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「ファッション業界は華やかに見えるけど、現実は厳しい」って言いたがる。

大学生の時の就職活動で行った某大手アパレルメーカーの説明会の会場は都心の派手なホールだった。

「私服でお越しください」と書かれた案内状に当日まで戸惑いながら、少し頑張ってジャケットを羽織って普段はそんなことしないのに、髪型をセットして向かった。

受付では綺麗なお姉さんたちが綺麗な洋服を纏い出迎えてくれ、髭を生やしたダンディなお兄さんたちが席まで案内してくれた。
その時点でもう「ここには入れなそうだな」と思ってしまった。

説明会が始まると、「社員紹介」的なおしゃれなムービーが流れ出し、絶対そんなはずがないある社員さんの9:00-18:00のスケジュールに沿って業務内容などが「まるでプロフェッショナル仕事の流儀か」と言いたくなるような編集で紹介された。
その後、なんだか偉そうなおじさんが出てきて開口一番、学生たちにこう言った。

「ファッション業界は外から見ると煌びやかで輝かしい物に見える。でもそれは大きな間違いで、現実は厳しい世界だ」

そのときに僕はシンプルに「うるせえな、んなことわかってるよ」と思ったし、「煌びやかに見せてるのはお前らだろ!」と心の中でキレながら「ウンウン」とうなづいた。

帰ってから、もらった会社案内をゴミ箱に捨ててベッドに寝っ転がって天井をみた。自分は何をすればいいのかわからなくなった。少なくとも僕が大人になったら若い学生の人たちに「雑な夢を見させる」ようなことはしたくないと思った。

それは今でも変わっていない。ただ少し違う。

現実は確かに厳しいのかもしれない。そしてファッション業界は輝かしく見せなきゃいけないのかもしれない。
「ファッションは夢、服は魔法」そんな幻想に囚われているのは業界の方かもしれない。消費者は馬鹿じゃない。幻想なんてすぐにバレる。
少なくとも業界のことを何も知らない、20歳そこらの僕でさえ就活のときには気づいていたのだから。

しかしそれでも、虚構も夢も巻き込んで、多少黒ずんでいようが「ファッション」は楽しいんだぞと伝えたいと今では思う。

自分の関わった服が誰かの生活を豊かにする、誰かの見る景色を変えてしまう、そしてその人自身にまで大きな影響を与えることだってできる。

そんな素晴らしい仕事だと僕は思う。
夢があるとは言えない業界だけど、未来はある。
その未来をどうしていくかは僕らが自由に決められるはずだ。

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