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4ヶ国語を学んだ僕がサッカーの言語化について思うこと

要約すると
- 識者と一般人の知識差を埋めるために言語化が必要
- 文脈を共有することによって言語の価値が最大化される
- 文脈の共有化には知識の体系化が必要


筆者

stats_keum(@holokeum)(24)
物心ついてから地元クラブ浦和レッズを応援していたが、2年間のフランス留学を機にFCナントを応援し始める。シーズンチケットを購入しボージョワのゴール裏で跳ねていた。留学中のVR専攻をきっかけにITに興味を持ち、帰国後は統計・機械学習を使ってサッカーの研究をしている。サッカーの他にもラグビー、野球、相撲などを現地観戦するスポーツ好き。好奇心が祟ってなにかと迷走しやすい。修論に向けた研究は少し迷走気味。就活はがっつり迷走中。この迷走力を活かしてスポーツの学際化を目指す。

競争の激しいスポーツの世界では日々新たな考え方が生まれ、世の中に広がり、浸透していきます。そのプロセスに欠かせないものが言語化です。サッカーは特に外来語が多く、外国語との類似性があります。文化・文脈の理解の重要性について思うことを、2年間のフランス留学、4ヶ国語学習の経験からお話しします。

言語化 vs. 見て学べ

言語が私達の生活にどれほど重要かは、いまさら話す必要もないですね。言葉が人類のツールとなって以来、私達は大きく以下の3つのことが可能になりました。

1. 言語コミュニケーション
2. 言葉で他者の心を動かすこと
3. 情報の抽象化とライブラリ化

最初の2つはイメージが付きやすいと思います。ここで重要なのは3つ目の情報の抽象化とライブラリ化です。情報技術革命真っ只中の現代ですが、言葉は依然として人の生み出した最強の情報処理ツールであり、情報の抽象化とライブラリ化は、時間、空間を超えて情報を処理するために必要不可欠です。このプロセスのおかげで、私達は蓄積された知識に触れ、そこから新たな知見を生み出し、発信することができるのです。

識者の方は「言語化なんてしなくたって、ピッチを見れば答えが転がってるじゃん」と思うかもしれません。いわゆる「見て学べ」派ですね。しかしサッカーでは、22人の選手+ボールが目まぐるしく90分間動き続けます。初心者にとってピッチ上の事象(情報)量は膨大すぎます。

言語は、識者が持っている知識や考え方を初学者に伝えるのに効率的なツールです。初学者が見て学ぶことができるレベルに到達するには、まず識者がどのように事象を言語化(抽象化)しているかを知る必要があるのです。

1試合に180語!外来語だらけのサッカー中継

日本におけるサッカーの言語化を考えるとき、その外来語の多さは注意する必要があります。いくら適切な意味の言葉を使っても、それが外来語の場合うまく伝わらないことがあるからです。サッカー中継で用いられる外来語(広島女学院大学, 渡邊, 2011)によるとサッカー中継では1試合に平均180の「異なり語」が使われます。つまり1分間に2語、新たな外来語を耳にする計算になります。このようにサッカーでは多くの外来語が使われていることがわかります。

さらに、同じ単語でも意味が変わる言葉があります。例えば「ライン」という単語は、上論文の中だけでも「パスライン」、「ディフェンスライン」、「タッチライン」の意味で使われていることがわかっています。このような意味の違いを理解するには、サッカーにおける「文脈」を知っている必要があり、それを知らないまま意味を正確に理解するのは難しいです。僕はこのサッカー言語化における文脈理解の必要性に、外国語学習との類似性を感じています。

外国語学習から学んだ3つのこと

僕は2015年の秋から2年間フランスのナントで留学をしました。(元日本代表監督ハリルホジッチのもと、快進撃を続けているFCナントの本拠地。ナントまで取材行きたい方、連れてってください。)

渡航時は、大学で中国語と英語を履修したのみでフランス語の知識はゼロ。渡航前にはフランス語のテキストと向き合う時間もありましたが、留学生活が始まると日本で「勉強」したフランス語が全く役に立ちませんでした

