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ケーススタディで解くマンチェスター・シティの組織的攻撃

はじめまして。今回のフットボリスタラボnoteの書き手を務めます北陸大学サッカー部学生コーチの小谷野拓夢です。

僕が尊敬する監督の1人であるグアルディオラ率いるマンチェスター・シティ(以下シティ)の組織的攻撃についてまとめました。是非読んでみて下さい。


1.サッカーにおける守備構造の理解

シティの組織的攻撃を読み解く前に、サッカーというスポーツにおいてはどんな守備構造ができるのか?を考えてみよう。

サッカーはゴール型スポーツであり、比較的人数は多い。そのため守備時に複数のラインができる。これが他のバスケットボールやハンドボールと違う点だ。少なくとも2ラインは発生するだろう。このラインを壁と考えると、壁は枚数が多い方がいいだろうし密度(選手間の距離)が高い方がいいだろう。その壁の特徴というのは各チームによって異なり、壁をどこにつくるかもチームの色の1つとなる。

反対に考えると、サッカーにおいて攻撃は「壁を越える作業」だとも言える。では壁を越えるにはどうしたらいいのか。その方法を、世界最高の「壁の破壊力」をもつシティから学ぶために『シティの組織的攻撃』について探っていきたい。


2.マンチェスター・シティの組織的攻撃

僕が思うに、シティは攻撃において最も「後出し」が上手いチームだ。相手の出方に対し、痛いところをしっかりとつく。そんなシティはポジショナルプレーを体現しているチームの1つだ。よって配置にこだわりがある。

まず、シティが攻略したいスペースをみてほしい。

1つめが赤のゾーン〈MFとDFラインの間〉で、2つめが青のゾーン〈ポケット〉だ。無論、このスペース以外からもチャンスを創ることはあるが、シティの攻撃からは意図的にこの2つのスペースを攻略していることが読み取れる。

この2つのスペースでは、どちらが相手の脅威になるだろうか?
もちろん青のスペースであり、なぜなら相手の全ての壁を越えているからだ。しかし、青のスペースを攻略するには、まず赤のスペースが鍵となる。

予め攻略したいスペースがあると、逆算ができる。分かりやすく言うと、点と点さえ決まっていればあとはその点と点をどう結ぶかは自由なのだ。ではシティはどのような線を描くのか。


2-①中央を攻める

サッカーにおいてまず攻めるべきは中央だ。なぜ中央を攻めるのかはサッカーの原理を考えれば分かることで、ゴールが中央にあるからだ。守備側はゴールを守るためにまず中央を優先的に守る。そのため攻撃側は、中央突破をする際に壁を破る作業を強いられる。

では、シティの中央突破の特徴について見ていこう。

今回は守備側が1-4-5-1のブロックを組んだと想定して話を進める。

まず、壁の密度を低くしないと壁を壊すことは難しい。そのためWGとSBは最大限の幅をとる。
この図のように、SBに喰いつかせておいて縦パスを通すケースが今シーズンは幾度と見られた。シティの選手たちはDFの選手同士の連結が離れた瞬間を逃さない。【壁の密度を低くする】=【DFの連結を離す】ためにシティは幅を有効活用している。

連結が離れるケースは他にもある。上図では、前の図ではパスを通されてしまっていた黒の点線のコースを相手DFが消している。しかし、今度はセンターレーンへのパスコースが空いてしまった。この隙をつくのがアグエロとジェズスによる「偽9番」の役割の1つだ。相手のブロックの連結が離れた瞬間にパスコースをつくる。必ず「いるべきときにいる」のだ。

これまでの2つの図のように、相手の中盤選手によって作られた壁を破るために、シティは幅を使っている。そして一瞬でも連結が離れれば、パスを通す。「いる」べき場所にキチンと「いる」からこそ、それは成立する。それができないならサイドチェンジを行う。シンプルだが、この狙いが面白いほど効く。


しかし、ブロックが左右に揺さぶられない時はどうすればいいのだろうか。シティはしばしばそのような相手と対峙する。その時に大事になるのがパサーの位置だ。
ブロックの密度が低くければ、CBからでも中央にパスは通せる。それができるCBがシティには揃っているからだ。しかし、ブロックの密度が高くなるとと低い位置からはパスが中央に通せなくなる。よってパサーの位置を変える必要がある。

先程まではCB→SB→CBのリターンパスだったが、この図ではCB→SB→CHの順でパスがまわったとしよう。この位置で受ける最大のメリットは相手ブロック内にいる選手との距離が近いことだ。この位置でボールを受けられれば、壁と壁の間が極端に狭くない限りブロック内の選手にパスを配球できる。そしてDFからすると一気にピンチに陥るので、激しくアプローチしてくるに違いない。

