新陳代謝する身体

●細胞の更新について 
 細胞は私たちの身体を構成する基本単位である。人体の細胞の数は約60兆個と言われているが※1、一方で成人の細胞の数が37兆2000億個という数値が2013年の学術誌に計算結果が掲載された。
 一体どれぐらいの細胞が日々生まれては消えていくのだろうか。一説によると、毎日死んでは新しく生まれる細胞の数は、約3000億個であるという※3。また別の説では、全細胞約60兆個の150分の1にあたる約4000億個が死んでいくというものもある※4。
 細胞が入れ替わる速度は細胞ごとによって異なるため、一概に言えないという説もある※5。いずれにせよ数十兆個の細胞が私たちの身体を構成しており、それは数千億個の単位で日々入れ替わることで、身体を更新し続けている。
 人体を構成する細胞の種類というのは約250種であると言われている※6。その更新速度は各々の臓器や組織によって異なるが更新速度によって大きく4つに分けることができる。
 「速やかに更新される細胞」、「ゆっくりと更新される細胞」、「生涯に一部しか更新されない細胞」、「生涯更新されない細胞」の4つである。
 速やかに更新される細胞は「表皮」「角膜」「消化器系上皮組織」「精巣上皮」「造血組織」「リンパ組織」などである。例えば強い胃酸にさらされている胃の粘膜などは約3日で入れ替わる。年齢によるが肌や髪も約30日程度で入れ替わる。小腸の微絨毛なども1日〜2日で入れ替わる。
 ゆっくりと更新される細胞は、「呼吸器上皮」「尿細管上皮」「肝細胞」「膵臓」「結合組織細胞」「胃の壁細胞」「副腎皮質細胞」などである。脳などは早い細胞は1ヶ月で約40%が入れ替わり、遅い細胞は約1年で入れ替わる。肝臓は早い細胞は1ヶ月で約96%入れ替わり、遅い細胞でも約1年で入れ替わる。腎臓も速い細胞は1ヶ月で約90%入れ替わり、遅い細胞でも約1年で入れ替わる。筋肉は1ヶ月で約60%入れ替わり、遅い細胞でも約200日で入れ替わる。血液は4.5〜5.0リッットルあるが100日から120日で全て入れ替わる。
 骨もゆっくりと入れ替わる細胞である。骨は成人であれば207個あると言われている。それらが幼児期は約1年半で入れ替わり、成長期は約2年未満、成人は約2年半、70歳以上は約3年で全て入れ替わるという※7。
「HOW QUICKLY DO DIFFERENT CELLS IN THE BODY REPLACE THEMSELVES?」という記事には以下のような表が掲載されている。

●オートファジーと飢餓
 一方で細胞自体が入れ替わるだけでなく、細胞の中身を構成する細胞室成分も入れ替わっている。これはオートファジーと呼ばれており、細胞自らが抱えるタンパク質を分解する仕組みである。1963年にクリスチャン・ド・デューブによって命名された。ギリシャ語の「自分自身」を表す接頭辞の"Auto"と、「食べること」を意味する"phagy"を合わせた造語であり「自食」とも呼ばれる。
 このオートファジーはなぜ起こるのだろうか。それは細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防いだり、細胞室内に侵入した病原微生物を排除する役割を持つ。それが生体の恒常性維持に関与していると言われている。
 細胞は生命活動を行うためにはタンパク質などの生体高分子を作り出す必要がある。タンパク質はカラダをつくる筋肉、内臓、皮膚、血液などカラダの主要な構成成分であり、アミノ酸から出来ている。タンパク質を構成するアミノ酸は20種類あり、そのうちの9種類は体内で合成できないため必須アミノ酸と呼ばれている。その必須アミノ酸は栄養源として細胞外から取り込むことで細胞は普段の生命活動を行っている。
 しかし個体が飢餓状態におかれて栄養が枯渇し、アミノ酸の供給が断たれると状況が変化する。アミノ酸が枯渇すると細胞は生死に関わる重大なダメージを受ける。そこでこのオートファジーを働かせて細胞は一時的にこのダメージを回避すると考えられている。
 オートファジーが起きると、細胞内に常に存在しているタンパク質の一部が分解される。それによってペプチドやアミノ酸が生成され、生命維持に必要なタンパク質を合成する材料に充てられると考えられている。この機構は動物の個体レベルにおいても観察される。例えばマウスを一晩絶食させることで、肝細胞でオートファジーが起きることが知られている。
 ただし、オートファジーによる栄養飢餓の回避はあくまで一時的なものである。飢餓状態が長く続いた場合には対処できない。もしオートファジーが過度に進行すると、細胞が自分自身を「食べ尽くし」てしまい、細胞は死に至る。
 オートファジーは日々行われている。全細胞の約1-2%、成人男性で約200gが1日で分解され、しかもそのうちの70-80%は再びタンパク質の合成に使われる。




 





※1:日本雑学研究会著『数字で知る人体』毎日新聞社,2004,278p.参照はp.18.
※2:An estimation of the number of cells in the human body, Eva Bianconi, Annals of Human Biology, Volume 40, 2013 - Issue 6, pp463-471, 26 Sep 2012, Accepted 09 May 2013, Published online: 05 Jul 2013
「人体の細胞数の推定」,エヴァ・ビアンコニ他『人体生物学紀要』,2013年11・12月号,p463-471,
※3:田沼靖一著『死の起源 遺伝子からの問いかけ』朝日新聞社,2001,224p.参照はp.4
※4:田沼靖一著『アポトーシスとは何か』講談社,1996,239p.参照はp.12.
※5:中西義信著『細胞の生死』サイエンス社,2005年,102p.参照はp.8.
※6※7:https://sites.google.com/site/jinntainosaiboukousinnsokudo/

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

9

Chikahiro Hanamura

大学准教授として研究するかたわら、デザインや美術などの芸術表現、映画や舞台などでのパフォーマンス表現も行う。

身体異化論

古今東西の身体の変革に関しての考察。
1つ のマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。