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ベルギー代表のルーク べンステッドから学ぶパフォーマンス分析

ルーク べンステッドという人物をご存知だろうか。イングランド出身の彼はパフォーマンスアナリストとしてエヴァートン、マンチェスターユナイテッドを経て、現在はベルギー代表のパフォーマンスアナリストを務める異色の経歴の持ち主だ。昨年の9月にはベルギーサッカー協会として初のパフォーマンスアナリシス&イノベーション部門のリーダーも任された。パフォーマンス分析界では著名な人物。先月にはウェールズサッカー協会が主催のパフォーマンス分析のカンファレンスにも登壇し、個人的にもお話をすることができた。そんな彼のインタビュー記事を和訳してここに載せる。

最近よくパフォーマンス分析や大学のついて、どのようにキャリアを始めるかやどうやってプレミアリーグのクラブで働く機会を得ることができるかの質問を多く受けるので、是非この記事から少しでも参考になることがあればいいなと思います。それに何と言っても、分析に興味がある読者の方にはオススメの記事です。

◾️目次

①どうやってサッカーの分析の世界に入ったか?

②アナリストとしての役割は何か?

③トレーニングの間は何をするのか?

④試合の間は何をするのか?

⑤ベンステッド氏がパフォーマンス分析カンファレンスで述べていた事


ウェールズサッカー協会主催のパフォーマンス分析カンファレンスにて、自分の経歴を説明するベンステッド氏


◾️どうやってサッカーの分析の世界に入ったか?


トランメアー ローヴァーズのU14でのコーン拾いから全てが始まったよ。元々はLiverpool John Moores大学で科学とフットボールについて勉強していたんだ。当時はとにかく現場での経験が欲しかったからね。するとある日、大学のコースでエヴァートンでのインターンを募集し始めてたまたまそのチャンスを手に入れることが出来たんだ。

エヴァートンのインターンではいい仕事をしたと思う。そしたらたまたまEPPP(Elite Player Performance Plan)が来て、クラブがアナリストを必要としていた。そんな感じで運良く仕事のランクを上げる機会を得た。ロベルト マルティネスが2013年の夏にクラブへ来た時に、自然な流れでトップチームへ昇格することが出来たんだよ。なぜなら前任者であるデイヴィッド モイーズがクラブを退団して、彼と共に働いていたトップチームの多くのスタッフが一緒にマンチェスターへ行ってしまったからね。

私のオールド トラッフォードでの時間もまた素晴らしい経験だった。ジョゼ モウリーニョが監督でポール ブランドが分析部門のトップだった。ポールは良きラインマネジャーでありリーダーだった。ユナイテッドでは合計5人のアナリストがいた。

そして、2018年の夏にベルギー代表と一緒にW杯へ行った。まあ上手くいったと言えるね。実はフルタイムで彼らと働くことは予想外だったんだ。でも大会中かなり事が上手くいったし、たくさんの強い繋がりを作ることができた。なのでフルタイムで働けるチャンスを断るわけにはいかなかった。

◾️アナリストとしての役割は何か?


私の個人的な見解として、アナリストとしての1番の役割は、監督と彼のテクニカルスタッフを常にサポートすることだと思う。事が成功している時やゲームに勝っている時よりに彼らをサポートする事も大切だが、事が計画通りに行っていない時こそしっかりとサポートできる準備をした方が良いし、彼らはこういう時こそ我々の仕事を最も必要とする。

時々、我々はどのくらいのプレッシャーの下で監督とコーチ達が仕事をしているかを忘れてしまう。常に彼らをサポートするという我々の役割から逸れてはならない。そしてサポートという意味はイエスマンになることではない。

もし監督が次の対戦相手に対して特定の方法でプレーしたいと提案したがそれに賛成できない場合、反対意見を言うことや監督が提案したアプローチにおいての強みと弱みを提示することも我々の仕事の一部である。だがそれを行う為には、監督と良い関係を構築し、お互いに信頼している必要がある。

もし監督が初めに提案したアプローチを採用すると決めた場合、我々はすぐに切り替えて、彼の考えとビジョンをサポートすることに焦点を当てなければならない。

◾️トレーニングの間は何をするのか?


