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新刊『あなたを陰謀論者にする言葉』「まえがき」全文公開

Twitterで「フォレスト出版」で検索したら(ある意味エゴサーチ)、次のようなツイートがありました。個人のツイートを無断引用するは気がひけるので、大意だけ記します。

雨宮純さんの本、フォレスト出版から出るのね。『アイデア大全』なんかもだけど、フォレスト出版って自社に弓をひくような本をたまに出す

注目していただいて、たいへんうれしいです。
豊かな森には生物の多様性があるものです。スピ系や自己啓発系へのカウンターになる本も出せるのは、むしろ出版社として健全と考えています。

さて、先のツイートにもあげられた、弊社の中では「カウンター」となる新刊『あなたを陰謀論者にする言葉』(雨宮純、Kindle版も同日発売予定です)ですが、一部書店ではすでに並び、amazonでは明日(10/8)発売となります。
著者の雨宮さんに許諾をいただき、こちらに「まえがき」を全文公開させていただきます。
「面白そう」と思った人、ぜひ手にとってみてくださいね。

本書のご購入者限定で、本書の本文を音声化したオーディオブックをプレゼントしてます。以下にサンプルとして、「まえがき」の1.5倍速ver.をアップしたので、ぜひ聞いてみてください(プレゼントは1倍速、1.5倍速、2倍速、3倍速で聞くことができます)。

まえがき――

――自然派でスピリチュアルなヒーラーかつ陰謀論者で、さらにはマルチ商法の販売員

 2021年1月某日に世界中すべてのメディア、インターネット、電話、テレビ番組がシャットダウンされ、トランプ大統領のメッセージに切り替わります。この放送は1日8時間を3回、10日間ほど放送され、人身売買をはじめとした闇の勢力の悪事や新しい金融システム、地球外生命体とのコンタクト情報などが暴露されます。一説には東京を戦車が走ると言われています。この刺激的な放送に備えポップコーンを用意しましょう。

 この著者は冒頭から一体何を言っているのか、と思われたことでしょう。
 初見の方にはまったく意味がわからないと思いますが、この怪文の正体は「世界緊急放送」というもので、Qアノンと呼ばれる陰謀論者の間で定期的に出回るものです(Qアノンについては本文中で説明します)。闇の勢力が隠している種々の情報を正義の味方であるトランプ元米国大統領が暴露し、陰謀論者こそが真実を知っていたことが証明されるというわけです。
 まるで映画かアニメのワンシーンのようですが(特に東京を戦車が走る部分は「機動警察パトレイバー」の劇場版第2作を彷彿とさせます)、陰謀論者はこれを真面目に信じており、数カ月に一度陰謀論インフルエンサーから緊急放送の日付が予言されると、一気にTwitterのタイムラインが待望のツイートで埋まります。
 さて、私がこの文章をまとまった形で見たのはあるウェブサイトに掲載されていたものでしたが、これがどのようなサイトだったか想像してみてください。多くの人は支離滅裂な怪文書が並ぶブログや、都市伝説をまとめたようなサイトを思い浮かべるのではないでしょうか。
 ところが、私がこれを発見したのは「ヒーラーのウェブサイトに組み込まれたブログ」でした。
 ヒーラーというのはオーラソーマ(カラーセラピー)やアロマセラピー、スピリチュアル・ヒーリングといったセラピーで癒しを与える人たちで、スピリチュアルの一部に位置づけられます。
 さらにサイトを調べたところ、このヒーラーがアロマセラピーを行っている写真が出てきたのですが、そこに写っていたのは、マルチ商法について調べている筆者には見慣れたエッセンシャルオイルのボトルでした。健康被害や不誠実な勧誘も報告されている、米国発のとあるマルチ商法企業の製品だったのです。
 この人物は他にも新型コロナワクチンの危険性を必要以上に訴える自然派な傾向があるとともに、「ワクチンはビル・ゲイツによる人口削減計画の一環」という陰謀論も主張していました。
 つまりこの人物は、自然派でスピリチュアルなヒーラーかつ陰謀論者で、さらにはマルチ商法の販売員だったわけです。
 癒し系や自然派なイメージのあるスピリチュアルと、見るからに怪しい陰謀論、そしてビジネスの一形態であるマルチ商法には一見関係がないように見えます。
 ところが、日々陰謀論やマルチ商法の界隈を見ていると、これらを同時に支持している人物は珍しくありません。
 さらに例を挙げると、私にはマルチ商法販売員の知人女性がいるのですが、新型コロナウイルス感染症が流行しはじめてからしばらく経ったある日、彼女のFacebookを見てみると、「コロナはただの風邪」と主張する陰謀論インフルエンサーの集会に参加した写真をうれしそうにアップロードしていました。彼女はまた、スピリチュアルなヒーラーやセラピストとの会合写真を投稿しながら、「日々わくわくしていれば自己治癒力が高まりワクチンは不要になる」と主張する、反ワクチン主義者でした。
 スピリチュアルと陰謀論とマルチ商法――。
 陰謀論やマルチ商法には身構える方も、「癒し」や「自然」を掲げるスピリチュアルには安全なイメージを持つのではないでしょうか。
 ところが、右記のようにこれらは重なっており、米国でもヨガやスピリチュアルのインフルエンサーが陰謀論を投稿し、Qアノンの入り口となっていたことが指摘されています。
 こうしたことを知らなければ、癒しを求めてスピリチュアルに向かった結果、Qアノンや反ワクチン陰謀論者になり、気づけばマルチ商法に取り込まれていた、ということにもなりかねません。
 普段から陰謀論やマルチ商法について調べている方は少数派でしょうから、ほとんどの方にはこれらの関係がピンとこないと思います。また、それぞれをばらばらに追いかけていても、なかなか関係は見えてきません。
 しかし、ある補助線を引くことでこれらの関係が明らかになるのです。
 それは戦後米国のカウンターカルチャーを前身とし、神智学やスピリチュアリズム(心霊主義)といった宗教的な思想を取り込んで成立した「ニューエイジ」が日本に持ち込まれ、現在のスピリチュアルに至る一連の潮流です。この潮流を辿ると、ヨガや瞑想、オーガニックに民間療法、自己啓発とマルチ商法、そしてUFOや陰謀論といった、ここまで挙げてきたものが次々と現れてきます。

