世界的メタルバンドNightwishのマルチプレイヤーTroy Donockleyについて



はじめに

Nightwishとはフィンランドが誇る世界的に有名なメタルバンドです。
女性ボーカルをフィーチャーしたクラシカルなサウンドとヘヴィメタルを合わせた、いわゆるシンフォニックメタルのパイオニア的存在。

ただ、シンフォニックメタルとだけ断言するにはいささか勿体ない要素がこのバンドにはあります。

それはずばりフォークの要素です。

元々1stの頃からもフォーキーな要素はあったのですが、2007年のDark Passion Playからは完全にケルト音楽の要素を取り入れていきました。
そのサウンドの確立に一役買ってるのがFloor Jansenと共に2013年に正式に加入したTroy Donockleyという人物。

今回はそのTroy Donockleyに注目していきたいと思います。


Troy Donockleyについて


彼はイギリス出身で元々Ionaというケルトロックバンドやセッションミュージシャン、プロデューサーとしても活動しており、ギターやボーカル、様々な民族楽器をこなすマルチプレイヤーです。
特にUilleann pipes (イリアンパイプス)というアイルランドのバグパイプの奏者として有名。
90年代のケルトブームの時代にあって各方面で引っ張りだこだったみたいです。

NightwishではUilleann pipes、Tin whistle(ティンホイッスル)Bodhrán(バウロン)、Bouzouki(ブズーキ)など主にアイルランド、ケルト音楽にまつわる楽器を担当しています。


Dark Passion Play(2007)

Nightwishにはこの作品からゲストで参加、歌姫Tarjaが脱退して初のアルバム。

アルバムの流れを一変する「The Islander」ではさざなみの音とLow whistle(Tin whistleのオクターブ下の笛)、Bodhránが絡むケルトナンバー、徐々に男女ボーカルが加わり後半はUilleann pipesが楽曲にアクセントをつけています。

次曲「Last of the Wilds」ではUilleann pipesが大々的にフィーチャーされたインスト曲、途中Kantele(フィンランドの民族楽器)が奏でるワルツは感動ものです。
「Meadows of Heaven」
では、Uilleann pipesで参加してます。


Imaginearum(2011)

ここでもまたゲスト参加です。
今作は全体を通してストーリ性を感じるコンセプトアルバム。緩急を使ってメリハリをつけシネマチックかつAnette Olzonのポップなボーカルが前作より活かされた名盤です。

オルゴールが物語の始まりを告げる「Taikatalvi」は全編フィンランド語の歌詞、Low whistleの響きが心を穏やかにさせるも束の間、スリリングな「Storytime」で一気に本編へ突入。

「I Want My Tears Back」は個人的にバグパイプを使用したメタル曲の中でもダントツで名曲だと思っています。
ギターはじめから、タイトルを叫んだあとUilleann pipesとTin whistleがメロディを奏で盛り上げるヴァース、中盤ではUilleann pipesとギターの掛け合いのような展開もある贅沢な構成。もはやメンバー並みに活躍してます。

北欧らしいメランコリーを感じるフォークナンバー「Turn Loose the Mermaids」 はBouzoukiとLow whistleのアコースティックに始まり、後半はBodhránやオーケストレーションで盛り上げる。

マイナー調で哀愁漂う「The Crow, the Owl and the Dove」でボーカルを担当、途中Tin whistleが入るパートへの展開が最高。隠れた名曲です。

物語の終焉を迎える「Imaginaerum」でもUilleann pipesで参加。


ライブでも定番の「I Want My Tears Back」

※この動画でも分かるようにこのUilleann pipesは立って演奏が出来ません。
ド派手なライブでの演奏には向かず、サウンドもバグパイプの中ではパワフルではない為、メタルバンドでもバラード系に使用したりと、どうしてもフォーク寄りになってしまいがちなのですが、Nightwishはメタルの原形を崩すことなく自然に融合しています。これこそ僕がNightwishを特別だと思ってしまう所以です。


