになるからな……フフフ……」「……アッハイ」

 マジオは再び無心で頭を下げた。下げるしかなかった。

「わからないところがあれば遠慮なくボクに聞け。いくらでも教えてやるからな!」「坊ちゃんの知識はスゴイですからねェ、俺の時も助かりましたぜ!」

「傷が癒えるまで、プレイする時間はたっぷりあるはずだ。お前の推しヒロインが誰になるか、楽しみにしてるからな!」「……アッハイ」


……満足そうな顔のギバが去った後、マジオはしばらく立ち尽くしていた。その後フラフラとした足取りで部屋へと戻り冷蔵庫を開け放つと、デラ・ベッピンを片手に最高級ビールの瓶を掴んだ。

「飲まずに……いられるかッ!」

シュポン! 小気味良い音とともに栓が抜かれ……瓶のまま呷る! 呷る! ヤケ酒である! どうしようもない現実を前にした彼が取れる行動は、ただ一つしかないのだ!

「プハァーッ……」マジオのニューロンは良質なアルコールとスパークリングの心地よい刺激に包まれる。彼は常にこの感覚に助けられながら生きてきた。今までも、これからも……


……そこからどれだけの時間が経っただろう。部屋には何本ものケモビール缶が散乱している。ようやく諦めにも似た覚悟を決めた彼は、ギバから受け取ったゲームソフトを手に、UNIXへと向かうのだった。

【ニンジャスレイヤーイビル二次創作:ショウダウン・ウィズ・ザ・ダーティニンジャ】終わり


◆極◆
ニンジャ名鑑#XXXX
【ダーティニンジャ】
本名マジオ・ヤバクラ。妖センヌキ「デラ・ベッピン」を持つコウカイ・シンジケートの凄腕ニンジャ。重度のアルコール中毒者であり、時折激しい二面性を見せる。毒霧を始めとした数々の卑劣攻撃を得意とし、同じコウカイニンジャからも畏れられる存在である。
◆悪◆

◆極◆
ニンジャ名鑑#XXXX
【ワオモト・ギバ】
コウカイ・シンジケート首魁であるワオモトの実子。非ニンジャ。常に自信に満ちた尊大な態度を崩さず、高カロリー食と電子ヘンタイをこよなく愛する少年である。コウカイ・シンジケート内にヘンタイ愛好文化を根付かせようと日々情熱を燃やしている。
◆悪◆

◆極◆
ニンジャ名鑑#XXXX
【ネバネバーモア】
本名ゲキヤス・カネオ。ニュービーのコウカイニンジャであり、ヘンタイ趣味をギバに気に入られ腰巾着めいて付き従う男。高体脂肪率で多汗症だが、カラテはそれなり。
◆悪◆

スシが供給されます。