毎回ドローンでトレーニングを撮る人がいて、ドローンで動画撮影することで、練習中何が起こっているかを戦術的に見る事が可能になる。どのようなTRセッションを行っているのかを頭に入れながら私がそれをコーディングする。その後に、バックルームスタッフとして、椅子に座ってトレーニングのレビューと戦術的なアプローチを体現できたかを見ていく。もしマルティネス監督に何か頼まれた場合、我々はそれを常に頭に入れながら必要なものだけを抽出する。この作業は12時間に渡ることもある、で実際にチームミーティングやフィードバックで使うのはたったの6分間だけだ。(筆者も経験済み笑)

キャンプでは様々な装置やテクノロジーを利用して、相手のアタッカーのプロフィールを見たり、どうやってディフェンダーが守備をするのか、どのようにプレッシャーがかかった状態でボールを受けるかなど見る事ができた。さらには、選手たちが主体となって彼らが欲しい個人の追加情報(自分のプレーのクリップ、相手チームの特定の選手の特徴や癖など)を選んで入手できる環境があった。

日にちが経つに連れて、ベルギー代表の選手たちはチームとして、一人ひとりがどのようにプレーしたいかをはっきりと理解する事ができるし、対戦相手に関しての簡潔な指示も得る事ができる。


◾️試合の間は何をするのか?


2018年W杯の時にFIFAが通常のTVのアングルに加えて、High Behind(ゴール裏からの戦術カメラ)から撮影した映像も提供してくれた。でもマルティネス監督はハーフウェイライン上からワイドに撮影された映像だけしか使わないという、こだわりがあったのさ。だから我々は自分たちでカメラを用意しピッチ中央の位置からワイドアングルで毎試合撮影した。我々アナリストだけで映像を使ったり、見たりする場合はHigh Behindからのも使用した。

我々のGKコーチのエルウィン レメンスがヘッドセットを付けながらベンチに座り、我々アナリストとコミュニケーションをとることを可能にした。彼からは監督とコーチングスタッフがどのような情報を欲しがっているのか、我々に何を求めているのかなどをヘッドセットを通して聞く。我々の仕事への取り組みから分かるように、ベルギー代表は戦術的に毎試合臨む。なので、私はこの戦術的なアプローチに沿ったコードウィンドウをライブコーディングの為に作成し試合に臨む。前半は主に、どのように成功してどのように上手くいかなかったかのレビューを行う。

ハーフタイムになると私はワイドアングルの映像を持ってドレッシングルームがあるスタジアム内へダッシュで駆け込む。そして、監督にお願いされた場面やシーンの映像と私が事前に集めていた映像の両方を見せる。

監督がハーフタイムにドレッシングルームへ戻ってくる際、彼は選手たちに何を見せたいかの考えを持っているので、私の仕事は映像を使って彼のしたいことを手伝うことだ。マルティネスはリアルタイムで見たプレーや場面をもう一度ワイドアングルの映像で確認したいとお願いする時がしばしばある。その時がアナリストとしての力量が試されるし、この時にスムーズに映像を提供できる事が重要だ。ハーフタイムは15分と時間が限られている。もしハーフタイムで監督に効果的な映像を提供できたら、それは我々アナリストとって完璧な仕事をしたと言えるだろう。

我々アナリストはコーチングスタッフの部屋へ行く。ほとんどのスタジアムがコーチングスタッフ用の部屋は1部屋しかない。最終確認として監督が数分前に選んだ映像にもう一度目を通し、選手たちに見せる映像を決めて仕上げる。この作業は2分から3分間で行わなければならない。その後すぐに選手たちがいるドレッシングルームへと向かう。

それらの映像はドレッシングルームにあるスクリーンへ映し出される。監督は我々が使っているソフトウェアの恩恵を受け、スクリーンを使いながら選手たちへフィードバックする。ギャリー ネヴィルやジェイミー キャラガーがマンデーナイトフットボールでスクリーンを使って戦術的な意見を述べているのをイメージすれば、我々がどうやってスクリーンとソフトウェアを活用しているか想像がつくだろう。それは選手たちを関心や注意を引きつけるのに役に立つ。このように我々は毎試合大きなタッチスクリーンを持ってきて、ドレッシングルームへ事前に設置する。


