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なぜ後発地方クラブはJ2の壁を越えられないのか

要約すると
・後発地方クラブはなかなかJ1初昇格できない
・たちはだかるプロクラブ経営の大きな壁
・これから先のJ2はどうなっていくのか

<筆者>

ゼロファジ(@Zerofagi)。ドーハの悲劇をきっかけにサッカーにハマった黄金世代。2010年南アW杯に感銘を受け、2011年から地元のファジアーノ岡山を応援するように。それと同時に初心者にもわかりやすい分析系サッカーブログをスタート。現在はサッカーと防災をメインテーマとしたブログや、Youtubeで情報発信しています。

【ブログ】ゼロファジブログ https://zerofagi.com/


後発地方クラブはなかなかJ1初昇格できない

Jリーグの昇格チームを見ていると、「なんかJ1に上がってくるチームの顔ぶれっておんなじ所ばっかりだなあ」と思うことありませんか?実際のところどうなのか?ちょっと過去のデータを見てみましょう。

2012年から2017年までの6年間でJ1に昇格したチームがこちら。
☆マークはJ1初昇格を達成したクラブです。

全部で18枠ある昇格枠のうち、J1にすでに在籍したことのあるクラブが実に15枠を押さえていて、初昇格を達成したクラブはたったの3つにとどまっているんですね。データの上で見てみても「やっぱり毎年同じような顔ぶれがJ1に帰ってくる」傾向ははっきりでています。こうなってくると、いわば”J2とはほとんどJ1経験クラブのイス取りゲームである”と言っても過言ではないかもしれませんね。

この6年間でJ1初昇格を達成した徳島・松本・長崎の3クラブは、いずれもJリーグにあとから参入してきた後発地方クラブです。今年のJ2でJ1未経験な後発地方クラブを挙げていくと、町田・岡山・山口・金沢・水戸・栃木・愛媛・岐阜・讃岐・熊本の10クラブになります。J2は全22クラブですから実に約半数をこうしたクラブが占めるわけですね。6年間でおよそのべ60チームあり、そのうちたった3チームだけがJ1に初昇格した、と。つまり95%のチームは高いJ2の壁にぶちあたって跳ね返されているのが現実です。

では、なぜ後発地方クラブはJ2の壁を越えられないのでしょうか?

自分の応援するファジアーノ岡山というクラブはJ2昇格してからも順調に成長を遂げてきており、後発地方クラブのいわば優等生的存在と呼ばれています。そんなクラブをおいかけてきたサポーターの立場から見た所感をまとめてみました。

たちはだかるプロクラブ経営の大きな壁

Jリーグには現在、J1・J2・J3と3つのカテゴリーがあります。このうち純粋なプロリーグと呼べるのはJ2とJ2で、J3はいわば本格的なオールプロへ移行するための”準備リーグ”的な位置づけになっています。

後発地方クラブは5部6部といったアマチュアの下部リーグから昇格を重ねてJ3→J2へとたどりつくのですが、J2に昇格したところでプロクラブ経営の壁にぶち当たることになります。

2017年度 Jリーグクラブ決算一覧(Jリーグ公式)

2017年度のJクラブの事業規模が発表されていますので、これを参照してみましょう。J3のトップと最下位の差額がおよそ6億5千万円ですから、J3の事業規模はだいたいこの範囲におさまります。これに対してJ2の方はどうかというと、およそ20億円(45億の名古屋はちょっと例外扱い)とまさに桁が違う規模になっていることがわかります。J2以上になると事業規模でここまでクラブ間の差が広がってくるんですね。

当然収益の多いクラブのほうがチーム強化費に充当できる資金も調達しやすいわけですから、よりいい選手を呼んでこれますしリーグで好成績を残しやすくなってきます。割と番狂わせの多いJ2とはいえ、やはりサッカーはお金がモノを言うスポーツ。下から上がってきてJ1を目指そうというなら登っていかないといけない壁はかなり高いと言わざるを得ません。

2017年に昇格した長崎が11億2000万円という規模ですから、最低でもこのあたりまで事業規模を拡大させておきたい。Jクラブの収入の3本柱は、チケット収入、スポンサー収入、グッズ販売収入ですが、それぞれの分野において相当な営業努力をしなければなりません。アマチュア感の残る運営では、競争のレベルが上がるJ2以上の成長合戦についていけず、経営がおかしくなってしまうところも過去にいくつかありました。上を目指していくのであれば、ビジネスもサッカーもちゃんとわかるプロの経営人材や優秀なクラブスタッフがほしいところです。

事業規模以外にもプロクラブ運営で大きな壁になるのが施設面のこと。練習場やクラブハウス、そしてスタジアム。プロクラブが備えているべき施設を持たないところからスタートするクラブがほとんどです。しかし、親会社を持たない地方クラブに自前で作れるような資金はありません。ですから主に行政と連携する形になりますが、観客動員の少ないクラブでは公共財としてのアピールに乏しい。集客はまさに営業の範疇ですから、やはりここでも営業力が大事になってきます。

クラブの成長度的にまともに昇格が狙える位置にクラブを押し上げるだけでもかなりシビアな努力が要求されます。さらには成績が伸び悩めばJ3への降格もあり得る。J2に上がったばかりのクラブの貧弱な競争力ではJ2に定着することもなかなかにハードルの高いミッションです。もしJ3に降格してしまうと最悪クラブが立ち行かなくなるのでは?と危惧されるクラブも毎年のように出てきます。

このように、下のカテゴリから上がってきたクラブがJ1昇格を達成するまでには、資金面でも、人材面でも、営業面でも、施設面でも、かなりのハンデがあります。そういう状態から時間をかけて成長していき、問題を解決していかなければならないんですね。おなじJ2というショーケースに収まっていると、どのクラブも同じステージにいる”ライバル同士”のように見えてしまいますが、その背景や内実は実にさまざま。リーグ順位表は純粋な競技成績のみで決まりますが、それだけでは見えてこない”地の競争力の差”が確実に存在します。

これから先のJ2はどうなっていくのか

J2で今季好成績を収めている町田ゼルビアをIT企業大手のサイバーエージェントが買収し経営に乗り出すというニュースが報じられました。聞けばJ1でもタイトルを狙えるようなビッグクラブを目指すと宣言されていて、ゆくゆくはACLなど海外にも出ていけるクラブにしていくそうです。

また、湘南ベルマーレ(J1)をRIZAPグループが買収したり、v・ファーレン長崎(J1)をジャパネットたかたが子会社化したりと、このところ親会社をもたなかったクラブを大きな企業が買収し経営に乗り出すケースが相次いでいます。

先ほども述べた通り資金力の差は競争力に直結する要素です。親会社を得たクラブは資金的な面で持たないクラブに有利なポジションをとりやすくなるのは間違いありません。こうした流れが今後も続くのであれば、親会社を持たないクラブが半数を占めるJ2の有り様も変わっていくことでしょう。はたして後発の地方クラブはどのようにしてJ2の壁を乗り越え、悲願であるJ1初昇格を達成するのか?

どんどんと強豪化していくクラブと渡り合いながらも、初昇格を達成するクラブが出てくるならばそれはもう大したものです。敵味方関係なく「お見事でした!」と素直にその偉業を称えたいですね。だってほんとにほんとにすごいことですから。

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