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医療は平等と公平が混在

なかなか入院先が見つからない、入院ができずに療養施設や自宅療養をされている人がなかなか減らない状況が続きました。そのような中、政治家や有名芸能人の場合には、即時検査ののち、すぐ入院などというニュースが何度もありました。「一般国民」「上級国民」との指摘の再燃です。
また、ある特定の職業履歴がある場合にも「上級国民」と揶揄され、非難の対象になることもしばしば。

医療についての平等・公平

いま一度、整理しておきます。
●平等とは  全く等しいこと、等しくあること。
●公平とは  その人、状況からみて相応であること。

ですから、医療に関して言うなら、以下のようなことが平等、公平だと言えるでしょう。

【平等】
与えられている権利
・医療行為を受ける権利(病院で診察してもらう権利)

・緊急の場合に、救急車が無料で送り届けてくれる権利
(注)行為を受ける権利があるだけで、”どの病院も満床で入院できない”といった相手都合の場合あり。

【公平】
医療資源の配分がどの程度か
・機会(空いている病床がすぐに見つかるか、”偶然”も含む)
・治療の内容(最先端、病室の設備、処方箋)← 自由診療にあたる部分が多い

ほかにも、医療行為に関しては、個別性(特異性)を重視するのか、社会の視点(倫理観)を重視するのかなどの論点も”平等か公平か”に関わってきます。

著名人は”公平”に扱われる

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あとでも触れますが、治療設備・行為の評判、著名人(政治家や芸能人)とのコネクションも、医療機関にとって”経営の柱・重点”と言えるでしょう。また、所得格差による要因が大きい”診療内容”に関しては”自由診療”との名称で、さらに医療費がかかる、質の高い・専門性の高い治療を受けることが可能です。もちろん、最低限必要な治療行為は誰もが受けることができます。

●高所得者※:一般診療+自由診療
●それ以外:一般診療

※病状によっては、所得水準に関係なく自由診療を取り入れる必要があります。

このように私たちは、例えば著名人などと比較すると”公平”に医療を受けていることが分かります。そして
・病院の評判
・病院とのコネクション
・患者の所得格差
を意識しながら話を展開・解釈すれば「なぜあの人はすぐに入院できたのだろうか?」のような疑問は解消できます。

医療の質

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●どのような構造・環境において医療行為が行われるか。従事者の人数など。
●どのような過程で診察や治療が行われたか。どのような設備があるのか。
●医療行為の結果、どのようなアウトカムが得られたか。

いずれのステップも、医療を質を評価する上で大切な項目です。かつてはアウトカムのみを重視する医療機関が中心でしたが、現在では「プロセスが大切だ」との考え方が浸透し、プロセスとアウトカムを合わせて医療の質を評価するケースが多くなっています。

医療の効率性

日本の医療は、
●少資源で高い効果を
●資源の割り振り方(啓蒙活動・検査・治療)で結果(生存率・死亡率)が異なる場合には優先順位を
●技術の進歩、少子高齢化、経済の低迷がこれ以上進展すると限界に
といった観点から、更なる効率性が求められます。

効率性を考えるときの一つの指標が費用(価格)です。現在、医療機関の中には”病気の種類と診療内容”によって医療費がかかる仕組みを導入しているところもあり、容易に費用対効果などの算出ができるようになっています。

■功利主義そのものの倫理的妥当性
= 金持ち(評判や紹介)、有名人とのコネクション

・個人間の平等よりも優先する妥当性か。

・”功利主義”は結果の効用を重視。評判も効用か。

■帰結主義の倫理的妥当性
=政治家の特別枠、業界のトップの優先枠

・結果に基づく平等な資源配分。
・非帰結主義(障がい者などの”基本的潜在能力”)に基づいた配分
・”結果OK”かどうか、誰にとってOKなのか。

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ひと言で言うなら”結果主義”です。結果が良ければ全てヨシ!ですから、そのプロセスを重要視せずに、時に強引で差別とも言われかねない状況も起こり得ます。

著名人の扱いの”倫理的妥当性”

”結果の効用”からすると、治療成果のほかに、”病院名の認知度”、”医療技術・医師の腕などの評判”も、大切な要素でしょう。資産家や、有名人(事務所)とのコネクションも蔑ろ(ないがしろ)にできないのも当然です。

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さらに細かい部分では、”資源配分”をどうするかです。特定の人には”特別室”を用意したり、病名の公表方法について特別な配慮があるかも知れません。政治家や業界のトップなどが入院しやすい環境は、常に用意されていると考えて間違いありません。また、特別室自体は、常に”いつ誰が来ても対応できる”状態にしておくことも資源配分の考え方です。

医療の公平性

これまで触れた”平等や公平”以外にも、大切な論点がいくつもあります。例えば

■医療資源配分
多くの人、不公平感なく、快適(価値あるものを平等・公平に受ける権利あり)

■優先すべき人
特定の状況を”優先”することは平等と言えるのか、公平なのか

■医療行為の多寡
特別な人への医療行為に”適切な量・頻度”はあるのか

所得格差が大きい社会では、人々の”健康状態の悪化する”と言われています。健康的な社会とは、経済活動、景気動向だけでなく、人々の健康も大切な要因です。健康的な社会を実現するには、細かい仕組みを変えるのも大切ですが、社会的・経済的な格差の是正、”所得の再分配”といった経済構造、社会構造まで考える必要があります。

●ミクロな改革 医療・保健制度の工夫や改善
●マクロな改革 社会的・経済的な格差の是正

医療と倫理観

医療と公平・平等考えることのほかに、倫理観に基づいた”優先”という判断が必要な場面があります。そして、何かを優先することは「平等でなくなる」のか「公平であるか」の考え方がさまざまです。医療現場で、”優先するかしないか”を判断している事例は、以下の通りです。

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■重症度の高い疾病  
欧米では重視。これまで日本ではあまり考慮せず(何でも平等=悪平等)

■希少患者
社会的弱者は治療開発インセンティブ(誘因)がかかりにくい。

■亡くなる直前の人
費用対効果が低く、特別な配慮を行わないと精神的な負担、費用の負担。
【英国でのガイドライン】
①余命24ヶ月以内 ②3か月以上の延命効果 ③代替え治療がない ④患者数が少ない

■若年者
諸外国では合意があるが、日本では”差別”の考えになりがち。”現在の患者”とか”将来の患者”という世代間公平性にも。
”若い人への資源配分”が最優先、”高齢者以前の年齢層への資源配分”がその次、”高齢者への資源配分”は後回し。

■救助原則
大災害時などに”不特定・匿名の個人よりも特定の個人を優先する”という社会的傾向。”知らない人が多数”いても、”目の前の重篤な人”を優先。

医療システムの必要条件、十分条件

公平性を大切にすることは”誰も納得する医療”と言えます。
倫理観を大切にすると、不公平になったり差別意識が生じますが、”優先すること”自体は多くの人が理解できる内容です。

公平性や倫理観を大切にすると、効率性を犠牲にすることになります。
”効率性を大切にすることは悪”なのかを考えると必ずしも公平性や倫理観を欠くわけではありません。

医療システムは、”効率性”が必要条件、”公平性”や”倫理観”が十分条件と言えそうです。

◯ 効率性を重視 → 公平性や倫理観を欠くわけではない
× 公平性や倫理観を重視 → 効率性が犠牲となる

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