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今年のフェラーリの強さは本物だ!——F1豪州GP

(2022年4月13日記載)

レース終盤、トップを快走するルクレールからフェラーリチームに驚愕の無線が飛んだ。「(後続を引き離してヒマだし)ファステストラップ更新を狙ってもいいかな?」(ルクレール)→「悪いこと言わないからやめとけ」(チーム)(※筆者意訳)——。あの強い強い2013年のベッテルを思わせるようなルクレールの無線に、今年のフェラーリの強さは本物だと思い知った。

フェルスタッペンが消え、サインツも消え、ハミルトンは表彰台圏外で最速ラップどころではない。ルクレールはすでに十分に速い最速タイムを出しており、最速ラップポイント1点を守るためのタイムを無理して更新する必要がない局面。それでもルクレールは最終ラップで1分20秒260の圧倒的タイムを出した。「今日一番速いのはオレだ」といわんばかりに。

13年にレッドブル・ルノーのマシンでシーズン後半を9連勝で締めくくったベッテルは、最終ラップに最速ラップ(当時はポイント対象でない)を獲りに行って首脳陣を散々やきもきさせた(ついでにゴール後にドーナツターンまで決めていた)。この日のルクレールの無線はその頃のベッテルとダブって見えた。

フェラーリはレッドブルと大接戦の末に開幕2戦連続でドライバー2人を表彰台に送り込んだものの、「戦力的にはレッドブルと五分五分」との評価が多かった。ところがこの日のレースではルクレールが序盤から後続を引き離して完全優勝を果たす一方で、フェルスタッペンはトラブルでリタイアし、同じフェラーリに乗るサインツは2周目に自滅スピンを喫した。2強4台から「フェラーリ・ルクレール1強」への移行を印象付けるには十分な結果だった。

ルクレールはポイントを71に伸ばして2位ラッセル(37ポイント)にダブルスコア近い差をつけ、直接のタイトル争いのライバルのフェルスタッペン(25ポイント)に優勝2回分の差をつけた。

『天才型』ルクレールを前に、『秀才型』サインツは焦り?

重要なのはルクレールはサインツ(33ポイント)にも38点差付けたことだ。仮にレッドブル勢やメルセデス勢が追い上げた場合に、チームはルクレール優先でサインツをサポート役に回す可能性もありうる。サインツにとっては自滅リタイア0点は厳しかった。

少し前の「ルクレールに後れを取った? サインツ」と題した記事で、「『上手い(秀才型)』ドライバーはマシンが悪くてもしぶとく走るけど、いいマシンを手にしたときの伸び代は『速い(天才型)』ドライバーの方が大きいかもしれない」と書いた。

逆の見方をすれば「悪いマシンに乗ったときに『速い』ドライバーは自分の腕でなんとかしようとしてクラッシュしがちだけど、いいマシンを手にすると無理する必要がなくなる。逆に、チームメイトは『上手さ』だけでは対抗できなくなる」と表現できる。

サインツは予選やマシントラブルなどの不運に加え、『上手さ』だけでは対抗できなくなったルクレールへの焦りから、自分が無理してクラッシュしたように見えた。

アロンソ、「F1の冷たさ」を跳ね返せるか?

アロンソは本人曰く「ポールポジションも見えた」予選をトラブルで棒に振り、レース後半での追い上げを見込んでハードタイヤでスタートした決勝もセーフティーカーのタイミングがことごとく裏目にでて17位に沈んだ。

ここで頭をよぎるのは「去り行くドライバーにF1は冷たい」ということだ。

2012年のミハエル・シューマッハはシーズン序盤は予選トップ3を獲得したことが複数回あったものの、マシントラブルでほとんど結果を出せずに序盤戦を終え、シーズン後半はポイント獲得もおぼつかなくなった。たとえ力量が残っていても、F1にはドライバーを強制的に叩き出してしまう怖さがある。

アロンソはまだ引退の考えはないだろうが、「F1の魔力」によりキャリアの終演を迎えてしまうことのないよう祈るばかりだ。

そしてこの懸念は、残念ながらベッテルにも当てはまる。

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