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サッカー指導における『学習』の在り方を探る~アクティブラーニングの視点から~

【要約すると】
・サッカーの指導において、選手の「学び」はどう考えられているのか?
・学校教育の現場においても、「学び」の形は変化している
・これからのサッカー指導の在り方について、模索してみよう

【自己紹介】
わっきー(@kumaWacky):和歌山県立粉河高校にてサッカー部顧問を務める。教職の道に進んだのも28歳と遅いが、サッカーに関わったのもそこから、つまり選手経験を持たずに指導者の道に入った。全力疾走しか設定されておらず、気付けばここにいました系男子。見た目はグリズリーなのにリラックマをこよなく愛する要注意人物。独特の視点で切り込んだ先は新たな地平か、それとも。。。

《今、現場で起きていること》
『啐啄同時』。私の好きな言葉の一つである。禅語ではあるが、指導における大切な視点を表していると思う。「啐」とは、卵の中の雛鳥が殻を破って外に出ようと内側からつつくこと、「啄」は親鳥が卵の外から殻をつついて雛鳥を出してやろうとすること。つまり、それが同時に行われて初めて雛鳥は殻の外に出られることから転じ、事を成すには成そうとする働きかけと、それを助ける働きかけとが重なって初めて実を結ぶことを表現している。選手たちが成長を求めて取り組むことが「啐」であり、それを指導者が手助けすることが「啄」と考えて頂きたい。

ここ最近の様子を見ていて切に感じているのが、SNS等の活用も相まって、サッカーに関する知見の広がり、深さは眼を見張るものがある、ということである。私自身も様々な繋がりを得る中で、非常に多くのインプットを得ることができた。サッカーというスポーツへの向き合い方そのものが大きく変化してしまうほどのインパクトがそこにはあった。自己紹介で述べた通り、私は高校生年代の選手たちの指導に日々携わっている。自身が獲得した様々な知見を、チームに選手たちにどのようにして伝え、落とし込んでいくのか日々試行錯誤を繰り返している。

そこでふと気付いた。自分が得たものは確かに素晴らしい。しかし、目の前の選手たちはこれを求めているのだろうか?その前に、選手たちが何を求めているのか、そもそもそれを自分は知っているのだろうか?選手たちへと一方的に投げつけて終わっていないだろうか?と、次々と疑問が湧いてきたのである。そして思い返したのが最初の言葉、『啐啄同時』である。指導の現場において、選手たちの目線から見えているものが欠け落ちているのは、大きなエラーを孕んでいると思ったのである。

《学校教育の現場から》
学校教育の現場では、おりしも新しい学びの形が模索、導入される段階にある。いわゆる「アクティブラーニング」と呼ばれるものである。これは、1980年代~90年代にかけてアメリカで普及していった教育の総称でもあり、主眼として「学習者の主体的な学びの姿勢を引き出す」ことを目的としている。ここでポイントとなるのが「自主的」と「主体的」の違いである。「自主的」というのが目的それ自体も自ら判断することが求められるのに対し、「主体的」とは明確な目的に対して自らの意志や判断によって行動することと区別されている。つまり、アクティブラーニングにおいては、学習者が主体的に学ぶために、教育者側が目的や課題を明確に示すことが要求されるのである。

このような視点に立てば、アクティブラーニングが効果的に成された場合、学習者は主体的、能動的な学びの中で学習し、また次の学習へと主体的に向かうというサイクルが形成されていくと考えられる。しかし、そこに潜むデメリットとして、教育者側の導きが不十分だと、学習者も含めた全体が行き先を見失ったかの如く身動きが取れなくなる可能性もあると言える。そして、学校現場でもまだ手探りで漸次的導入をしている段階ではあるが、アクティブラーニングという方法が学習者の「主体性」を導き出すものである以上、サッカーの指導にも有効に活用できるのではないかと考えるに至った。

《指導実践として》
いざアクティブラーニングをサッカーの指導に、とは言ってみても、アクティブラーニングとして括られるものも多岐に渡っている。詳細は調べていただけたらと思うが、いくつかの方法の中から実践出来そうなものとして「シミュレーション」「グループ学習」「ディベート」「プレゼンテーション」辺りを抽出した。本校サッカー部の取り組みとして、グランドで行う練習と、室内で行うミーティングとがあるが、ここではグランドでの練習で取り入れた「シミュレーション」と「グループ学習」の実践例を紹介したい。

