見出し画像

A magazine Curated by Kim Jones

文:倉田佳子

近年のファッション業界を賑わせた出来事 – ストリートファッションがラグジュアリーファッションの垣根を超えたこと、絶えることのないコラボレーションのニュース、セカンダリーでのブランドの価値評価 – の一部は、90年代後半の「裏原」を経験したデザイナー群が仕掛けたことである。その仕掛け人の中でも、階級社会のヨーロッパに飛び込んできた「老舗メゾンのルイ・ヴィトンに初めて黒人アーティスティック・ディレクターが就任」というニュースは、現代における社会的意義の後押しによりVirgil Abloh の存在をより一層強くさせた。


だが、実はそれ以前にラグジュアリーファッションに斬新な切り口で歴史的瞬間をつくってきたのが、イギリス出身のファッションデザイナー・Kim Jonesだ。(文字通り、2018年にLouis Vuitton のメンズ アーティスティック・ディレクターをKim JonesからVirgil Abloh が引き継いでいる)もはや説明不要なデザイナーとして、彼が残してきた数々の功績と日本への愛は最終的に必然と言える形でDiorでのメンズ アーティスティック・ディレクターへの就任を通して、近年のメンズウェアに新しい息吹をもたらしている。

そんな彼をゲストキュレーターとして迎え入れたのが今回の『A Magazine Curated by』ISSUE 19。『A Magazine Curated by』もKim Jonesと同じくらいファッション界においては知らないものはいない雑誌として君臨しているが、その面白みは 各号にファッションデザイナーをゲストキュレーターとして招き入れることにある。


2001年に同雑誌の前身として『NO. magazine』が刊行され、その3年後に今の『A Magazine Curated by』として創刊号にMaison Martin Margiela をゲストキュレーターとして迎えた。刊行するその時代感を代表するようなデザイナーをアサインし、雑誌の母体がまるでホワイトキューブかのように世界観や内容を毎号変幻自在に変えていく。

Kim Jones がお送りする今回の号は、入門書「Kim Jonesを知るためのA to Z」として、彼が純粋に好きなもの – コレクションしているもの、世界各国の友人、音楽、旅、仕事 – など全てをアルファベット順にしてぎゅっと1冊にまとめた。
同時代を共にサバイブし、遊び、仕掛けてきたKAWS、空山基、村上隆、Naomi CampbellやKate Moss、Nick Knight、Virgil Abloh、YOONなど錚々たるメンバーが並ぶ中、Kim による冒頭のイントロダクションにはルイーズ・ウィルソンアレキサンダー・マックイーン、そしてジュディ・ブレイムに捧げたい」と書かれている。まさに異才が生まれる原点をつくった人たちだ。

日本でこの雑誌を手に取るのであれば、自然と気になるのが 「JAPAN」というテーマのもと日本人の友人たちを紹介するページから、日本で撮影したエディトリアルが続くフレーズだろう。


Dior 就任後に必ず着目されるようになったKimの日本へのゆかりは、今に始まったことでもなく、冒頭で述べたように「裏原」が起こった90年代を体験しているところにある。
90年代UKのストリートブランド「GIMME FIVE」でスタッフとして働き始めたことを接点に、『A Magazine Curated by』 でも紹介されている Christopher Nemeth、藤原ヒロシ、高橋盾など同世代で活動するデザイナーに出会う。


そこに、Dior 創業者、ムッシュー・ディオールがブランド創業前に立ち上げたパリのギャラリーでアートディーラーとして、ダリなどシュルレアリストのアーティストたちと交流があった背景が重なり、Diorが開催した東京のショーでは、巨大なミラーボールかのごとく空山基の作品が鮮やかに会場を照らした。取って付けたようなコラボレーションではないKimの鋭くもしっかりした編集力は、まさに現代版ムッシュー・ディオールとして評価されているポイントだろう。

と、これまで書き続けた彼の90年代から始まる数々の偉業は、良い意味で本書では中心に置かれることなく、彼の今までの功績を裏付けるかのように、純粋にコレクションしている音楽、そして友人たち、影響を受けたクラブカルチャーなどがスクラップブックのようにランダムにまとめられている。時代を担ってきたキーパーソンやカルチャーが並んでいるので、ぜひこの1冊を”入門書”として今ファッションで巻き起こっているルーツを辿ってみては。

------------
Yoshiko Kurata
ファッションライター / コーディネーター
1991年生まれ 魚座。ロンドン留学を経て、フリーランスライターとしてこれまでに Fashionsnap、i-D JAPAN, SSENSE、STUDIO VOICEなどで国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなどを幅広い分野で取材・特集。2015年から CALM&PUNK Gallery のキュレーションにも関わっている。
https://yoshiko03.tumblr.com

※参考リンク



サポートされたい。本当に。切実に。世の中には二種類の人間しかいません。サポートする人間とサポートされる人間とサポートしない人間とサポートされない人間。