被災地9

「御手の中で」〜とある老司祭の生涯‥13

              

カゲルの述懐が終わると、今日子は再び静かに祈り始めた。口をついて出るのは、やはりアヴェ・マリアの祈りだ。手にロザリオがなくとも、何度でも繰り返すことによって心が落ち着く。土に埋まったままのカゲルの表情が最初よりも柔らかくなっていることに、司祭も今日子も気付いた。

「さあ、出てくるんだ。君は必ず起き上がれる」

ふいに司祭が大声を上げた。

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