ベンステッド氏のMacBookのカバーがRed Devils仕様でかっこよかったので。


スコアやパフォーマンス関係なく我々は毎回何かを選手たちに見せる。一週間の間監督と一緒に試合に向けて何かに対して取り組んできて、、、ここで分析を使ってフィードバックすることに大きな意味を持つ。マルティネス監督は洞察力や見ることに非常に長けている。それは選手たちにとってはとても良いことだ。

全ての仕事をスポーツコードを通して行う。協会としてHudlを導入したのはそれが理由だ。我々はHudlの製品の質の良さ、使いやすさなどを知っている。(筆者も同意)※筆者の経験上Nacsport、SBG Sports Software、そして国内ではSPLYZAさんも素晴らしい分析ソフトウェアだと認識しています。


ベルギーサッカー協会は「ビデオ分析をツールとして、選手と彼らのパフォーマンスにインパクトを与える」というテーマでカンファレンスをHudlと一緒に主催した。


後半の間ではHudl Replayという製品の利益を最も受ける時だ。我々がワイドアングルで撮影している映像をベンチでリアルタイムで見られるようにしてある。Hudl Replayを使ってタブレットに映像が送られる。ガントリーで撮影している全ての映像へのアクセスがベンチ内のタブレット上で可能になっている。それでもし私がコーディングをしたら、そのコーディングされた映像もiPadへすぐ送られ、見る事ができる。

Euro 2020予選のロシア戦(ベルギーが3−1で勝利した)を例に挙げると、ロシアが陣形と選手を変えてきた。なので私は、変更後のボール保持時とボール非保持時の陣形の例をコーディングして映像をいくつか作成し、ベンチにヘッドセットを通してこう言った。「いくつかの映像がHudl Replayのプレイリストに入ったから、監督に伝えて。ロベルトがロシアの陣形を上からの視点で見る事ができるからさ」

時々、我々が見せたものが監督の決断へと直接繋がるし、そうではなくても陣形の変更やどこにスペースがあるのかを監督が確認できるのでそれはそれで良い事だ。我々はワイドアングルのライブ映像をベンチで見る事ができる、なのでリアルタイムでの介入が後半では良く起こるんだ。それがHudl Replayの効果が最も表れる時でもあるんだ。


◾️ベンステッド氏がパフォーマンス分析カンファレンスで述べていた事


パフォーマンスアナリストの役割は何かをスライドを使って説明するベンステッド氏


ウェールズサッカー協会はパフォーマンス分析に力を入れていて、世界でもトップクラスの分析の環境と知識があるのは自明だ。ウェールズサッカー協会の分析専用のアカウントを貼っておくので、分析に興味ある人はフォローするなり、リストに入れたりする事をお薦めする。

そんなウェールズサッカー協会が主催したパフォーマンス分析のカンファレンスに登壇したベンステッド氏はパフォーマンスアナリストの役割は主に3つあると前置きをした後、詳しく説明してくれた。

戦術的な観点から、綿密な相手チームと相手のプレイヤー1人ひとりの分析を提供すること。

戦術的な観点から、詳細でクリティカルな(物事を批判的に深く考えて、本質的な)自チームと自チームの選手個人の分析を提供すること。

⑶ 公式戦でのゲーム内ハーフタイムでの分析によるサポートを提供すること。


元記事はTraining Ground Guruからで、そのまま翻訳するのではなく、自分で少し表現のニュアンスを変更したりしました。私が2年間パフォーマンスアナリストとして代表のユースチームとアマチュア、プロクラブのアカデミーを経験した上でこの記事を読んでみて、内容がかなりリアルで有益な情報だと思ったので、今回 ”科学としてのサッカー論” で記事を載せることを決意しました。ご一読ありがとうございました。

平野 将弘(https://twitter.com/manabufooty

1996年5月生まれ。現在はカーディフ シティーFC女子のトップチームのアシスタントコーチ。元ウェールズサッカー代表U13、マーサータウンFC(英7部)、マーサータウンFCU19(ウェールズプレミアリーグサウス1部)、カーディフアカデミーのパフォーマンスアナリスト。大学ではUSWのサッカーコーチング科を専攻。サッカーを科学的な観点から思考する『科学としてのサッカー論』筆者。


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