そしてDFがアプローチしてくれば連結が離れる。この時にCBへバックパスをしてしまっては意味がない。そこでシティは、SBが中に位置をとることでハーフスペース→ハーフスペースのパス交換を可能にしている。いわゆる「偽SB」だ。ボールを受けたSBは連結の離れた間を狙い中央へのパスを通す。

この図ではSBがハーフスペース→ハーフスペースの供給を担っているが、対戦相手や状況によってはCBやIHが担うこともある。その違いは何か?選手の特徴はもちろん、対戦相手やレギュレーションだ。ジンチェンコとウォーカーでは全くポジショニングが異なるし、IHがデ・ブライネなのかダビド・シルバなのかでも異なる。

この1つのプレーを見るだけでも、配置がポジショナルプレーにおいて重要だと改めて思い知らされる。

以上がシティの中央の攻め方だ。大切なポイントは「相手DFの連結を離す」ことだ。そして連結を離すために幅を使い、ボールの動かし方を工夫する。

では、それでも中央が崩せない場合はどうすればいいのだろうか?


2-②サイドを攻める

先ほどの偽SBのプレーの続きで考えてみよう。相手ブロックの連結が離れなかった場合、中央から攻めるのは難しくなる。ただ、相手が中央に集まっているということは、自然とサイドが空いてくるということでもある。

目一杯に幅をとったWGにパスを出す。その時のシティWGの選択肢は大体①か②へのパスだ。

①は壁と壁の間からIHへパスを通す方法だ。縦からパスできないなら横からパスすればいい。そしてもし相手SBがそれを嫌って①のパスコースを消すなら、②のチャンネルランが待っている。このチャンネルランは特にデ・ブライネが得意としており、幾度となく相手のDFラインを崩壊させてきた。

もう一つの攻め方としては、IHとの壁パスがある。

シティのWGはスプリント能力に非常に優れている。そのため「よーいドン」では大抵負けない。多少強引ではあるが、スターリングは特にこの壁パスを多用している。

以上がシティのサイド攻撃の特徴だ。今シーズンのスターリングとサネの活躍をみても分かるように、シティのサイド攻撃の起点となっているのは間違いなく「WG」だ。そしてそれらを手厚くサポートしてるのがIHである。IHが相手のブロックを中央に集めるからこそ、WGに時間ができるのだ。

一方、IHに相手CHが引きつられ、ブロック全体がコンパクトになると、いくらシティの選手でも同サイドで崩すのが難しい。その時はサイドチェンジを選択する。
IHに相手CHが引きつられたことで下図の白スペースが空く。ここに配置していることで簡単に逆サイドへ展開できる。逆サイドには時間とスペースを与えられているWGが待っている。ロングボールor素早いテンポのショートパスでボールを繋げば、質的優位を活かした局面がつくれる。


またこの位置で受けて相手ブロック内にパスを通すこともあれば、バックドア(相手の背後を抜ける動き)に対し、空間を利用したパスをすることもある。


以上がシティの組織的攻撃だ。シティの組織的攻撃はまず「自分たちの選手がどのような特徴を持っているか」「それを最大限に相互作用するにはどう配置するのか」から考えられている。そしてそこに相手の配置を加味して攻撃を組み立てる。あとは「後出し」を狙うのみだ。

しかし、この例のように全てがうまくいくわけではない。レスター戦でのWGによる強引なドリブルや、コンパニのミラクルシュートを期待しなければならない時もあるのが現実だ。ただそれでもシティは、そしてグアルディオラは、ポジショナルプレーを追求し続ける。それが彼らの哲学なのだ。

3.おわりに

いかがだっただろうか。今回はケーススタディという方法でシティの組織的攻撃を説明してみた。
今シーズンのシティの組織的攻撃をじっくり観察すれば、ポジショナルプレーのヒントは沢山得られる。
その一方でポジショナルプレーを実現するには、状況判断に非常に優れ、正確無比なボールコントロール能力を備えた選手が求められる。なぜなら一つのプレーが後のプレーに影響する「バタフライ効果」が存在するからだ。一つのコントロールミスが三手先のプレーに影響を与える。ポジショナルプレーの追求は非常に面白く、難しいものだ。

これからもグアルディオラのサッカーから目が離せない。


●書き手

小谷野拓夢https://mobile.twitter.com/foot_koyahiro

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