 私はたまたま元オカルト少年(「ノストラダムスの大予言」が外れたため懐疑派に転向)で、マルチ商法や自己啓発セミナーにも関心があったことから、この潮流について調べ、発信していたところ、本書を著す機会をいただきました。
 本書では、右記の潮流を辿りながら、関連のある人名や事件名、固有名詞や、その周辺用語についても解説していきます。
 たとえば、「チャネリング」や「爬虫類型宇宙人」などの「いかにも」な言葉もあれば、「スティーブ・ジョブズ」「安倍昭恵」といった超有名人、「癒し」や「ボードゲーム」「シュタイナー教育」という、およそ関連なさそうな言葉も多数含まれています。これらの言葉を見出しの代わりに、関連がある各項に「タグ」として、できるだけ記載しました。
 じつは、これらの聞いたこともない言葉、あるいは普段自然に見聞きし、使っている言葉が、不幸への入り口になることを、あなたはイメージできるでしょうか。
 たとえば、信頼している知人から「ボードゲームをやろう」と言われてついていったことがきっかけで、マルチ商法にのめり込むことになるかもしれません。あるいは、「あのジョブズもそうだったんだよ」と絶対菜食主義をすすめられたことがきっかけで、がんを民間療法で治そうとするかもしれません。
 もちろん、一概にそれを悪いとは言いません。
 しかし、こうした世界にまったく免疫がない状態で足を踏み入れたことで、自身はもとより家族や友人などの周囲の大切な人を不幸にしたり、陰謀論者が語るところの「闇の勢力」と闘う〝目覚めた人〟として一生を過ごすことになってしまう可能性があるとしたらどうでしょう。
 まだこの段階では、「お前は何を言っているんだ?」と思う読者もいることでしょう。しかし、本書を読み進めていただければ、きっとその意味をご理解いただけるはずです。そして同時に、「虫の知らせ」と言いますか、良からぬ人や集団、思想へ対する危機察知能力、すなわち「あ、これは怪しいな」とピンとくる感度を高められるはずです。それこそが、本書が目指していることなのです。
 それでは、怪しくも独特の魅力を放つ、スピリチュアルな潮流を辿っていきましょう。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(編集部 石黒)

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