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【離婚後共同親権】日本共産党ジェンダー平等委員会の見解を"批判的に”読んでみた(2021.7.22更新)

〔写真〕言わずと知れた、代々木の日本共産党本部ビル。

【おことわり】当noteでは、信頼性の高い法律情報の発信を目的としたものですが、本記事は、全般にわたって筆者(foresight1974)の私見を表明しています。

かつては離婚後共同親権に賛成論もあったが。。。

管見の限り、離婚後共同親権に関する、公党の初見解です。

 今年2月、上川陽子法相が、離婚後の面会交流、親権制度についての見直しを法制審議会に諮問したことから、この問題が国会、地方議会で取り上げられる機会が増えています。「離婚後共同親権」を求めるさまざまな動きも起こっています。

 日本共産党は、「離婚後共同親権」を拙速(せっそく)に導入するのではなく、子どもの権利擁護の立場から、「親権」そのものを見直す民法改正をおこなうべきだと考えます。(記事より)

twitter上では、離婚後共同親権反対派のアカウントを中心に、「まっとう」「勇気づけられました!」などなど、賞賛の声で溢れかえっておりますが、だいぶ乗り遅れてしまったので、当noteは少々天の邪鬼に行きたいと思います。

(2021.7.22更新)
調べてみたところ、かつて、日本共産党は選挙公約に民法改正とハーグ条約批准を掲げた際、これに関連して、小池晃党中央委員会政策委員会責任者・政策委員長(当時)が、twitter上ではありますが、離婚後共同親権の導入を主張していたこともありました。

それから11年。
どうやら頼もしい味方になってくれそうです。

しかし、今回に限って言えば、冒頭の見解をあえて批判的に読んでみようと思います。

【重要】アカデミズム的なニュアンスで「批判的に読む」のであって、否定を含意していません。

簡潔にして要を得た、日本共産党ジェンダー委員会の見解(以下、「当該見解」という)なのですが、読み返してみると、(おそらく立憲民主党への)政治的配慮や、完全な離婚後共同親権反対論とは言い難い面も見て取ることもできます。

まずは、全体的評価から。

評価すべき点

1.適切な民法学説の理解
 当該見解では「現行民法の下、近年、「親権」は親に課された子に対する養育の「義務・責任」だという解釈が示されています。」として、現在の民法学説の一般的理解とほぼ軌を一にする見解が示されています。
 当該見解では末尾に「※「親権」は大別すると、子と同居し保護する監護権(民法820条)と、教育・居所・職業選択・財産管理などの重要事項決定権(同820~824条)を内容としています。」という脚注が付されていますが、これは比較的最近の民法学の解説書にみられる記述です。

2.親権をめぐる海外の法制度の的確な理解
 離婚後共同親権賛成派の"海外厨"が99%踏み外している、海外の「親権」と日本の親権制度の決定的違いについても、「欧米諸国では、1970年代後半から国際人権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約などに基づき、子どもの権利を中心に据えて捉え直す動きが広がり、「親権」の用語自体も廃止・変更されてきました。」と、きちんと指摘していることは好印象です。

3.親権概念の改正が先決的問題
 当該見解は、「「親権」については見直すべき問題があり、この「親権」概念を前提にして「単独か共同か」を論じることは適切ではありません。」と述べています。
 この点も、離婚後共同親権の問題を的確に把握しているといえます。

4.離婚後共同親権導入の危険性の指摘
 当該見解は、離婚後共同親権が拙速に導入された場合、DV加害の継続の危険性や子どもへの重大な侵害の危険性を指摘しており、それは一部の人の問題ではない、と主張しています。

5.面会交流や養育費支払いとは別問題
 この指摘も重要で、賛成派の論拠となる面会交流や養育費支払い促進とは、関係がないことを明確に指摘しています。「現行制度のもとで十分にやれるものであり、子どもの権利を実現する親と社会の責任・責務という観点から、今すぐ改善に力を尽くすべきです。」と主張し、離婚後共同親権の導入の是非とは別であるとし、後に続く2つの段落で具体的な提言の示しています。

6.面会交流原則実施論を批判
 面会交流も、アプリオリに肯定するのではなく、「現状では子の意思が尊重される仕組みが確立されておらず、子ども自身が明確に拒否したにもかかわらず裁判所に面会交流を強制される例や、面会交流時に母や子が父に殺される最悪のケースが日本国内でも生まれています。」とし、面会交流が必ずしも子の最善の利益に合致していない現実を指摘しています。

<まとめ>
 こうしてみると、当該見解は、正確な法的理解に基づき、離婚後共同親権をめぐる立法事実の「現実」を的確に指摘し、離婚後の当事者への適切な公的介入の環境整備を訴えつつ、安易な離婚後共同親権導入に警鐘を鳴らすものとして評価できると思います。

では次に、批判的に読んだ箇所を。

批判的に読んだ点

1.賛成できないのはあくまで「拙速な導入」
 実は、憲法9条のように死守したいわけではありません。
 露骨な揚げ足取りですが、「拙速でなければ」賛成になる論理的な余地を残しています。
 その拙速ではない条件としては、当該見解で挙げられた様々な環境整備が進められることであり、決してハードルは低くはありません。
 が、やってやれないことはないレベルでもあります。

