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#私が服を好きになった理由


「とても綺麗な肩。」落ち着いた照明のレストランで、食事中の離席から戻った知人は私の左の肩越しにそう言った。

その日私が来ていたのは、とてもシンプルなネイビーのニット。私の好きな色の一つだけれど、いつもの定番ワードローブと大きく異なるのはそれがオフショルダーであること。

秋口に差し掛かり秋物を探しにいった昼下がり、vネックとボートネックのニットを持って試着していた私に店員さんが「とても似合うと思うので、お時間あったらぜひこちらを着てみてください!」と薦めていただいたもの。実際とても似合っていて、先日読んだ尾形真知子さんの小説みたいだと思いながら勇気を出して購入したのだった。



地方の旧家の本家で私以外は全員公務員。とてもコンサバティブな環境で育った私には、制服を着崩すということも当時流行った安室奈美恵ちゃんのようなミニスカートやキャミソールなんて、別世界のものだった。殊更扇情的であるということに嫌悪感を示す両親で、色もとても落ち着いたものばかりだったように思う。

その後新卒から長く働いた機上の生活では、制服のスカーフの巻き方やスカートの長さはもちろん、ブランドイメージを損なってはならないという理由でデニムやミュールはNGなど出退勤時の服装の規定も多く「品のいい航空会社職員のクローン」のようだった。

一言で言うと、私にとって装うということは他人から期待される私を演じるための制服というか鎧だった。親から見た私、会社から見た私、世間一般がCAとして見た私、パートナーがこうであって欲しいと思う私。その期待を裏切らないために品良く美しく無難に装う。そんな毎日。



そんな私にもいくつかの大きな転機が訪れ、親の子離れも進み、私は職業として決して安定しない花業界に身を置くことになる。ただ好きだという理由のみで。仕事中は主役である花の魅力を引き出すために黒を中心に着るけれど、オフの日は本当に好きな服を着たいと思うようになった。私もやっと、精神的に親離れをしたのかもしれない。

DVFのワンピースやロエベのアイコンバッグ、スイートアルハンブラをもう身につけない訳ではないけれど、真っ赤なミモレ丈のスカートやradaの大きなビジューのイヤリングが今ではお気に入り。決して以前の私だったら選ばないチョイス。好きなものを身に纏い、足元で揺れる美しい赤や鏡越しにお気に入りを見るたびに、私はとても気持ちが高揚して、身軽になったような気さえもする。


「自覚していないかもしれないけど、ふとした瞬間にすごくセクシーに見えることがある。」と彼は言った。男性に褒められてこなかった訳ではないし、美しい先輩方から外見を褒められた時はにっこり静かに笑って お上手ですね って言うのよ と教わってきたけれど、その日だけはどきどきしてアルカイックスマイルを返すことが出来なかった。ネイビーのオフショルダーを着た自分の中に、タブーとしていながらどこか憧れていたsensualityがあったということを自覚してしまったから。


鎧を脱いでいちど裸になった私がただ純粋に好きと似合うからという理由で装い出してから、私が選んだアイテムたちは今まで自覚していなかった私の魅力を引き出してくれる。戸惑いながらも嬉しくて、私はまた知らない自分を見つけたくなり、街に溢れるファッションを眺めるのが好きになる。やっと私は、純粋に装うことが楽しくなったのかも。


鎧を脱いだ裸に一枚纏うことで、確実に存在していたのに自覚していなかった隠れた魅力が突然現れる。これが私が服を好きな理由。



この#私が服を好きになった理由について

twitterでのファッション業界の方を中心に錚々たるメンバーで回るバトンが、ひょんなことから私の元に。ずっと言葉で何かを記したいと思っていたこともあり、これを切欠にnoteを始めました。錚々たるメンバーの方の中稚拙な内容で恐縮ですが、読んでみたいとおっしゃって下さったJane様、あなたにそう言っていただいて本当に嬉しくて。

#私が服を好きになった理由






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