Endless Forms Most Beautiful(2015)

この作品から正式に加入しました。
それにより全体を通して余すことなくケルティックな要素を内包したアルバムになってます。Imaginearumであんだけ活躍していたら至極当然ですね。

壮大なオーケストレーションで始まる「Weak Fantasy」中盤にBouzoukiを使ったソロパートもありスリリングに展開する。

「Élan」はTin whistleとUilleann pipesがメロディを奏でるケルティックナンバー、しっとりと歌い上げるFloor Jansenもいい味出してます。nightwishの中でも人気の曲。

途中歪んたギターが入る部分もありますが、基本はアコースティックな美的バラードの「Our Decades in the Sun」
その流れを受け継ぐ「My Walden」最初にボーカル を取るのはTroy Donockley、Uileann pipesがリードしつつ後半はBouzouki、Low whistle、Violinを使ったトラッドなフレーズで埋め尽くされたケルトナンバー。

フィンランドらしい冷たいシンセから始まる「Edema Ruh」でもUileann pipesとボーカルを取っています。

「The Greatest Show on Earth」は壮大なオーケストラとメタルが交差し展開する24分超えの大作。

ライブも見どころですね!


Human. :||: Nature.(2020)


今作は人と自然をテーマにしており、前作の神秘的な部分を抽出して更に推し進めたアルバム。
全体的にシネマ的というよりは大自然のドキュメンタリーを見てるような没入感に浸れます。

オープニングトラックの「Music」部族の営みを垣間見るようなトライバルパーカッションの上をUilleanne pipesが漂う、その後映像が切り替わり壮大なオーケストレーションへとシフト、Floor Jansenのストーリーテリングのような歌唱からシンフォメタルへと展開する。
このアルバムの方向性を提示しています。

「Noise」はポップなメロディが冴え渡るスリリングなNightwish的シンフォメタル。

広大な自然を想起させる牧歌的なメロディをTroyが歌い上げる「Harvest」ギターとUilleanne pipesのユニゾンやキーボードソロのパートもありジャムセッションのようなケルティックメタルを堪能できる名曲。

「How's the Heart?」では初っ端からUilleann pipesがリードする。従来のNightwishらしさも兼ね備えたメロディックなサウンド

人類の本能を呼び起こすような”ハッハッ“というコールにトライバルなビートとモダンなヘヴィネスが合わさりライブ映え間違いなしの「Tribal」

CDでいうとDisc2にあたる部分ですが(サブスクだと#10から)はAll the Works of Nature Which Adorn the Worldをテーマに8曲8部構成で分かれた大作。ボートラではなく正真正銘の本編で、アルバムタイトルの自然にあたる部分。

Nightwishからメタルの要素を削ったフルオーケストラで実はこれこそが本来の姿なのではと思うほど完成度が高く、平気で聴けてしまうのが不思議なほど。

「Moors」「Ad astra」にもUilleann pipesが使われています。
ケルト音楽の世界ではダンス系の早い曲ではなく、エアーというスローテンポの曲の方が極めるのが難しいとされています。
ケルトとは違いますが、ここではスローテンポで聴かせるUilleann pipesが心地いいメロディを奏でており、Troy Donockleyがその分野で確かな技量を持った人物であることを再認識させられます。

後半は見どころの一つ!


最後に



いかがでしょうか、やはり加入前と加入後を聴き比べても音楽性の違いは一目瞭然、Troy Donockleyという人物がNightwishにもたらした要素はそれほど多大なものであったという証拠だと思います。

2017年からはバンドのリーダーでキーボーディストのTuomas Holopainenと共にプログレッシブなケルトロックAuriで活動したりと、Tuomasもかなり信頼を置いてることでしょう。

残念ながらMarco Hietalaが脱退してしまいましたが、その代わりにボーカルを担当するパートもあり今後も主要メンバーとしての活躍を期待してます。

以上、ありがとうございました。

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