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2050年ビジョンとその具体(後半)

こんにちは。
1985の代表理事の辻です。
 
今回は前回の続編ということで、ロードマップの文言及び2050年ビジョンを数値化するための具体的な作業について解説したいと思います。少々ボリュームがありますが、最後まで読んでもらえると嬉しいです。
 
まずはロードマップの文言「ストック平均でZEH基準の水準の省エネ性能が確保されているとともに、その導入が合理的な住宅における太陽光発電設備等の再生可能エネルギーの導入が一般的となる」の前半部分から。

「ストック平均でZEH基準の水準の省エネ性能が確保されている」の数値化


前回のおさらいになりますが、この前半部分を数値化するために必要となる要素は以下の2つです。

①2050年のストック数(戸建て・共同住宅とも)
②ZEH基準の水準の省エネ性能(=一次エネルギー消費量)

まず「①2050年のストック数」です。
さまざまなところから予測の数値が出ていますが、過去の国交省の資料に掲載されていた試算値を引用し、戸建て住宅と共同住宅のそれぞれの比率を求めて、割り振ってみました。

①「2050年のストック数」とその内訳

ちなみに、戸建て、共同住宅の比率は、前回の記事でも触れた「あり方検討会」で提出された、国交省による2030年までの省エネ対策のエネルギー削減量の試算資料(以下、国交省試算資料という)で使用されている数値を、引用したものです。
 

次に「②ZEH基準の水準の省エネ性能(=一次エネルギー消費量)」について。
こちらも先の国交省試算資料の数値を引用することにしました。

上記の表は、住宅における一次エネルギー消費量(全国平均)を、それぞれの性能別(BEI別)にまとめたものです。
その数値には色々な突っ込みどころはあるものの、現状において一定以上に信頼ができて、かつ公表されている唯一の数値であることから、そのまま使用することにしました。
 
ZEH基準のBEIは0.8なので、それに該当する一次エネルギー消費量(赤枠部分)を、先の「①ストック数」に乗じれば、戸建て・共同住宅のそれぞれの合計値が算出できることになります。

①②「ストック平均でZEH基準の水準の省エネ性能が確保されている」の数値化

こうして求めた上表の数値を、家庭部門における2050年に目指すべき一次エネルギー消費量の合計値(太陽光発電設備等の創エネ分は差し引いていない)と設定することにしました。

これで前半部分の文言の数値化は完了です。
続いて後半部分に移ります。


「その導入が合理的な住宅における太陽光発電設備等の再生可能エネルギーの導入が一般的となる」の数値化


同じく数値化するために必要となる要素を挙げてみます。
なお、ここからは再生可能エネルギー=太陽光発電という前提で記述していきます。

③導入が合理的な住宅の割合
④導入が一般的となる住宅の割合
⑤太陽光発電設備による一戸あたりの年間平均発電量

はじめに「③導入が合理的な住宅の割合」について。
「導入が合理的な住宅」とは、太陽光発電設備を導入することで住まい手が一定以上のメリットを享受できることが条件になると思うので、「一定以上の容量の太陽光発電設備を設置できる住宅」と定義付けてみました。
 
実はこの③が一番判断に迷ったところです。他の見解があればぜひ聞いてみたいと思いますが、私が参考にした資料は以下のものです。

この資料は国立環境研究所(環境省所管の研究機関)が2021年6月にまとめた「2050年脱炭素社会の実現に向けたシナリオに関する分析」の別冊内の資料です。
 
上表にある除外条件(赤枠部分)に該当する住宅を、「十分な容量の太陽光発電設備の設置が望めない住宅」とし、それ以外の住宅を「導入が合理的な住宅」であると考えました。
 
その除外条件に該当する住宅が、全体に占める割合を示したデータが同じ資料内に掲載されています。

上記のグラフ(「平成30年住宅・土地統計調査住宅の構造等に関する集計」から作成されたもの)から読み解くと、除外条件に該当する住宅は、戸建て住宅(建築面積50㎡/戸未満)が18%、共同住宅(11階建て以上)が15%となります。
 
ただ、戸建て住宅の除外条件を、建築面積50㎡/戸未満と設定したところ(狭小地という前提だと思われるが)に少々違和感(緩すぎる)があったので、全体に占める割合から考えても「40㎡未満くらいが妥当ではないか」と思い、最終的には下記の内容を除外条件と設定しました。

・戸建て住宅(建築面積40㎡/戸未満) 9%
・共同住宅(11階建て以上) 15%

よって「③導入が合理的な住宅の割合」は、下表のとおりとなります。


続いて「④導入が一般的となる住宅の割合」。
これに関しては主観的に解釈するしかないのですが、戸建て住宅においては「一般的」という表現を、80%としてみました。

ただ、共同住宅においてはその見当が付きにくいので、2020年の太陽光発電設備の搭載率の比率が、戸建て住宅の1.6%という結果(CO2排出実態統計調査による)に基づいて、算出することにしました(0.8×0.016≒0.013)。


