エィルサク00_clip

"七人組"のエィルサク

肌を切り裂くような潮風と、吹きすさぶ雪。
激しい波が揺れる、「輝きの海」に浮かぶ小舟の上に、ひとりの戦士が座っている。
雄々しい角つき兜と、使い込まれた鎧に身を包んだ屈強な男。いくつもの傷がつけられた鋼のような筋肉質の体躯は、内なる闘志の現れからか、微かに湯気を上げている。
その戦士はずっと、腰に目をやり何やらブツブツと呟いている。

「ああ。南の奴らは間違ってる。俺たちは野蛮なんかじゃない。そうだろう?」
「あいつらは畑を耕し、種を撒き、穂を刈る。それに誰が文句を言う? 俺も同じように狩り、肉を撒いて、奪うだけだ」

この男の名はエィルサク。北方の海で生まれたこの男は、戦場では名の知れた戦士だ。
戦では自ら最前線へと身を投じ、使い慣れた斧で暴れまわる。同じ戦に参加した男が言うには、あまりの立ち回りの激しさに、血の霧が漂っていたそうだ。

「しかし本当にそんな物が… この先のワイト島に眠ってるのか?」

静寂。

「…そうか。お前がそう言うなら、俺は信じよう。あの一騎打ちの傷に誓って」

静寂。

「あれを持ち帰れば、俺たちはまた栄えるはずなんだ」

先程からエィルサクが話しかけているのは、彼が腰や背に身に着けたドクロのうちのひとつ。10年ほど前に戦った西方の「昴国(すばるのくに)」の剣豪のものだった。

エィルサクが腰につけている七つものドクロは皆彼が倒し、その腕を認めた兵(つわもの)のものだ。
それら七つのドクロを身につけ、戦いの最中でも話し続けている事から、「七人組のエィルサク」と呼ばれている。

北方の戦士でもこのような儀式めいたことを行うのは誰もいない。そのため、故郷では半ば狂人扱いされているのだが、戦場での彼は紛れもない英雄である。背後から矢が飛べば、背負ったドクロがそれを知らせ、敵陣に囲まれれば手薄な穴をまた別のドクロがそれを知らせる。平和な村では誹りを受けようが、戦場での"狂者"は"強者"に塗り替えられる。

「…おい、見ろ。皆。島が見えてきたぞ」

激しく揺れる波の合間から、黒い岩の塊のような島が見える。

ワイト島ー。
数百年前、魔法の腕を持つとされるドワーフの鍛冶師が、神々の土地から逃げるように移り住んだ魔の島。
多くの魔物 と亜人が巣食うこの島には、移り住んだ鍛冶師が作り上げた伝説の武具や秘宝が数多く眠っているとの噂が絶えない。おそらくエィルサクもその伝承を知り、何かを見つけるために向かうのだろう。

「…なんだ、ジョンジー。何か言ったか?」

「下?下って何だ。船?」

遠方の島にばかり気を取られていたエィルサクは気が付かなかった。少し前から、大量の気泡が船の下からゴボゴボと上がり続けている事を。

「…! こいつは…!」

飛沫と共に現れた、巨大な七本の異形の触手。小舟をまるで枯葉のように粉微塵にするよりも早く、エィルサクは飛び上がっていた。

ドクロがかたかたと揺れる。
(七対七か―。ちょうどいいじゃないか、エィルサクよ)

ミニチュアを使ったペイントや短編・オリジナルの世界観をまとめていきます。 詳しくは下記Link参照。 https://scrapbox.io/SefarUhkhal/