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「大切だから苦しい」〜家族愛とダブルケア〜

世の中、うまく行かないことだらけ。

(イラスト:くろさきあさこ さん)

育児と介護。
まったく違う、でもなんだか似ている、この2つ。
共通するのは、どちらも何かしらのケアが必要だということ。
保護監督する者が必要だということ。

この2つのケアを同時に担っている状態を「ダブルケア」と呼びます。

ダブルケア。
なかなか耳慣れない言葉ですが、おそらく今後は増えるでしょう。

晩婚による、出産の高齢化。
高齢者の増加と超高齢化。
子供が小さいうちから介護の問題が湧き上がってくるのは、もはや必然とも言えます。

我が家は子供が二人とも小学生。
乳幼児に比べれば育児の負担は軽いものの、まったく無いわけではありません。

そして、義母と同居しています。
要介護2、認知症と足腰の運動能力の衰えが気になるため、日中の見守りが欠かせません。
外出は車椅子のため、100%付き添いが必要。
いっときほどのハードさは無いものの、これも立派なダブルケア!!

このnoteは、ダブルケアを担う3名の実体験から、ダブルケアにまつわる悩みと問題点を浮き彫りにしながら、家族愛について考えます。

note内で紹介する方
くろさきあさこ さん(ダブルケアカフェ主催)
みっぽんぽん さん(イラストレーター)
四葉かなえ(ライター・著者)

※note内で掲載しているイラストは、御本人に許可をいただいております。

育児への理解

社会は、育児に対してそこそこの理解があります。
振り返れば、誰もが鼻垂れ小僧だったし、おしゃまでおませな小娘だったことがあるからです。

満員電車にベビーカーが…とか
保育園建設に対する理解が…とか

さまざまな問題がとりざたされていますが、問題が取り上げられるということは改善の兆しも見えてくるということ。
時間はかかっても、そこに希望は持てるはずです。

当事者としても、育児は期限付きの出来事なんだと自らを納得させることが出来ます。
子供は成長し、昨日はできなかったことができるようになっていきます。
目が離せなくなったり、心配事が増えるというのも悩みの種ではありますが、大体の場合は先行きが明るいのです。

介護の問題

対して、介護の問題。
介護でよく言われるのは「終わりが見えない」ということです。
認知症、身体機能の低下、排泄障害や嚥下障害…。
これらが改善することは稀で、多くの場合はゆるやかに進行していきます。

ゆるやかに
わずかずつ忍び寄る
「老い」と「病」あるいは「怪我」「機能不全」

歳を重ねると、あるところから時計が逆さ回りになるという不思議な現象が起きるようです。
昨日まで出来たことが、できなくなる。
退行現象。

辛いけれど、それが現実。
変化を受け入れがたい、でも受け止めなければいけない。
介護者は、過去の記憶と現実を直視しなければいけない。
そして、現実に向き合い、適切に対処することが求められます。

しかし、現実をなかなか受け入れることが出来ないのは、誰あろう当事者その人なのです。

家族の介護を考える

私自身が介護について考えだしたのは、今から2年前のことでした。
同居の義母の認知症が気になり始め、主人が「一度、介護の認定を受けておこうか」と言い始めたのがきっかけです。

その時、本人は「介護」を受けるつもりが毛頭無く、また「介護」を受ける側になるなんて夢にも思っていなかったようなので、申請にもかなり気を遣いました。
介護申請のために訪れた担当者に「私はどこも悪くない」と言い張り、「認知症なんてとんでもない!」とあからさまに嫌悪感を示しました。

しかし、実際には簡単な記憶テストにつまづき、季節や日付の感覚があやふやになっていたのです。
テストの結果、本人の意識、自覚とは裏腹に、「認知症の疑いがある」という事実がきっちりと示されました。

介護問題を考える時、「当事者の尊厳」は必ず顔を出します。
介護を受けるということは、人の手を借りなければいけないということ。

しかし、それは数年前、数ヶ月前は本人自身が問題なく行えていた行為だったはずなのです。

我が家は、家事全般を私が行います。
掃除洗濯の一切、食事全般、ぎゃあぎゃあうるさい子どもたちのケア…。
文字で表す以上に、やることは溢れてやまないものです。

亭主関白で家事には手を出さない主人は、重箱の隅をつつくように「ホコリが目立つ」とか「風呂場の隅に水垢がある」とかブツブツ文句ばかり言います。
そんな主人は持病持ちで、違う意味でのダブルケア(介護+看護)になる時もある我が家。
毎日、やることは尽きません。

介護らしいことはあまりしていませんが、義母の投薬管理、外出の付き添い、家の中での見守り、これらは私の仕事です。

義母はたいへん話好きで、人と話すのが大好きです。
ところが、家では私とばかり顔を突き合わせていてあまりのんびり世間話も出来ないため、義母もイライラしています。
毎日顔を合わせていれば、ケンカもします。
積もりつもった愚痴や不満も、口をついて出ます。

