見出し画像

ウェールズサッカー協会のテクニカルアドバイザーがロシアW杯を振り返る。


■つぶやき


9月25日木曜日午前10時、大学の校舎に入ると元スウォンジーとミドルスブラのコーチを務め、現在はウェールズサッカー協会でテクニカルアドバイザーを務めるデイヴィッド アダムスがいた。

先日たまたまTraining group guruで彼がFIFAのテクニカルレポートを元にインタビューされた記事が出されているのを見たので、話す話題を作るチャンスだと思い何とか全文読み終わした。

午後1時ごろ、大学の職員室へ入るとたまたま彼が1人で座っていた。彼の記事を読んだ事と、私もFIFAのレポートを見て同じことを思った事を伝えた…。その後雑談をして職員室を後にした。


最近、サッカー指導者(監督、コーチ)の視点でよく考えていることがある。それは、理論と実践のバランスである。たまたま最近話題になっているだけで、少し前からTwitterを見る度に聞いたこともない戦術用語や理解が難しい用語を目にし、”何だこれは、難しい…。”と軽い挫折を繰り返していた。

試合でたった1回しか起きていない現象を、動画にまとめ、これは事前にチームで準備してた攻撃…!!?? 

サッカーコーチングは深いし難しい…。

でも自分で言うのも恐縮ですが、ある程度のレベルの現場を見ている立場として、そんなに戦術は細分化されていないし(特にアタッキングサードでの攻撃)、ごちゃごちゃしていない。Twitterで散見するような戦術用語はそんなに使われない。それはイギリスだからなのか、それともそれが現場のリアリティーだからなのかは分からない。

今回はこの話がメインではないので、ここら辺までにしますが、今回の記事はロシアW杯についてFIFAのテクニカルレポートを元にデイヴィット アダムス氏が述べていた事を翻訳し、少し付け加えをしたものです。(TGGの記事を翻訳)

でそのアダムスさんが述べていることは、やっぱりごちゃごちゃしていない。至ってシンプルで私が現場で耳にするような論調。読者の方は指導者をやられている方が多いかと思われますが、この記事を読んで理解すれば、指導者として成長もできますし、日頃の練習にも落とし込めますし、チームのプレースタイルの修正も行えるでしょう。少しずつトレンドに合わせるということは大切だと思います。

前置きが長くなってしまい申し訳ございません。私がFIFAレポートを見て思った事であり、何よりウェールズ国内のトップのコーチの意見なので是非読んで見て下さい。


■はじめに


フランスはW杯ロシア大会で現在のサッカーの流行とは逆を行った。

現在、世界最高の監督の1人ペップ グアルディオラはサッカー戦術に関しては牧師のごとく、ポゼッション志向のスタイルやプレス、そしてリスクを冒すプレーなどを伝道してきた。しかし、ついこの間リリースされたFIFA Technical Reportで優勝国のフランスは違う戦い方でトロフィーを手に入れたと表していた。

ディディエ デシャンのチームはコンパクトネス、カウンターアタックとセットプレーを武器としたチームだった。実際にトーナメント全体を振り返っても、この3つが今大会を特徴付ける、主要なテーマだった。

デイヴィッド アダムスによると。

”トータルフットボール(74年大会のオランダ代表のトータルフットボールというよりも総体的なサッカーという意味合い)が今のトレンドです。そもそサッカーというものは手持ちの選手のプロフィール(特徴、能力など)に合わせて、戦術やプレースタイルを決めて採用していくもの。やり方は多様です。レスターはカウンターアタックを武器にプレミアリーグを制しました。フランスも同じやり方で今回のW杯を優勝しています。”



■カウンターアタック


ポゼッションはグアルディオラのサッカー哲学の中枢だと言える。

彼はこう言った。

”もっと深い位置で下がって守備もできるけど、私はボールを持ちたいし、プレーをしたいんだ。”


ポゼッションはフランスにとってそんなに重要ではなかった。実際にフランスは全7試合、相手よりも平均的にボールを持つ時間が少なかった。

彼らは大会で1試合平均48%のボール支配率を記録したが、それは全チームの中で20番目だった。今大会1試合平均最も高い支配率を記録したのは69%のスペインだったが、屈辱的なベスト16で大会を後にしている。

その代わり、フランスはカウンターアタック志向のスタイルを選んだ。それはフランス代表の23人のメンバーを見ると、最も理にかなった選択だったと言える。

レポートによると。

”フランスはポゼッションより、ボールをどれだけ早く敵陣に送り込めるのかという事に焦点を当てていた”

