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Banjo Set-Up 番外編

後編で既に雑談的な内容になってしまったのですが、番外編はまさに思いつくままに書きつけています。暫くお付き合いください・・

1: 結構難しいレグボルト

さて、バンジョーの修理ではネックのレグボルトが抜けない・折れた・根本がグサグサになった・・などのトラブルが多いです。此処は素人さんには結構大変なので専門業者に任された方が安心安全ですが、比較的マホガニーのネックに多く見られるので気をつけてください、またバーチというカバ系の木材もメイプルなどに比べるとヤワいのでボルトが抜けやすいみたいです。
自分でやってみたいがどうするのか?というと、ボルトを抜いた穴を少し広げて埋め木をして再度ボルトを入れるのですが、その際に硬い(メイプルやウォールナットなどの)材を使うことがあります、私はヒッコリーのドラム用スティックの折れたモノをドラマー氏から何本か頂いて用意していますが、これは神戸ギター工房の某E氏から教わりました。

レグ・ボルトを抜いたところ

曲がってしまったウッドベースのブリッジとか、交換した古いバイオリンのペグなど、再利用出来そうな部品は取っておいて下さい、結構使い道はあるし修理屋さんの中には「欲しい‼️」という方もおられると思いますよ。

「埋め木」といえば、糸巻きを交換したネジ穴や、ドブロのカバープレートを何度も脱着して広がった穴、トラスロッド・カバーの穴など、チョット埋め木して新しいネジを使いたい時に爪楊枝を使うリペアマンが居ますが出来たら「其処の木材と同じ木」で埋めて欲しいですよね・・
そこで役に立つんのが端材、メイプルならバイオリンの駒、エボニーはペグ、同じ材なら色合わせも簡単です。その辺りの気配りで「優秀なリペアマン」を判断するポイントにされては如何でしょうか?

2: ウッドリムの加工は道具

木工旋盤でリムを加工する作業の様子

バンジョーの話に戻って、結構依頼を受けるのが「トーンリングを載せ替えたいがウッドリムと合わない」いう件・・
アーチトップからフラットにする以外でも各社微妙な誤差があったり、変形してしまったり、ウッドリムを加工するのは難しい修理です。
実はバンジョーではトーンリングよりもウッドリムの方が大事な部品で、プリウォーの価格が高いのも皆んな良質なリムを求めているからなのですね・・
木工旋盤と慣れた加工技術を持っておられるか?良い修理屋さんを判断するもう一つのポイントだと思います。

またまた余計な話ですが修理屋さんを判断する基準の更にもう一つのポイントとして「雄弁な職人は信用出来ない」ということを或るお客さんから聞いて、なるほど🧐 と考えさせられました、自戒の念を込めて敢えて書き留めておきます。

3: 糸巻き

読者の方々はバンジョーのペグって分解されたことがありますか? プラネタリウム・ギアという小さなギアが組み合わさって1対4の減速比を得ているのですが最近ではRickardという1対10の精度が高い糸巻きが出て随分調弦が細かく出来るようになりました。それでもギター用の1対18とか1対21には及びません。

By Frets.com


By Frets.com


そしてどれを選んでも、ギターのようなウォームギアみたいな逆方向の回転を止めるメカニズムではなく、ペグボタンと本体との摩擦力によって弛まないようにしているだけなので(此処が実にプリミティブ  笑笑)調弦のし易さはペグボタンのネジの締め加減です、緩いと当然調弦が下がりやすくなり締め過ぎだと合わせ難いですが、持ち込まれる個体を拝見すると「ネジが緩い」場合が多いです。
糸巻き本体をペグヘッドに取り付けるナットも時々チェックしてみてもらうと良いですね、緩んでいることが多いですよ・・
Rickard以外ではBeacon Banjo社からKeith Tunerのチェンジャー機構が無い「単なる糸巻き」が販売されていますが、此れはギア比よりもギア自体や全体的な工作精度が高いので信頼できるように感じました。

Rickard 見た目では分かりません


Keith Peg 左2個が単なる糸巻き


4: テイルピース各種

個人的にはOettingerのフィンガー・スタイルが好きなので何個かコレクションしています、高価ではありますが2024年の時点ではレプリカ品が入手可能です、ただし重いので「後編」で言及したインピーダンス理論からすると合う個体と合わない個体が顕著ですね・・
また、カーシュナー型にも一時期凝っていました、悪い品物ではありませんが此れもプレストより少し重いのが難点でしょうか?

