ギー  【ベラゴアルドクロニクル】

ベラゴアルドは在るのじゃよ。ワシの名はギー。歴史家、魔法使い、星占師、人でなし、裏切り…

ギー  【ベラゴアルドクロニクル】

ベラゴアルドは在るのじゃよ。ワシの名はギー。歴史家、魔法使い、星占師、人でなし、裏切り者、他にも山ほどあった。何とでも呼ぶがよかろう。大事なのは物語じゃ。物語こそが魔法なのじゃよ。 ※物語のなかにはセンシティブな表現も含まれております

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ベラゴアルド年代記 -序

…さて、何から話そうかの。  モレンドの要塞での攻防。妖精たちの小さな冒険。旅芸人たちの不可思議な旅。ガンガァクスの魔窟、魔兵と戦士達というのはどうかな?すべては竜の仔の物語に繫がる話じゃ。おお、そうじゃ、そうじゃ、これが良いじゃろう。小鬼と野を駆ける者の物語。この世界を知るには調度よい話じゃ。  どの物語からでもよい。一度、覘いたほうが話は早かろう。少しはベラゴアルドの世界はわかるじゃろう。 …ストライダとは何者か? …妖精、弱き者たちはどう生き抜いているのか?

    • 込めたるは祈りにあらず |終話|

      別たれる辻  距離を詰めず、互いは静かに対峙する。  おびき寄せられたという時点で不利、まして時間を掛けた戦いほど悪手となるのも承知しつつ、アギレラは改めて相手を観察する。  額から血を流す眇の男。対のダガーを正手と逆手で持つ構えは、地走りの暗殺術に通ずる。互いに両手持ちだが、これ以上の狭所に持ち込まれれば、おれの直剣はいささか分が悪い。加えてあの形状、モミの枝葉によく似た乱雑な刃からして、あのダガーには間違いなく毒が仕込まれている。  アギレラはポーチから小瓶を取り出

      • 込めたるは祈りにあらず |十一|

        街道にて  街道を進むにつれ風向きが変わる。草木や土の匂いとは別で、前にも感じた妙な生臭さが混じり、アギレラの口数は明らかに減る。 「ここらで別れる」  街道も広がり人通りが多くなると、頃合いを見て立ち止まる。彼はずっと迷っていた決断をレモロに告げる。 「お前はこのまま街道を西へ、二つの道が重なったら北だ。ナロンには報せを送っておく、上手くいけば辻道で迎えがくるかもしれん」道の先に霞む見張り櫓を指差す。レモロは何も言わずに彼を見上げている。 「街道を逸れなければ、魔

        • 込めたるは祈りにあらず |十|

          日暮れを待たず  レモロを連れ、アギレラは山脈を越える。念のためポランカも避け、人影が見えればなるべく別の通路を辿り、時間をかけて北側に出る。  街道まで出れば、さらに人通りも多くなるがひとまずは一段落ともいえる。旅の街道と農村地帯では人の性質はまるで違う。皆が皆、見知らぬ他人、どこからか訪れどこかへ去っていく余所者で、互いに会釈程度の挨拶はすれど適度の距離感を保ち、過度の干渉を避けるのが作法となる。すれ違う者がどこの誰かなんて誰も気にせず、つまりは襤褸マントに身を包んだ子

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        • 残影と残響 —Ghost&Reverberation
          18本
        • ベラゴアルドクロニクル キャラクター名鑑
          16本
        • 紫砦と石の竜 【竜の仔の物語−序夜異譚−】
          7本
        • 銀と金 【竜の仔の物語−序夜異譚−】
          4本
        • ガンガァクスの戦士達
          11本
        • 妖精王の憂鬱
          10本

        記事

          込めたるは祈りにあらず |九|

          判断  アギレラは眠り続けるレモロを抱いて山脈を登り、見晴らしの良い平地で野営を張る。  キャリコらとは、孤児院の先の坂道で別れた。スミッチへの後始末は二人に任せ、ひとまず彼がレモロを引き取る運びとなったのだ。  金鷹までの猶予。キャリコが提案した折衷案はそれだった。三つの季節が過ぎるまでには、必ずアムストリスモを説得し、レモロを引き取らせる。そう胸を張るキャリコをひとまず信じ、アギレラは孤児院が燃え尽きるのを待たずにスミッチから遠ざかった。急いだのは、いち早く子どもをこ

