見出し画像

【判例速報検討ノート】NHK映らないテレビ、受信契約の義務なし 東京地裁

記事より
「NHKが映らないテレビであれば、受信契約をしなくてもいいのか。この点が争われた訴訟の判決で、東京地裁は26日、契約義務がないことの確認を求めた原告の訴えを認めた。小川理津子裁判長は「どのような意図であれ、受信できない以上、契約義務はない」と述べた。」

一、NHKの受信契約義務に関する判例

NHKの受信契約義務に関する重要な判例は、最大判平成29.12.6で、これによれば、受信制度の仕組みは「特定の個人、団体又は国家機関等から財政面での支配や影響が原告(NHK)に及ぶことがないようにし、現実に原告の放送を受信するか否かを問わず、受信設備を設置することにより原告の放送を受信することのできる環境にある者に広く衡平に負担を求めることによって、原告が上記の者ら全体により支えられる事業体であるべきことを示すものにほかならない」
と判示しています。

そのため、裁判上では放送法64条1項にいう「受信設備を設置した者」の範囲が広く捉えられており、ワンセグ機能付き携帯電話の所持者(東京高判平30.3.26)や、ワンセグ放送を受信できるカーナビゲーションを自家用自動車に取り付けた者(東京地判令元.5.15)、テレビ付き賃貸住宅の入居者(東京高判平29.5.31)も”受信できる環境がある”という理由で受信契約義務が認められていました。

二、受信契約義務の例外

ただし、これには条文上の例外があります。

放送法64条1項ただし書き
「ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であつて、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。第百二十六条第一項において同じ。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。」

ここでいう「放送の受信を目的としない受信設備」はどのようなものが当たるかについて裁判で争われてきました。

これについて、上記東京高判平30.3.26は、「当該受信設備が設置されている目的が客観的に放送の受信を目的としているか否かによって判断すべきであって、実際、同項ただし書の「受信設備」とは、電波監視用の受信設備、電気店の店頭に陳列された受信設備、公的機関の研究開発用の受信設備、受信評価を行うなどの電波監理用の受信設備等を指すと解されていることからしても、設置者の主観的な目的によって左右されるものではないと解すべきである。」と判示しています。

つまり、当事者の主観ではなく、外形的・客観的基準によって判断するべきだとしているのですが、例えば、ワンセグ機能は有するが、業務目的の運送車両に搭載されているに過ぎないカーナビはどちらに該当するかといったように、外形的・客観的だからわかりやすい(判断が明確だ)とはいえないのではないか、という指摘がされていました。

三、本判決の判断

記事によれば、本判決では原告はNHKの番組が映らないフィルターがつけられており、増幅器を追加しないと映らない性能とのこと。裁判所は、当該設備は、NHKを受信できる設備に当たらないと判断したとのことです。

記事からは、放送法64条1項にいう「協会の放送を受信することのできる受信設備」に該当しない、と判断したように思われ、ただし書きが適用された判例ではないようです。
ただ、記事からは原告はNHKの受信が不能な設備を設置するという強烈な意思がうかがえ、ただし書きの「目的」を持つ者に十分該当する人物のように思われます。

四、雑感

NHKの受信料不払い率は例年20%を超え、「NHKを見ない」ということに強烈な意思を持つ人は相当数存在すると思われます。
本来、契約というものは「締結する意思」が存在しないところに成立するものではありませんし、すべきでもありません。
放送法64条は公益的な趣旨があるとはいえ、テレビ放送の視聴手段が多様化した現在において、この枠組みを維持し続けることに無理があるように思われます。

上記の携帯ワンセグの判例以降、現在市場に出回っているスマートフォンで、ワンセグ放送を受信可能な端末は激減しています。

それがどのようなことを意味しているのか、NHK関係者はよくかみしめてみるべきでしょう。

(おしまい)

【お知らせ】
2021年4月からニュースレターを発行します。
noteと変わらないボリュームで、タイムリーな法律情報をお届けします!



【分野】経済・金融、憲法、労働、家族、歴史認識、法哲学など。著名な判例、標準的な学説等に基づき、信頼性の高い記事を執筆します。