冷静に考えれば仕方ないことなのですが、育児と同じでついついイライラしたりかっとしたりしてしまうことがあるのです。
家族だからこそ、冷静に向き合えない。

介護とは、なかなか難しいものだと痛感します。

介護の理想とリアルの間にある「でっかいギャップ」

介護をしていると「してあげたいこと」はあるのに、なかなかできないことがあります。
介護を受ける側が「してほしいこと」と噛み合わないことも多々あります。

不思議なことに、退行現象が進むと多くの人は「わがまま」になり「固執が強く」なり「偏屈」になります。
大人の事情を汲めないし、空気を読むことはできないし、気持ちを察することは期待できません。

「大人なんだから」
「これくらいわかってほしい」

介護側の淡い期待は、ことごとく打ち砕かれるのです。
当人は自分のことに必死です。
だから、介護する側の気持ちまでなかなか伝わらない難しさ。

介護を受ける側に悪気はなく、介護者を頼っているからこそ生まれるギャップ。
頼れるサービスはあるし、打つ手もある。
なのに、本人がそれを拒んでしまう。

「必要ない」
「自分でできる」
「お金がもったいない」

介護者がそれに振り回されることは、日常生活の中でまあまああります。

介護制度もかなり充実してきた昨今。
快適に生活できるように、として用意されている各種サービス。

しかし、なかなかすんなり行かない現実。
このいかんともし難いギャップに苦しむ人はかなり多いと思います。

「でっかいギャップ」の体験(みっぽんぽんさんの体験より)

介護の体験をブログに綴る、みっぽんぽんさん。
ご自身は手に障害を抱えながらもイラストレーターとして活躍しつつ、お父さんの介護と3児の子育てに向き合っています。

日々パワフルに、愛を持って向き合うみっぽんぽんさんですが…やはり、理想に追い付かない現実に苦しめられています。

みっぽんぽんさんのブログ

一人暮らし開始のじいさん、要求乱れ撃ち
(イラスト:みっぽんぽん さん)

みっぽんさんのお父さんは、つい先日まで施設に入居していました。
ところが、施設での介護を受けることに抵抗があるお父さん。

施設での生活そのものがストレスとなり、やむなく退所。
お父さん本人にとって、最もストレスが少ないであろう一人暮らしを始めます。

「一人暮らしを選んだのだから、精神的に自立してほしい」と望むみっぽんぽんさん。

一方、ヘルパーさんを拒みながらもみっぽんぽんさんに頼ってしまうお父さん。
そのすれ違いが、なんとも切ないです。

みっぽんぽんさんのTwitter

みっぽんぽんさんのブログ

「こうあるべき」という理想に苦しむ、介護者の姿(くろさきあさこさんの体験より)

Twitterでダブルケアについて4コマ漫画をまじえて発信している、くろさきあさこさん。
2児の男子とお舅さんのケア、加えて自身の活動にと、日々奔走しています。

母は一人なのに、のしかかる子の問題、義父の問題、家事、もろもろ…。
ただでさえやることが多い主婦にとって、小さなタスクが増えるのはとってもストレスになります!

一つ一つは小さなことでも、積み重なるとヘトヘトに…。

朝の支度して、洗濯して…
 「おなかすいた〜」
ご飯食べて、食べさせて…
 「くつしたがない〜」
お洗濯を干して、掃除…
 「あっ、お薬を忘れてた!」

こんなに頑張ってるのに…なんでうまくいかないの!?
自己嫌悪に陥り、落ち込んでしまうこともあります。

くろさきさんは、同じように悩みを抱える人たちに向けてメッセージを送っています。
「一人で悩まないで」
「一緒にお話しよう!」

くろさきさんの主催する「ダブルケアカフェ」を通じて、同じ悩みを持つ方が少しでも楽になると良いですね。

(イラスト:くろさきあさこ さん)

くろさきあさこさんのTwitter

大切にしたい、家族だから

育児と介護。
その対象は、大切な我が子であったり、かけがえのない親であったり、最愛の人の両親であったりするわけです。

だからがんばる。
がんばれるけど、苦しい。
思い通りにならないから、悔しい。
大切なのに…やりきれない。

育児に悩む人、介護に悩む人、両方に悩む人。
それぞれ抱える悩みは違っても、根底には家族への愛が溢れています。
愛しているからこそ、苦しい。
歯がゆい。
やるせない。

このような悩みを一人で抱えるのは苦しいものです。
どうか、周囲にヘルプを求めましょう。

パートナーに、しんどい想いを伝えましょう。
できないこともあるのだと、自分を許してあげましょう。
そして、育児や介護で頼れるサービスは積極的に利用しましょう。

また「今の自分には関係ない」と思った方も、家族のことで悩んでいる人が身近にいないか、考えてみてください。

長男、長女に親を丸投げしていませんか?
あなたのパートナーは、家事育児の一切を抱え込んでいませんか?
かわいい息子・娘は、家族関係で思いつめていませんか?

これは、ダブルケアに限った話ではありません。
家族という最小単位の人間社会で、苦しむ人は数多くいます。

誰にも話すことができないと、無意識に思い込んでいませんか?
あなたのパートナーに、あなたの親に、あなたの兄弟に、苦しみを打ち明けることができていますか?

悩みの渦中で一人にならない。

それが何よりも大事です。

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