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勝手にベスト3――『あなたを陰謀論者にする言葉』の中に出てきた、私が初めて知って地味に驚いた「事件」

先週10/8(金)に発売されて、早くも2刷が決定した雨宮純『あなたを陰謀論者にする言葉』。

最近、陰謀論関連本が増えており、書店では肯定論者・否定論者の本をゴチャ混ぜにした「陰謀論コーナー」が増えているようです。そんなブームの中、丁寧に文献や歴史から陰謀論につながる潮流をたどった本書は類書とは一線を画し、否定論者や一部の好事家の方にご購入いただいているのではないかと想像しています。

さて、そんな陰謀論に対して、ネタとして消費する鷹揚さも必要な一方、その危険性については、しっかりと指摘しなければなりません。以前、どこかに書きましたが、陰謀論がジェノサイドを生み出したという歴史的事実を無視するわけにはいかないからです。

そこで関連して、『あなたを陰謀論者にする言葉』の中から、私が知らなかった、そして地味に驚いた陰謀論やその周辺にあるカルト、スピ、マルチ、宗教周辺の事件ベスト3をお伝えします。
本書には、さまざまな「事件」が掲載されています。もちろん、オウム真理教の地下鉄サリン事件や、詐欺商法が原因で起きた豊田商事会長刺殺事件、「シャクティパット」で有名なライフスペース事件、TOSHI洗脳事件、海外だと教祖ジム・ジョーンズによって集団自殺が起きた人民寺院事件、UFOアブダクション(誘拐)事件なんかの有名どころは、原稿を読む前から押さえていました。しかし、陰謀論ウォッチャーを名乗れるほどの見識がない私には、知らなかった事件もたくさんありました。
そんな中から、本書によって私が初めて知って、地味に驚いた事件ベスト3を紹介します。

第3位 山口県2カ月女児硬膜下血腫死亡事件

2009年、山口県で生後2カ月の女児が硬膜下血腫で死亡する事件がありました。
硬膜下血腫の原因はビタミンK欠乏症で、実はホメオパシーを支持していた助産師(この助産師はホメオパシー団体に所属していました)がビタミンKの代わりにレメディを与えていたのです。そして、母子手帳に「ビタミンK投与」と虚偽の記載をしていました。
 助産師であればビタミンKの重要性を知らなかったはずはありませんが、ホメオパシー団体の代表は「レメディはビタミンKと同等の効果がある」と主張しており、この助産師はホメオパシーの理論を本気で信じてしまったために女児を死なせてしまったものと考えられました。――前掲書

「レメディー」というのは、ホメオパシーにおける薬です。科学的な知識よりも、自身の「信仰」を優先させたことで、無関係であるはずの乳児の命を奪った、非常にやりきれない事件です。

この事件で思い出したのが、「ズンズン運動」。

医学的知見がないにもかかわらず、乳児を揺さぶったり、首を捻ったりすることで「免疫力」があがるとして、あるNPO法人の代表が普及していたのですが、ついにその施術を受けた乳児が死亡する事故が起きました。
その代表が同郷ということもあり、私の記憶に中に残っていました。自分の意志を伝えられない乳幼児が犠牲者というところも先の事件と共通します。
この代表について詳しく調べたわけではないのですが、HPには次のような記述があったそうです。

「ズンズンという揺らぎの振動とこの抱っこで、宇宙に包まれた私たちのからだの成長を感じて生きていける」

「宇宙に包まれた」……この表現にピンとくる人もいるのではないでしょうか。

第2位 ピザゲート事件

2016年に発生したピザゲート事件では、ヒラリー・クリントン陣営から流出
したメールに含まれる「チーズ」「ホットドッグ」「ピザ」といった食べ物に関する単語が児童売買を表す暗号であると考えられ、いつの間にか「ワシントンのピザ店『コメット・ピンポン』の地下には児童売春施設があり、民主党の幹部が関わっている」という陰謀論が出来上がっていました。
これだけならネットで生まれた陰謀論や都市伝説で終わりでしたが、2016年
12月4日には、なんと銃を持った男がピザ店に現れ、銃撃事件を起こしてしまいました。――前掲書

しかも、このピザ店コメット・ピンポンには地下室がなかったというオチ付き。こうした荒唐無稽な推測で、理解出来ない行動に人を駆り立てるのも、陰謀論の恐ろしいところです。

第1位 ケイティ・メイ死亡事件

『PLAYBOY』誌のモデル、ケイティ・メイが脳卒中によって急死した事件。撮影中に首の痛みを感じたケイティ・メイはカイロプラクターの施術を受けたが、その際、脳に血流を送る椎骨動脈が破れてしまった。このため脳に血液が届かなくなり、彼女は脳卒中によって34年の生涯を閉じた。――前掲書

一見、よくある不幸な事故に思えるかもしれません。そして、前の2つの事件と比べると、インパクトが弱いと感じる人もいるかもしれません。
しかし、私が衝撃を受けたのが、単なるマッサージ法、整体術くらいに考えていたカイロプラクティックの起源が、スピリチュアリズムにあったことでした。
その創始者はダニエル・デヴィッド・パーマー。

 パーマーはスピリチュアリズムを信仰しており、カイロプラクティックについてもジェームズ・アトキンソンという医師と交信し、異世界からメッセージを受け取ったとしていました。――前掲書

「異世界からのメッセージ」で生まれたったって……。こうした民間療法にはスピ系の思想が関連しており、カイロプラクティックにも健康被害が報告されていて、その一例が本事件とのこと。
とはいえ、その死因はカイロプラクティックではなく、事前の転倒による怪我であるという主張もあります。たしかに私自身、町中でよく見かけるカイロプラクティックが「危険なもの」とは思わないし、肩や腰が痛いときなんかは、行ってみたいと思っているクチです。先に紹介した「ズンズン運動」なんかとは違い、これほど社会に溶け込んでいるのだし、信頼できる、と。
それに、現代のカイロプラクティックには、創始者パーマーのスピリチュアリズムの影響が色濃く残っているとも思えません。
とはいえ、繰り返しますが、その起源がスピリチュアリズムというのは、衝撃的すぎたので1位としました。

お読みいただければ、皆さんも衝撃的な事件を目の当たりにするはずです。気になった方は、ぜひ手にとってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(編集部 石黒)

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