・条件付きミニゲーム

これは、ハーフコートでの7vs7+2GKミニゲームである。ここに、例えば青チーム側には『中央のゾーン(赤い箇所)は必ずグラウンダーのパスを繋いで通過する。2タッチアンダー。ボール奪還時のタッチはカウントしない』という条件を提示。赤チーム側には『中央のゾーンをグラウンダーのパスorドリブルで通過することは禁止。楔→落とし等はOK』という条件を提示。そしてゲーム開始前にGK含めたメンバー全員で、どのように攻撃や守備を行うかの話し合いをする。そこで、「自分たちの条件での狙いを実行するには?」「相手の狙いを阻害するには?」という、原則的なポイントの投げかけを行う。それぞれにゲームにおいて起きるであろうことの予測をし、事前に一定の対策を共有する。そしてゲームに入り、ゲーム中の状況把握とコミュニケーションの内容確認、ゲーム後の情報共有と次のチャレンジ、というサイクルで練習を進めていく。

お互いの「狙い」を明確にしておくことで、実行するにはどうするか、実行させないためにはどうするか、という部分がよりクリアになるため、プレー原則の共有を実感させる効果は大きいと感じる。また、そういう土台があることで、選手同士の主体的なやり取りが明確に増えたことも成果かと思う。

・3vs2ライン突破
これは、横15m×縦20m程度のコート内で行うメニューであるが、選手を事前に3~4人のグループに分けてしまい、それぞれのグループに小さなホワイトボードとマグネット、マーカーペンを渡す。そして、オフェンス時にはどのような原則が、ディフェンス時にはどのような原則があるのか、を全体で確認する。その後各グループに分かれて、自分たちはどのような形で攻めるのか、守るのか、について話し合いを行い、練習を開始する。同時多発的に練習を進めるよりは、トライ&エラーの確認を大切にするため、コートは少なく設置する。プレーを見たらそれぞれのグループの選手に、狙いと実際のプレーとの比較を聞き、こちらとの対話、グループでの対話を重ねていきながら練習を進めていく。
こちらもやはり「狙い」が共有されることで、トライ&エラーが具体化され、主体的に解決を図る姿勢が明瞭になっていくのが分かった。

このような形以外にも、日々模索を続けながら選手たちと共に成長することを目指している。最後に、今後のサッカー指導において、どのようなことが求められていくのかについて考えてみたい。

《これからに向けて》
今回紹介したことは、あくまでも指導における一つの側面でしかない。なので、必ずしもこの方法が優位性を持ち得るかは別の話であろうとは思う。しかし、いかに優れた内容を選手たちに示せたとしても、それを実行する選手たちに主体性が存在しないとなると、個人的には疑問が残る。指導者がそれぞれどのような指導哲学を持ち、どのような方法で指導するかは千差万別であろうが、選手たちが主体性を持ってサッカーを出来ているのか、ただ「やらされている」だけなのかは大きな違いだと思う。

プレーにおける「時間的優位」などにも着目される昨今の状況に鑑みると、「判断」がショートカットされてプレー速度が上がること自体はプラスな話だとは思う。しかし、その実現のために選手たちから「思考」を奪って、意味を理解することなく原則の実行だけを徹底するような指導には、どうしても疑問を持ってしまう。

それならば、少し回り道になるかもしれないが、「思考」を重ねた結果として「判断」がショートカットされるような積み重ねの方が良いのではと私は考えている。それゆえに、選手たちが「思考」することが習慣化されるような指導方法、内容を模索し続けてきた。

自チームにおける実践とその効果の相関については、まだ結論付けられる段階ではないと思う。選手たちそれぞれの中に、主体的な取り組みをする意識が育っているのは間違いない。しかしそれがチームとして束ねられた時に、どのような変化に結び付きまた結果を導き出していくのかは今後の展開を待つことになろう。ただ、今回提言したように、選手たち自身の学びを刺激することで、新たな成長の可能性は確実に広がると確信している。今後も幅広い模索を続けつつ、多くの指導に携わる方々とも共有していけるような情報を発信していきたい。


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