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キル・スイッチ

市街地。兵士は銃を構えたまま、恐るおそる歩を進めている。小隊からはぐれ孤立したそいつの様子を、ぼくは仮想距離750メートル先にある廃ビルの窓ごしから双眼鏡で監視していた。

兵士の動きが止まる。ヌーブめ。ぼくは左クリックをかちり。

狙撃銃から発射された弾丸に頭を吹き飛ばされ、兵士は斃れる。同時にそのプレイヤーは、脊椎に接続しているスティム・インプラント・ケーブルからの致死電撃を受け、死亡したことだろう。

コンピュータの言いなりになって、ぼくたち人間が――それをビデオゲームと呼ぼうがeスポーツと呼ぼうが、レスバトルと呼ぼうが――何かを競い合うようになって、どれくらい経っているのだろう? 数十年、いや数百年?

競い合う「何か」はいろいろだが、何かがが自分にあることを証明するため、ぼくたちはネットワークでしのぎを削る。頭の良さ。反射神経。語彙。課金するための収入。そして、人を殺す力。【続く】

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