          込めたるは祈りにあらず |九|

          込めたるは祈りにあらず |八|

          生き残り  ジャポが行う地母神教の弔いを待ち、準備が整い次第、アギレラは部屋に落ちていた古い燭台に火を灯す。油を撒いた屋敷にそれを投げ込む直前に、彼は何かを察知し、慌てて火を吹き消す。 「まさか!」自分を責めるふうに、ぴしゃりとうなじを叩く。「方々に気を散らせすぎた」苛立ちを隠さず、大股で部屋の隅へ進んでいく。「まったく、火薬庫のじじいがいなくて助かった…」倒れた戸棚をどかし、破壊された床の穴に手を入れる。 「まあ、なんてこと!」  引き抜いた片腕の先にぶら下がる小さな

          込めたるは祈りにあらず |八|

          込めたるは祈りにあらず |七|

          幕間の憤懣 「ちくしょうめ」  アギレラは二度目の悪態を吐く。最期にかち割った怪物の頭蓋から手斧を抜き取り、落ちていた布切れで直剣の血糊を拭き取る。退治した怪物どもはすでに骨と化している。ただひとつ、女の似姿の怪物を残して。 「終わりました …よね?」  玄関先で三角帽子の男が顔を出す。部屋中に散乱する臓物と血溜まりを避け、つま先立ちで慎重に歩んで辿りつく。 「ねえアギレラ殿、終わったんですよね?」 「キャリコか」どこにいた? 振り返らずに怒気の籠もるその背中が語る

          込めたるは祈りにあらず |七|

          込めたるは祈りにあらず |六|

          粛清  怪物は立ち上がり、両腕を広げる。ドレスは破れ、肥大した肉体が露出する。緑色の二の腕から肉腫が迫り出し、血管だらけの翼膜が広がる。 「イィィィィィィ!!」全身で叫び、威嚇する。  威嚇には様々な動機が伴う。この場合は逃亡の前提行動。つまりその場から飛び去ろうとしている。飛び去り、森へ隠れようと目論んでいる。迫り来る鈍色の塊、嵐に乗じてやってくる驚異。モニーンには見えている。見えていて打ち負かすことは不可能であると、悟っている。迫るは鍛え上げた肉体を持つ戦士。纏う鋼

          込めたるは祈りにあらず |六|

          込めたるは祈りにあらず |五|

          宴  振動と衝撃がレモロに覚醒を促す。  はじめは誰か、何かの叫び声をぼんやりと聞いている。外では激しく風が鳴り、本格的な赤鷺の嵐が今まさにやってくる。それはまるで、そこらじゅうで巨人が踊り狂っているかのよう。  屋根の補強は大丈夫だろうか?  ふと、そんなことを考える。見てこなくちゃ。見てこなくちゃ叱られる。  朦朧とした意識で瞼を開く。  定まらぬ視線で知った子と目が合う。その子はかなり間近で、こちらを見つめている。 「えっ?」目前で向き合う見開いた眼球が、強引に

          込めたるは祈りにあらず |五|

          込めたるは祈りにあらず |四|

          嵐の訪れ  その日もレモロは野良仕事を終え、孤児院へ戻る畦道を歩く。近頃のイーゴーの背中は、昔に戻ったかのような穏やかさがある。戻ったモニーンと、欠けた身体を取り戻した子どもたちが、彼を上機嫌にさせているのだ。  すると前方から男がこちらに向かってくるのが見える。男は変わった出で立ちをしている。目深に被る短く折れた三角帽子が特徴的だ。狩人なのか、旅人なのか、いづれにしろここいらの農夫ではなさそうだ。  不思議なのは、イーゴーが少しも警戒していないことだ。それどころか彼は