アダムスは述べた。

”フランスは速いスピードでカウンターアタックが出来る選手を揃えていた。アントワーヌ グリーズマンはクラブでも同じスタイルでプレーしているし、その貢献度も素晴らしい。キーラン エンバッペは驚異的なスピードを持っていた”


フランスは最後のフィニッシュの精度が高かった。シュート6本打てば1点取る事に成功していた。ロシアだけが4.5本中1ゴールと、このスタッツに関してフランスを上回った。フィニッシュに関して、9.8本中1得点が今大会の平均だったので、フランスがどれだけ巧みにシュートを放っていたか分かるだろう。

カウンターアタックは今大会の主要なテーマの1つだった。2点決めれば片方はカウンター、もしくはセットプレーからゴールが生まれた。(後で詳しく説明する)

レスターはカウンターアタックをプレースタイルとし、2015/16シーズンのプレミアリーグを優勝したが、アダムスはこう語った。

”モウリーニョはそこまでポゼッションに対して頭を悩ませてなかった。クロップのリバプールは、前線に3枚残して、相手の両サイドバックが上がってセンターバック2枚の相手に対してカウンターアタックを行うことが出来る”

彼はさらにこう加える。

”サッカーではボールを失った時が最も弱くて脆い時だ。なぜなら、その時は所定のポジションにいないし、位置的に不安定で選手間にギャップができるからだ”


■コンパクトネス


監督としてW杯優勝を経験した事があり、今回FIFAのテクニカルスタディーグループの一員だったカルロス アルベルト パレイラ氏が言った。

”今大会のライン間のスペースは、ほとんど存在しなかったも同然だった”

前大会よりも今大会出場国からはコンパクトさが伺えた。相手がボールを保持している時の、1番深い位置にいるDFと1番高い位置にいるFWとの距離は平均で僅か26mだった。各ライン間は約13mという事になる。2010年大会に比べて32%もスペースが減っているという結果が出された。

使用可能のスペース量は劇的に減少している。ライン間の穴を見つける事が難しくなってきている。前述した1番高い位置にいる選手と1番低い位置にいる選手の距離に関して、フランスはたったの24mだった。それは平均よりもコンパクトで、オーストラリアとパナマだけがフランスよりも距離に関してコンパクトな守備を見せた。

フランスのボール保持時の選手間のギャップは大会で4番目に小さかった。他の3チームだけがフランスよりも狭く攻撃をしていた。

ボールを失うとフランスはすぐにコンパクトで選手間が狭い1-4-4-1-1を採用した。ライン間のスペースを限定し、ピッチ中央を固めた。上のベルギー戦の分析ビデオを見ればさらに理解が深まると思う。

グアルディオラのマンCは違う。アダムスが説明した。

”マンCは基本的に執拗なプレスをする。相手のペースでポゼッションが始まった時だけ、1-4-1-4-1のフォーメーションを使いピッチ真ん中でブロックを敷く”


W杯で見られたタイトでコンパクトなディフェンスはたくさんの連鎖反応を引き起こした。2010年大会に比べ、32%も少ないペナルティーエリア外からのシュート率を記録。プレーメーカー(No,10タイプの司令塔)の減少。No,9(センターフォーワード)が苦しんだ。ハリー ケインは得点王を記録したが、彼の6得点中、3得点はPKからで、他にコーナーキックからがあった。流れの中での得点に苦しんだ。


■クロス


下の写真には、フランスのコンパクトな守備ブロックが写っている。見て分かる通り彼らはベルギーに対して、ピッチを縦に5分割した時の大外”ワイドレーン”にスペースを譲渡していることを全く気にしていない。



アダムスは論じた。

”今ではほとんどのチームが相手を外に向かせ、外でプレーさせます。しかし、前まではそれは主流ではありませんでしたし、そんなことはしませんでした。なぜなら、相手を外へ向かせるとクロスによりペナルティーエリア内へボールを送られてしまう可能性が高まるからです”
”でもクロスでボールをペナルティー内へ入れられてしまう事は、今では ’ましなほう’(’Lesser of two evils’) と見られています。なぜなら、中央でパスを通されたほうが嫌ですからね”


同様に攻撃のクロス自体、フランスの武器庫の中では重要なものではなかった。彼らは平均で15本のクロスを入れた。それは、32カ国中28位だ(ちなみに平均クロス数は21本)。このスタッツのトップはドイツで1試合平均で46本のクロスを記録した。しかし2ゴールしか決めていない。