これで③と④のそれぞれの割合が算出できたので、それらを合算した下表の数値を、「導入が合理的な住宅において太陽光発電設備の導入が一般的となる住宅の割合」と設定しました。

③④「導入が合理的な住宅において太陽光発電設備の導入が一般的となる住宅の割合」の数値化

上記の数値は、家庭部門における2050年に目指すべき太陽光発電設備の設置率とも言えるものだと思います。


では最後の「⑤太陽光発電設備による一戸あたりの年間平均発電量」の数値化です。この作業においても、国立環境研究所の先の資料の数値(赤枠部分)を参考にしました。

ここで特に重要なのが「一戸あたりの平均設備容量」なのですが、比較的情報の多い戸建て住宅で、経産省から毎年公表されている総合エネルギー統計の実績データと比較してみたところ、上表の数値と概ね一致していることが確認できました。
よって共同住宅も含めて上表の数値を使用して算出し、下表のとおり「太陽光発電設備による一戸あたりの年間平均発電量」としました。

⑤「太陽光発電設備による一戸あたりの年間平均発電量」


これでようやく①~⑤の数値を算出することができたので、いよいよロードマップの文言全体を数値化するための集計作業を行います。

 と、その前準備として、2050年の太陽光発電設備による創エネルギーの合計量の算出と、最終的な集計作業で必要となる一次エネルギーへの換算をしておきます。



では最後に、ロードマップの文言全体を数値化します。

これまでの作業を通して、上表の合計値である「1766 PJ」を、ロードマップの文言を数値化したものとして設定することにしました。
 
これはあくまでも個人的な推計値ですが、2050年において国が目標とする家庭部門の一次エネルギー消費量の上限であり、「2050年の省エネ目標値」と言えるものだと思います。
ちなみに、国の削減目標の基準である2013年比にしてみると、約64%の削減目標ということになります。
 
1985の会員総会でもこの概要をお話ししましたが、今回改めて細かな設定を見直したことによって、その時の数値と若干変わっていますので、ご承知おきを。


「2050年ビジョン」を数値化する


これでようやくロードマップの文言を数値化できたことになるわけですが、ここまではあくまでも国の目標の話です。最後にこの数値を基にして、1985の2050年ビジョンを数値化する作業をします。
 
前半の記事でも書きましたが、1985の2050年ビジョンは、原発に頼ることなくカーボンニュートラルを実現するというものです。先の国の目標とする一次エネルギー消費量(1766PJ)の中には、原発による電力供給分が含まれているので、それを差し引く必要があるわけです(2050年には家庭部門で使用されるエネルギー源は電気のみになっていることを前提とする)。
 
国のエネルギー政策の道筋を示すエネルギー基本計画には、2050年に想定される総電力供給量に占める原発の割合の記載はありませんが、その素案段階の参考値として、15~20%という記述がありました。
なので、ここでは15%と設定して算出してみます。

・1766PJ × 0.85(原発分を除いた比率)≒ 1500PJ

この1500PJが、「2050年ビジョンを数値化」したものであり、1985の目標(エネルギーハーフ)の先にある長期的な目標値という位置付けになるわけです。
 
ちなみに2013年比では、69%の削減目標ということになり、かなりハードルの高いものですが、その実現に向かって、今まで以上に様々な取り組みを進めていきたいと思っています。


シミュレーションとそこから見えてきたもの


今まで述べてきたように2050年ビジョンを数値化し、具体的な目標値として設定できたので、さらに一歩進めてその目標値を実現するために「どのくらいの省エネ化を、どんなスピード感で取り組む必要があるのか」を把握しようと思い、そのシミュレーションを行いました。
 
具体的な内容については、その作業を担当した基盤情報作成委員会メンバーの中野さんから、後日、記事をアップしてもらう予定なのでここでは触れませんが、シミュレーションの実施によって見えてきた概要を、最後にまとめておきます(戸建て住宅のみ)。

  • 先の2050年ビジョンの目標値を実現するためには、遅くても2040年までに1985の当初からの目標である「エネルギーハーフ」を達成する必要がある

  • そのためには新築はもちろんのこと、既存住宅への省エネ化がとても重要(国の想定の2倍程度

  • それらのことを踏まえると、これから目指すべき「住宅の省エネ度」は下表の内容となる


少々ややこしい内容だったと思いますが、いかがでしたでしょうか。
今回の一連の数値化は、あくまでも個人的な推計によるものですが、これを機に議論が広がり、より適切な数値に落とし込めることを願っています。

ご意見などある方は、ぜひ1985までご連絡ください。


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