原因はフランスの文化を全く知らないまま、言葉だけを学ぼうとしていたことです。実際、文脈を意識しないまま文法ばかりを学び、それすらもほとんど身につきませんでした。初めてフランス語を上達していると感じたのは、渡仏して数ヶ月が経ち現地の文化を知るようになってからです。現地でのフランス語を学ぶ中でいくつかの発見があったので紹介したいとおもいます。

1. 「言葉はツール」: 目的にはならない
2. 「言葉は生きもの」:場所・時間で意味が変わり、画一的な定義は難しい
3. 「言葉より文脈」:文脈(環境)を共有できていれば最小限の言葉で伝わる

1. 言葉はツール

前述の通り、言葉は非常に便利なツールで、複雑な概念を一言で表すことができます。

言語から複雑なアイデアにアクセスできる例:  ハーフスペース
・「ピッチを縦方向に5分割した際に、中央とサイドの間にできるレーン」をシンプルに表現可能
・「ハーフスペース」が使われる文脈・概念(ポジショナルプレーなど)にアクセス可能

言葉はあくまで手段という意味でもツールです。サッカーやコミュニケーションにおいては、それらの質向上を目的とすることがほとんどで、言葉はその手段として用いられているに過ぎません。言葉で伝わらなければ、他に方法はいくらでもあるのです。

2. 言葉は生きもの

言葉は絶えず変化します。そこに時間場所の影響があることは、古文の教科書を開かなくとも、年代やコミュニティの違う人と話せば明らかでしょう。

たとえば、肯定文における「全然」。良しとしない風潮もありますが、僕は使われている言葉こそ正義だと考えます。なぜなら1.に書いたように言葉を使う目的は「正しく使うこと」ではなく「正しい意味を伝えること」だからです。そのため元々が誤用だとしても、多くの人が使い理解するのであれば、その表現は市民権を得ていると僕は考えます。

3. 言葉より文脈

意気揚々と留学生活を始めた僕ですが、最初はフランス語に苦労しました。それでも自分が求めていることと見当違いのことをされて困ったことはありませんでした。言葉の壁は確かにありましたが、少なくとも自分が置かれている状況は説明でき、相手に何をしたいか伝えることができたからです。

スーパーの店員に「ショコラ!ショコラ!」と叫び続ければ大抵チョコレートコーナーに連れてってくれますし、レストランで席を立てば、ほとんど言葉をかわさずともトイレまで誘導してくれます。相手にその場の文脈を理解してもらえれば、目的を果たすのに多くの言葉は要りません。
(スーパーで叫ぶことが文化に沿った行動かどうかは置いておきます)

サッカー言語化のために日本人ができること

私達はこれからも、分野を問わず新たな言葉と出会っていくでしょう。これは進歩のためには必要なプロセスです。そして日本サッカー界が出会う新語はこれからも外来語で、日本は外来語との付き合い方を考えなければいけません。最後にその付き合い方についていくつか提案します。

- (短中期)最低限、英語は学ぼう
- (中長期)生み出す側の国になろう

最低限、英語は学ぼう
英語の利点は外来語の理解だけでありません。アクセスできるサイト・記事・論文の数が桁違いに上がります。つまり、断然多くの知識に触れることができるのです。なぜ多くの知識に触れることが大切か?それがなければ知識の体系化ができないからです。

生み出す側の国になろう
そもそもなぜサッカーには外来語が多いのでしょうか。ヨーロッパで発展した歴史が関係してると僕は考えます。現在もどこかで新しい概念が生まれ、違う場所に広まっています。日本はこのプロセスにおいて、概念を受け取る側に周る事が多く、その結果外来語が増えるのは当然と言えるでしょう。

この現状を打開するには、概念を生み出す側にならなければいけません。情報収集、ひいてはアイデア・知識の体系化を通して、サッカーはさらに学際的になれるはずです。そして、様々なバックグラウンドを持つ人が投稿するフットボリスタ・ラボnoteは、そのための役割を果たす事ができる存在だと信じています。

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