2.DV加害の危険性は論理的には自明ではない
 読んでみて思ったのは、第6段落「また、「親は子を思い通りにする権利がある」などの認識が広く残るもとで「離婚後共同親権」が導入されれば、DV加害者は、「共同親権」を理由に離婚後も元配偶者や子への支配を継続しやすくなり、子どもの権利への重大な侵害を引き起こす危険性があります。」と書かれている箇所です。
 反対派の方は意外に思われると思いますが、全くの門外漢の方からすると、「離婚=DV」というのはかなり唐突感があります。
 日本の離婚問題の背景にDVを典型例とするファミリーバイオレンスの問題があることは、当事者の方々には経験的に自明ではありますが、この問題に明るくない一般読者からすると、「離婚の背景にDVがある」というのは、言い過ぎに感じるでしょう。
 せっかくここまで長文の見解を出すのだから、日本の離婚問題(裁判手続上の離婚)の背景に高葛藤、DVの問題が多いことを一言挟むべきだったと思います。

3.DVと子どもの影響について丁寧に論じるべきだった
 賛成派の反対派への反論の主要なものとして、「DVと親権問題は別」論があります。
 当該見解はこの賛成論の主張に対する反論は弱いと感じます。
 一応、「被害を受けたことがある家庭の3割は子どもへの被害もあります(内閣府2021年「男女間における暴力に関する調査」)。」と触れてはいるのですが、最近は医学的エビデンスも発表されていますので、DVと子どもへの影響は無関係ではない、面前DVは法律上も子どもへの虐待とされている点等を指摘するべきだったのではないでしょうか。

4.拒否権の論点が欠落している
 上記2、3の指摘と実はリンクした問題なのですが、「共同親権」の問題は、婚姻中と離婚後では本質的変化がある、という論点が抜けていると思います。
 一見、婚姻中のように離婚後も共同親権なら子の利益でいいじゃん、婚姻中同様、一緒に協力しろよ的賛成論も多い(特に海外は)ですが、高葛藤を経て離婚したカップルにおいては、離婚後共同親権は、木村草太東京都立大学教授が指摘されるように、「配偶者への拒否権(妨害権)」に転化してしまいます。
 だから、当該見解で示されたように、DV親に悪用される危険が出てくる、その連関性をもう少し丁寧に論じるべきだったと思います。

5.持ち越された最終結論
 当該見解はまとめの段落で「日本共産党は、民法の「親権」にかんする規定を抜本改正し、子どもの権利を実現する親と社会の責任・責務という位置づけを明確にすることを求めます。その上で、離婚後の子どもの養育、親の責任のあり方や分担をどうするのかについては、国民的な議論を重ねて合意をつくっていくことが必要だと考えます。」としています。
 つまり、親権の規定改正後については、漠然としていて青写真はない。
 うーむ、だんだん心もとなくなってきた。

 そして、次の指摘は超重要。

6.【重要】で、親権はどう改正すべきなの?
 頑張れよ確かな野党。。。w
 当該見解の起案者は、海外の法制度に冒頭触れるなど、民法の親権制度に精通していることがうかがわれます。
 つまり、どのように親権を改正すべきか、イメージはあるはず。
 で、どう改正すべきなんだよ。。。が、ない。
 本来なら、委員会の委員長名で個人的見解としてことわりながら、アイデアを出しておくべきだと思うのですが、そういうのは難しかったのでしょうかねえ。。。

 そして、次の点はかなり不満だった箇所。

7.【不満】父権運動の復活と歴史修正主義には一言、言ってやろうぜ
 いずれ当noteでも紹介していきますが、離婚後共同親権導入論の背景には父権復活、家制度復活、選択的夫婦別姓反対、憲法24条改悪論、アンチフェミニズム、歴史修正主義者その他一切のネトウヨが吹き溜まりのように吹き寄せられて集まってきています。
 日本共産党、そこは戦うところでしょ。
 当該見解は、一般読者向けに、離婚後共同親権問題を分かりやすく啓蒙することが主目的であることは明らかで、文章全体としてその点は成功していることは間違いないのですが、日本共産党がこの問題で、「思想として対決する」という方針まで踏み込めなかったのは、非常に惜しまれるところです。

もうちょっと考察してみると

1.にじむ立憲民主党への政治的配慮
 拙速な導入に反対の焦点を合わせた理由を考えると、真っ先に思ったのは、日本共産党が今、最も堅持したい政治路線「野党共闘」の維持だと思うのです。
 憲法9条なみに強力な反対論をぶたなかったのは、その点の配慮が大きいのかな、と想像します。
 仮に政権交代が実現した場合、当該見解に示された具体的政策提案について、立憲民主党がほとんど賛成するでしょう。
 そして、立憲民主党が、党内の推進派に配慮し、共産党に「セットで」離婚後共同親権導入論を持ちかけてくる可能性も否定できないのではないでしょうか。

2.たぶん、党内論議は決着していない
 上記で検証してきたように、実は、具体的な親権制度の改正構想など、決定的な部分が欠けていたり、親権制度や環境整備後の離婚後の子の養育制度のあり方については漠然としていたりします。
 つまり、詰める部分はたくさん残っている。あるいは、意図的に残してある。
 党内論議は決着していない、と思われますが、おそらく、賛否どちらにでも転換できるようにしている、ということもあるかと思います。

でも、僕も嬉しかったよ

まあ、いろいろケチ付けちゃったけれど、でも、ここまでさんざん「世論はどのように操作されるのか」なんて悲しい連載記事書いている身からしますとね。。。

素直に嬉しかったですよ。
ええ。そりゃもう。

今のところは当面の連帯かもしれませんが、共産党がここまで見解を示してくれたら、さすがにブレーキはかかりますよね。

社民党の福島さんは絶対に女性を見捨てないから大丈夫。

やはり、次はへなちょこ野党第一党・立憲民主党だな。

(了)


【分野】経済・金融、憲法、労働、家族、歴史認識、法哲学など。著名な判例、標準的な学説等に基づき、信頼性の高い記事を執筆します。