プレストに限らず、金属加工の町工場が危機的な状況なのはメディアなどで報道の通りで既にエレキギター用の日本製パーツはディスコンで中国製しか手に入りません。実際の所バンジョーの各部品は殆どがチェコのプルカ製か中国製で、日本国内で細々と作られていた「或るパーツ」も消えたか?消えそうですね・・

Prestoの金属疲労 例1
Prestoの金属疲労 例2

5: ブリッジの話

Snuffy Smithのブリッジは流石に良く出来ていて「困った時のSS頼み」という訳じゃないですが、何処かで音が濁るとか各弦の分離が悪いとか、悩んだ末にブリッジをSnuffy Smithに取り替えてみたら「治った」というケースが多々ありました。

5/8 size


メイプルとエボニーの高さ比率が良く考えられているのかも知れません。
横から見た場合の立て方は図の通り
弦の溝はナットに準じて切ります。

Tailpiece側を垂直に立てます



その他にも古い建物から取り外した材木から作られたとか、湖底から引き上げた材で作った、とか蘊蓄が多いブリッジが沢山売られています、どれも個性があり結構良い感じのモノがあります。
ブリッジは簡単に交換出来て、直ぐに結果が出るパーツなのでいろいろと持っていると楽しいです、気分を変えてみたい時には抜群の効果が期待できますが、それが良い音なのか?の判断が難しいところ・・

自作される場合はバイオリンの駒(のグレードが高いモノ)を参考に良質のメイプルを選べば大丈夫でしょう、木理の細かな点々の散らばり具合や硬さと軽さのバランスが注目するところです。

メイプルとエボニーの組み合わせ以外に、手に入る木材を片っ端から試してみた時期があって、形状も色々とトライしたり脚や穴のあけ方など、いろいろやってみました。結論的には「普通のが1番‼️」ということですが、先にも書いたようにメイプルとエボニーの高さ比率(重量比か?)が問題で、エボニー部分が高すぎると良くないように感じました。

6: ギター専門のリペアマンにバンジョーのメンテを頼む

フレット交換、ナット交換などはギターと同じような作業なのでギターをメンテしてる工房に依頼してる方が殆どだと思います。リペアマンもポリシーが人それぞれですしバンジョーに詳しい方だと嬉しいですが、なかなか良いリペアマンに巡り合うことは難しいかもしれません。
フレット交換の名人と言われる方にお願いしてみたら、流石に綺麗な仕上がりで左手のストレスが無くなりとても弾きやすくなって嬉しかった経験があります、そのフレットの端の処理の仕方などをルーペで観察して勉強させて貰いましたが、なかなか同じレベルには到達出来ません。
いつ頃からでしょうか?フレットに接着剤を使って指板溝に固定する方法が一般的になり、現在では殆どのリペアマンが「打ち込む」だけでなく「接着剤併用」の方式を採用しているようです。これはフレットの安定性では非常に効果がありますが打ち替える際にフレットを温めて抜かないといけません。新しいアイデアに疎いリペアマン氏で知らない方がもしおられたら、教えてあげて下さい。

7: ナットの材質

一般的には牛骨を使って制作します、高価で入手困難な象牙を選ぶメリットは見映えの他には然程感じません。ただし牛骨も象牙も品質は一定ではないのでスカスカなモノに当たる可能性もあります、その点合成樹脂では殆ど同一性能の品物が入手出来るメリットはありますが、一言で合成樹脂と言っても昨今では沢山の種類があり全てを試した訳ではないので、さてどれがバンジョーに最適か?良し悪しが(今のところ)分かっていないのが実情です、申し訳ありません。

Deering Vegaに使われている樹脂製ナット


私は1970年代に某楽器店でリペアを担当し始めてから凡そ半世紀以上という長い間楽器の修理や調整をしてきました。そんな中で感じたことは季節による修理内容の差があることです。秋が深まる時期には夏の暑さでニカワが剥がれたとか、寒さが厳しいと乾燥で割れが出てきたり、シーズン毎に持ち込まれるリペア内容は様々ですね。古い楽器は特に保守が面倒ですが反面としては楽しみでもあると思っています、もし其れが嫌だとか面倒だと感じられるのならオールド楽器は買わない方が良いと思います。

夏場の炎天下にクルマの中へ楽器を置きっぱなしで外食するなどホントは論外‼️なんですが・・  やってる人多いです、ご注意ください。

本当のところは(これは商売抜きで)リペアに出さざるを得ない状態にならないように、普段からご自身の愛器には最大の愛情と細心の注意を払って「良い音」が維持されるよう心がけて貰えると嬉しいです。



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