          込めたるは祈りにあらず |四|

          込めたるは祈りにあらず |三|

          些細な供物  レモロは懸命に働く。少しでも信頼を勝ち取ろうと躍起になる。働きぶりが認められたのか、そのうちに野良作業を手伝うまでになり、外へ出歩く機会も多くなる。  作業を終え、二人荷馬車で帰る途中、時折、麓のスミッチ村の者とすれ違う。大概が農夫で、もちろん彼らは孤児院の存在も承知している。貧しさが無関心にさせるのか、子どもらにあまり関心を示さず、ただ挨拶を交わしてすれ違うだけのことが大半だが、ごくたまに収穫した野菜や果物を恵んでくれる。  そんな折でも、イーゴーはふて腐

          込めたるは祈りにあらず |三|

          込めたるは祈りにあらず |二|

          咒婆の躾  ある朝、最年少のヒケアがいなくなった。ヒケアは足が魚のヒレのように変形しているので、ひとりで出歩けるはずはなかった。皆は首を傾げたが、レモロだけは真相を知っていた。  とはいえ、彼がそれを知ったのはまったくの偶然だ。ある日の夜更けに尿意で目醒め、ちびのヒケアを抱くイーゴーの姿を、廊下の角から隠れ見たのだ。  レモロがそのことを皆に言わなかったのは、イーゴーの様子がいつもに増して異様であったからだ。何より不気味であったのは、彼が奇妙な面を被っていたことだ。それは

          込めたるは祈りにあらず |二|

          込めたるは祈りにあらず

          ハースハートン大陸南、 ポランカの街から続く山脈沿い、 西の峰の麓にスミッチ村は位置する ベラゴアルドのどの村でも同じように、貧しく閉鎖的ではあるが、 同じように争いは少なく、人々は良識を持ち、穏やかに暮らしている。 込めたるは祈りにあらず 一| 違い子たちの家  モニーンが死者の国へと旅立つと、イーゴーの人柄はすっかり変わってしまった。  しかしそれはほんの切欠に過ぎなかった。新たな世話役として孤児院を訪れるようになった|咒師、主たる原因はその老婆にあった。  老

          ただ鐘は鳴る

           レムグレイド大陸中心部、王都からレム・オル山脈を越えて南に進めば、聖鈴都市アルトルが見えてくる。そこはアーミラルダ原初教団の総本山である。住人達はおおむね裕福な信徒であり、その潤沢な財産に加え、敬虔な巡礼者の支援により独自の文化を築く大宗教都市である。  アルトルに於いては、王国法に先立つ価値観で経典こそが尊ばれる。各地で宗派の分れる地母神崇拝において、地、王、法の三位主流の王都とは違い、アルトル原初経典での魔法なる存在は、信徒を貶める邪法と定義され、存在すらも否定されて

          往ては戻らぬ旅路の果てに

          —レムグレイド歴三百七年— 「最初はネル・ローっつう、でかい街だ。ん? フラバンジだよ。帝都アインハーから東。詳しく知る必要はねえ。あんな土地まで稼ぎに行く必要はねえ。おれ様はともかく、おめえらの脚じゃ三つは季節も過ぎちまう。魔物狩りならハースハートンでも事欠かねえ、だろ?」 「ともかくネル・ローだ。そこは帝都の東に位置するが、海を挟んでマルドゥーラ教団領からも近い。石の竜と女神様。重き淑女に軽き母。なんのこっちゃ知れねえ。教団てのはどれも怪しげと相場は決まってるが、あの

          尊き身代

          —レムグレイド歴三百二十一年、紫千鳥十八の月—  レムグレイド大陸北、港街ノマリナから南東に、チトマイオという小さな町がある。田舎でさしたる産業もないが、古くから王侯貴族たちの別荘地として栄え、温暖な気候と安定した治安を保ち、何より魔物が少ない土地である。  そんなチトマイオをガレリアン・ソレルが訪れたのは、レムグレイド王家の一端を担う大家、ヴァルデミリ家による依頼に応じるためである。  街外れの警備に声を掛け、宿を取る間もなく彼は依頼宅に向かう。巨大な正門では、武器を