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『ソードアート・オンライン アリシゼーション編』感想 冒険は、終わらない。

展開・情報などの直接のネタバレは極力避けていますが、特に終盤の展開から受けた感銘を抽象的に記述しているため、「どう転ぶか」ごとワクワクしたい人は読了後(視聴後)に読むことをオススメします。本作自体は非常に良く、唯一無二の面白さがありました。

12月中旬、長いラノベあんま読まなくなった期間を経て、ついにSAO原作マイブームが再来。先週末時点では15巻の半ばまで読んでいましたが、今週いっぱいで18巻、アリシゼーション編完結まで読み切ることができました。

まず感想を述べるとすれば、あまりにも壮大な物語でした。10巻というボリュームもさることながら、シミュレーション世界であるアンダーワールドの文明や歴史、魂を物理的に発明したフラクトライトによる人間の創造。まさしくそこは「異世界」であり、時間、空間の広がり、そして人々の魂までもが、どこまでもリアルなシミュレーション世界として生み出されていました。

SF考証としては(自分も詳しくないけど)まあゆるゆるだなと思いつつ、それ以上に登場人物たちの想いがとにかく強く綴られ、主人公キリトもまた、ただのチートではない、一人の少年としてそこに生きていました。本作のヒロインであるアリスの激動する人生にも、非常に惹き込まれるものがありました。

終盤3冊は全編号泣の連続で、特に最終巻であるアリシゼーション・ラスティングは、もはや感動や喪失すらも超えた、絶望や畏怖、そして無限に広がる未来への希望と、手に汗握るどころか、心臓が早鐘を打つように食い入ってしまいました。正直、もちろんライトノベルとしてはきれいに話をまとめて大団円、というのが求められていそうですが、めくってもめくってもどこまでも収束することはなく、物語も世界も無限に広がり続け、すべてが始まるようにして終わる……まさにオーケストラ演奏、ハリウッド映画を思い起こさせるような締めでした。

原作となるWeb版ではアリシゼーションが最後のエピソードだったこともあり、本作はこの物語で一旦の終結を迎えます。しかし皆さんが知る通り、すでにSAOは番外編2巻を経て、新章《ユナイタル・リング》へとその新たな一歩を踏み出しています。

アリシゼーションの物語は、どこか冗長的であったり、ご都合的であったり、考証不十分と感じたり、人によっては合わないこともあるかと思います。それでもあなたが“感情の奴隷”なら、ぜひ手にとってみてください。活字10冊は厳しい、という方は、現在好評放送中のアニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション』をぜひ見てください。こちらも4クールと非常に長丁場にはなりますが、きっと最後まで駆け抜けた先には、他では得られない唯一の感情を残してくれると信じています。

最後に本当に正直な感想を言うと、怖かったです。悪役が、ではありません。生まれてしまったものが、起こってしまったことが、そのあまりの規模と、儚さ……そしてそれ以上に、「得体の知れない超越者」を目撃してしまったのだという畏怖が、今でも心に纏わりついています。同時に、川原礫(著者)という人物の文筆にも、類まれなる才が宿っているのだと再認識しました。ここまで感情を揺さぶる、度肝を抜く、畳み掛ける、それも何度も何度も衰えることなく……長らくライトノベル読書から離れていましたが、1ページめくるごとに、どんどん際限なく先が気になる。こんな体験は本当に久しぶりでした。川原先生の、一本一本絹の織物を縫い上げるかのような情景の組み立て方は、非常にダイレクトに感情を励起させる魅力があると思います。

そして最後の最後になりますが、アリスちゃんは本当に可愛かったです。物語が終わってみれば、結局我々は正義を振りかざしながら、彼女の人生に決して癒えることのない大泥棒を働いてしまったのだと感じます。キリトはきっと彼女のことを大切にしてくれると思いますし、彼女もそれによって笑顔の絶えない生活を送れているかもしれません。幸いなのは、アリシゼーションから一ヶ月後の新たな物語であるユナイタル・リングがすでに手元にあることでしょう。何が事故で、何が悪事かなんて結局はわからない話で、だからこそ今に、そして未来から目を背けず、彼女と、彼女の尊い世界のために戦うことが、今の僕たちにできる最大のことなんじゃないかなと思います。

わくわくする冒険譚、壮大な世界の結末……そんなファンタジー物語ですべてが締まるかと思いきや、最後の最後に綴られるキリトのあまりにも等身大な人生が、胸の底をえぐるかのような現実感と喪失感をもって、自分の人生と重なりました。このまま物語が終わってしまったら、本当に夢から覚めてしまう。現実という重い絶望に潰されて、二度と立ち上がれなくなってしまう。子供でなくなるということは、きっと大人になるということなのかもしれないけれど、それでもそれは、一つの死です。喪失です。きっと、当時SAOの完全完結編としてアリシゼーションのエピローグを書いていた川原先生の深い心情が、あのあまりにも現実を突きつけてくるエピソードへ込められているんだと思います。

それでも。現実を見るということが、子供でなくなるということがどれだけ正しくて、どれだけ避けられない運命なのだとしても。それでも……それでも、きっと何もかもが終わり、過ぎ去ってしまうことは、決してない。いつしか完全に消沈した心は、すべての反動を撒き散らすかのようにどこまでも際限なく燃え上がり、そうしてアリシゼーションの最後の一ページを読み終えたときには、僕の心には言いようのない深い感情が渦巻いていました。

物語は終わらない。

冒険は、いつだって目の前にある。

“本当に大切なこと”を、決して取り違えてはいけない。どんな常識でも、正しさでも、運命でも、それでも本当に大切だと思うものを、その手が燃え尽きるまで追い求める……それが。

それこそが、人生という冒険。

僕たちの、無限の未来だと。

ネット視聴・地上波同時配信はAbemaTV(一週間無料配信)

全話無料配信はAmazonプライムなど

著者の川原礫先生、SAOを発掘してくれた編集の三木さん、美麗なイラストで多くの場面を描き出してくれたabecさん、アンダーワールドのために長い時間を戦い続けてくれたキリトとその仲間、そして人生と、世界と戦い、これからも多くの苦難が待ち受けるであろうアリスへ、大いなる感謝と敬意を。
追記:現在放映中のSAOアリシゼーション第1クールOPでは、アリシゼーション・ビギニングの記述が伺えます。これは原作9巻の副題ですね。ということでクールごとに副題が変わると予想しているのですが、残り3つを予想しておきましょう。内容の区切りと巻数のタイミングで言えば、ビギニング→ライジング→インベーディング→アウェイクニングかな、と思います。当たるかな? てかこう並べるとめっちゃ起承転結きれいですね……。エクスプローディングとか、適当すぎるサブタイのときもあるけど。

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