リトルジャパン

毎年この時期、ボストンの街になんとも異様な黒い波紋が生まれる。

不安そうに1人で歩くスーツ姿の就活生、
パソコンに向かって一生懸命練習してきた言葉を唱える面接前の人たち、
腕を組んで楽しそうに見つめ合う男女、
右上のおじさんに微笑みかける女の子(彼女のスマイルは本当に完璧だった!)。

「日本の大学ですか?」「あ、東大です」「僕は一橋です」「俺高校が開成で〜」
「早稲田行きたかったんですけど落ちちゃってほんとにショックだったんですよね」
「教授が村上春樹の翻訳者?だったらしくて〜、まあそんなことどうでもいいんですけど、」
会話の輪から少し離れて、ディナー前の待ち合わせ空間をどう振る舞おうかと様子を伺う女の子と男の子たち。

隣の図書館ではボストンの学生たちが黙々と勉強していた。

すっごーい!!!

なんか理不尽に褒められる。
普段の褒め方/褒められ方は卵焼きの巻き方が上手い(から今度おしえて)とか、
ネックレスが可愛い(というよりそれを身につけているあなた自身が好き!)とか、
作った資料のデザインが好き(頑張っててえらい〜、し、自分も参考にしたい!)とかそういう類のものだが、
この期間になると、例えるとしたら日本で生まれ育った人にうっわー!日本語上手だね!!すごい!!って言うみたいな、なんだかどうしようもない褒められ方をするのだ。

それは素直に向こうの価値観ですごいと思ってくれていることもあれば、ただの媚び売りとか妬みなこともあるし、特に何も考えずに言っていることもある。
褒められた内容に関して言うと正直嬉しくもないし嫌でもないが、わざわざ褒めてくれたその行為に対して素直に喜ぶことにする。

擦り傷か、泡の石鹸か

あとはなんか理不尽に傷つく。
私はQRコードの先にある情報よりもあなたが何を考えているのかを知りたかったんだけど、履歴書を見せない小娘には教えてくれないみたい。
君はここを直した方が良い、うちの会社に勤めるならこういう姿勢に共感しろ、多少嘘でもいいから。私服で来た自分が実は間違ってるんじゃないかという感覚に陥って、2日目にはスーツを着てしまった。今の私には私服を貫き通す強さがまだなかった。

わかったよ、そんなにQRコード読み込めって言うんなら大人しく帰ってJavaと会話してるね。

せっかく刷り直した0.64ドルの履歴書が今年もまたただの裏紙になってしまったけれど、擦り傷が修復不可能な傷になってしまうくらいなら、裏に数式書く方がまだまし。

こんな時は、ゆっくりシャワーを浴びて、あわあわの石鹸で泣きながら夢を語り直すんだ。
それでもう一回心の境界線を定義し直して、もうひとつパワーアップした私でまた現実に足を踏み入れる。次はもうちょっと納得できる方の現実で。

私の根本は昔から変わらないしこれから変えるつもりもないけれど、環境と心の境界線はいつでも作り直すことができる。
どのように振る舞ってもファンとアンチの層が多少変わるだけで全員に好かれることは不可能なので、良い意味であんまりファンに好かれようともアンチに合わせようともせずに、みんなまとめて抱きしめるつもりで、
私は自分が好きな自分で、やりたいようにやっていこう。

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