アダムスによると。

”最近、強いチームは低い位置からのクロスなどもう使用しなくなった”
”低い位置からのクロスは守備することが簡単。確かにマンCもたくさんクロスをする。けれど種類が違う。彼らはゴールラインから毎回正確にマイナスのボールを送る。ディフェンダーの裏をつくし、守備者にとってそれが最も難しい”


■セットプレー


コンパクトでカウンターアタック志向のチームが増えた為、セットプレーが得点チャンスとして今まで最も重要なものになった。優勝国のフランスの14ゴール中、5ゴールがセットプレーから生まれた。出場国のセットプレーは前回大会に比べ、より効率が良くなっていた。

顕著なデータとして、2018年大会では29回のコーナーキックから1点が記録されたのに対して、2010年大会のそれは61回から1点だった。

パレイラ氏はセットプレーに対して言及した。

”セットプレーは特別なシチュエーションです。なぜなら、何人でもあなたが好きなだけ選手をペナルティーエリア内に送れますし、前もって練習できるからです”

さらにテクニカルスタディーグループの同僚のマルコ ファン バステン氏も付け加えた。

”私の現役時代を振り返ってみると、我々は練習でセットプレーに多くの時間を費やしませんでした。恐らく、5分か10分くらいだったでしょうか。しかし今日では、かなり重要視されていますね”

アダムスはセットプレーから多くのゴールが生み出された他の顕著な理由として、VARの導入を挙げた。24つのPKがグループステージだけで与えられ、その数字は前回大会の全PK数よりも6つ多い。審判はペナ内の違反行為に対して厳しく処置をした。VARは見逃された判定を覆した。

アダムスは最後に述べた。

”みんなセットプレー時に守る際に体でブロックする、それは選手にとっては効果的な手段だったし、レフェリーにとってはファールを取るのが難しかった。しかしVARの導入により、選手たちはそれをやることに対して慎重にならなければならない。なぜなら、PKを与えてしまうからだ”


■おわりに


いかがだったでしょうか?ポゼッションサッカーこそが正義。ポゼッション志向でプレーしないと、そもそもプレーしていないとか言われてしまう世の中の風潮。手持ちの選手のプロフィールに合わせて、チームに最も適したプレースタイルや戦術を決めることが1番大切なんではないでしょうか。(個人的見解)

W杯のフランスに関しては、FIFAのテクニカルレポートに載っていたスタッツがほとんど平均以下だったので面白い。プレミアリーグだとバーンリーもそんな感じでよく勝つイメージ。今シーズンは欧州カップ戦もあり本調子ではないけれども。 

話を戻すと、個人的には攻撃も守備もトランジションも…コンパクトネスがさらに重要になってきそうな気がする。あとはセットプレーのアイデアと精度といったところだろうか。

先週の金曜、私がコーチをやっている時にUEFAライセンスコースのチューターから、ライン間の距離が現実的でないから良くない。プレミアリーグでは各ライン間の距離はどのくらいか知っているか?8ヤードから12ヤードだ。リアリズムを維持する為にライン間を特定の距離で保つようにと言われた。

プレミアリーグの平均各ライン間の距離を聞かれ、たまたまその場で考えて言った数字が当たって、何とか場を凌いだが、やっぱり事前にちゃんと理解しているのとしていないのでは大違い。実際に自分へのコーチングへ応用できてなかった訳だし。

このように、質の高いコーチングを行うにはライン間の距離や、横の選手間の距離、カウンタープレスにかける時間など、色々な数字を知っておく必要があると思う。もちろんその数字は常に”最新”にアップデートされなければならない…。

そう言った意味も込めて、FIFAのレポートを読んで勉強する事をオススメします!




著者:平野 将弘 (Masahiro Hirano)

Cardiff City FC U-23の分析担当コーチ。ウェールズサッカー協会のUEFA Bライセンス取得中。ウェールズサッカー協会で分析のインターン経験。大学でサッカーコーチングを勉強中。96年生まれ。

Twitter - @manabufooty


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

33

平野 将弘

プレミアリーグ所属 Cardiff City FCのサッカーコーチ。ウェールズサッカー協会のUEFA Bライセンス取得中。ウェールズサッカー協会で分析のインターン経験。英大学でサッカーコーチングを勉強中。96年生。Twitter - @manabufooty

科学としてのサッカー論

サッカーを科学的視点から思考する
1つ のマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。