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こんなクリスマスの夜に結婚式かよ!

「私、結婚するの!」

社会人7年目のゼミ旅行で、Yちゃんは唐突に言った。

「え、いつ?」

連れの女子たちがはしゃぎながら聞くと、

「12月25日!」

「えー!すごいね!ロマンティック~!」

・・・・・・。俺はこの時思った。

「この子、頭お花畑やん。」

だって、クリスマスは、好きな女の子と過ごしたいやん。

まあ、特に彼女もいなかったので、快く了承した。

1 Yちゃんストーリー

Yちゃんは、某国立大学で同じ学科の女の子だ。
小動物みたいな感じの子で、当時のYちゃんは、控えめなタイプで、自分を出さないタイプだった

大学1年生の時、数名の仲いいメンバーで、10km先のちょっと有名な公園まで、チャリで行こう会が開かれた。今思った10kmって遠いな。

しかし、キラキラした大学1年生の俺たちにとっては、10kmチャリでこぐというイベントも、かけがえのない時間だった。途中で、自転車を押して歩くことになり、オレはYちゃんの隣を歩くことになった。

いくつか他愛ない話をしていたが、話題が尽きたころに、Yちゃんは言った。

「アラサー君、私がとなりで大丈夫・・・?やっぱり、つまんないよね。私1人で歩くから、前の方の○○君や、○○ちゃんのとこ行きなよ。」

この子のそんな考えは、どこから来たのだろうかと少し切なくなった。

「そんなことないよ!もっと自信を持とう!笑」当時のオレは、そう軽く流してしまっていた。


Yちゃんはとにかく、読書と吹奏楽が好きだった。空き時間にスマホでなく、読書している様子が印象的だった。吹奏楽にのめりこんだYちゃんは、たまにコンサートがあるから来てと、呼ばれたりもした。

大学3年生の時に、Yちゃんと同じゼミになった。男子3人女子3人。教授も女性だったのと、先輩も女性3人だったので、おしとやかなゼミだった。
Yちゃんは、恥ずかしそうながらも、ゼミの中では少しずつ自分の意見を出していき、3年生が終わる頃には楽しそうに自分の意見や、卒論でやりたいテーマを語っていた。

大学4年のとき、後輩がゼミに入ってきた。男3人女1人入ってきたので、男子の割合が多くなった。夏休みに、伊豆にゼミ旅行に行ったときは、男ノリになることが多く、ペンションについた後も、とにかくオレははしゃぎまくっていた。

そこで、Yちゃんに初めてキレられた。

「おい〇〇!てめぇ、うるせぇんだよ。もっと周りのこと考えろよ!」

戦慄した。

これは本当にYちゃんだろうか。

この子は絶対怒らせちゃいけないと思った。

大学1年の頃のYちゃんを思い出し、まさかYちゃんに罵倒される日が来るなんてと、ちょっと嬉しかった。いやそのときは恐怖が勝っていた。

確か、将来夫となる彼氏ができたのも大学4年だった。

社会人になってからも、ゼミメンバーで旅行をたくさんした。俺もアラサーになったときは、さすがにモラトリアムを卒業し、分別がついてきたので、キレられなくなった。

しかし、香川女子旅(女子3人+オレ)で事件は起きた。醤油工場に行く予定だったが、全く話を聞いておらず、朝ごはんでコンビニの納豆巻きを食べて出禁(納豆菌は醤油の敵)になったのだ。
その時、またキレられた気がする。

2 そして、結婚式当日。

Yちゃんは、誇張抜きで、そこにいる誰よりも美しかった。結婚式の主役だから当たり前なのかもしれないが、魅力を纏った美しい輝く女性だった。

我らがゼミの教授が、乾杯のあいさつをした。

「Yちゃんは芯が強い女の子です。ぶれない芯を持っています。そして、周りのことを冷静に見ていて、深く思慮することができます。ゼミでは、ある男の子がふざけているときは、みんなYちゃんの方を向き、Yちゃんが笑っていればセーフ、Yちゃんが気難しそうな顔をしていたら、ゼミのメンバーみんなでその男の子を止めました。」

教授がニヤリと視線を送る。俺に視線が集まる。
オレは、「ったくお前は~」と隣の男子を小突き、罪をなすりつけた。


乾杯が終わり、ゼミのメンバーとYちゃん夫婦で写真を撮った。去り際に、Yちゃんから、
「フラワーシャワーのところ、私見てたよ。さすがアラサー君だね。面白かった。」
と笑いながら伝えてきた。
フラワーシャワーでは、追い風に煽られ、全部俺の顔にかかったのだ。あんだけの群衆でちゃんと見てたのか、と恥ずかしくなった。
同時に思った。いつもYちゃんは、周りのことをよく見ることができる子なのだ。


席に置かれた、Yちゃんのメッセージの一部にはこう書かれていた。

「いつまでも、楽しいアラサー君でいてください。」

ふと、ゼミ旅行をまた思い出し、一度キレられたのに、その後も「楽しみすぎてんじゃねぇよ!」とキレられたのになぁと、そのギャップに笑ってしまった。

式も終盤になり、Yちゃんが、感謝の手紙を読んだ。
家族はもちろん。来場者や、会場のスタッフにも、血の通った感謝の挨拶をしていた。この子は本当に周りのことが見ることができる子なのだ。凛とした立ち姿で、スピーチする彼女を見て、感慨に耽った。

帰り道の丸の内のイルミネーションはとてもキラキラしていた。
カップルだらけだったが、不思議と嫌な気持ちにはならず、割と幸せな気分だった。

ゼミのメンバーも6人中4人が結婚し、4人目は二月に行われる。あとは、俺だけか。まあ、気長にやろうと思う。

総括して、クリスマスの結婚式は最高だった。

Yちゃん、本当に結婚おめでとう。


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