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【地方紹介13】ロワール地方

 <地方データ>
■【francerでの地方名呼称】:ロワール地方
■【旧地方圏区分/地方庁所在地】:
ペイ・ドゥ・ラ・ロワール地方(Pays de la Loire)/ナント(Nantes)
ソントル地方(Centre)/オルレアン(Orléans)
■【現地方圏区分/地方庁所在地】:
ペイ・ドゥ・ラ・ロワール地方(Pays de la Loire)/ナント(Nantes)
ソントル・ヴァル・ドゥ・ロワール地方(Centre Val de Loire)/オルレアン(Orléans)
 
■【旧地方圏区分における所属県と県庁所在地】
●ロワール・アトランティック県(Loire-Atlantique /44)県庁所在地:ナント(Nantes)
●メーヌ・エ・ロワール県(Maine-et-Loire /49)県庁所在地:アンジェ(Angers)
●マイエンヌ県(Mayenne /53)県庁所在地:ラヴァル(Laval)
●サルス県(Sarthe /72)県庁所在地:ル・マン(Le Mans)
●ヴォンデ県(Vendée/85)県庁所在地:ラ・ロッシュ・シュル・ヨン(La Roche-sur-Yon)
 
●シェール県(Cher /18)県庁所在地:ブールジュ(Bourges)
●ウール・エ・ロワール県(Eure-et-Loir/28)県庁所在地:シャルトル(Chartres)
●アンドル県(Indre /36)県庁所在地:シャトールー(Châteauroux)
●アンドル・エ・ロワールサルス県(Indre-et-Loire /37)県庁所在地:トゥール(Tours)
●ロワ・エ・シェール県(Loi-et-Cher /41)県庁所在地:ブロワ(Blois)
●ロワレ県(Loiret /45)県庁所在地:オルレアン(Orléans)
 
※一般的にロワール地方と呼ばれる地域は、行政区分では、2つの地方に分かれています。francerでは、上記2つの地方を合わせて、ロワール地方と定めています。

 
★地方概要★
 
ロワール地方の名は、地方を流れる大河ロワール河から取られています。その長さはフランス最長を誇り、1000kmを越える流れのロワール河。南フランスのアルデーシュ山地に水源を持ち、フランスの中央へ向かって北上、その後、西側へ進路を変え、ロワール地方の西で大西洋に注ぎ込む、フランスを代表する大河であります。その流域は、古くから王侯貴族が移り住み、狩猟の場であったことから“フランスの庭”と呼ばれ、多くの古城が点在しています。大河と古城の風景は、ロワールの象徴とも言えるでしょう。

ロワール地方を代表するシュノンソー城は、ロワール河の支流シェール川に架かる美しい城

この地域に城が多く築かれたのは、ルネッサンス期の前に、このあたりに広大な領土を持っていたアンジュー伯家が、領土防衛のために多数の要塞城を建てていたことに起因します。その後、長きにわたる英仏の戦いの後、フランス王家がこの地域を手に入れることとなり王侯貴族はこぞってこの地方に城を築城します。王家は城に宮廷を置くこともありました。ロワール地方は大西洋からの温かい気流が入ってくるため、パリと比べても少々温暖であり、広大な森が多く狩猟も容易に楽しめるという利点があったため、フランス王たちは生活の場としてパリの王宮よりもロワール各地の城に滞在するようになります。貴族たちも王に従い、規模は大きくないとしても、美しい城館をこの地方に多く造る様になりました。この時代の古城はその後様々な歴史を辿っていきますが、現在でも100以上は残っており、一部は観光名所として、またはシャトー・ホテルとして、そして、城によっては廃墟となってしまった城もありますが、当時の古城が数多く残っています。
 
しかし、一般的にロワールといえば古城ばかりが取り上げられますが、ロワール河の支流沿いには美しい村々が多数点在しています。これらを含めて、フランスの庭、ロワール地方の魅力と言えるでしょう。ロワール地方は中世からルネッサンスへの華麗な古城がひしめき、ゆったりと大河ロワールが流れ、その支流沿いには涼やかな美しい田舎の村が点在している。水と緑に囲まれたフランスらしい風景が見られる美しい地方と言えるでしょう。最近では、「フランスの美しい村」も注目を浴びてきましたが、北フランスを見てみると、ロワール河支流に比較的多くの美しい村が点在していることに気がつきます。

ル・ロワール川沿いに佇む美しい村、ラヴァルダン

そしてもう一つ注目したいのが城下町です。ロワール地方の街はやはりロワール河沿いに大きな町が作られてきました。例をあげればトゥール、アンボワーズ、ブロワなどです。実はこれらの街々は必然的に発展したのです。今でこそ自然とロワール河の対岸から橋を渡って対岸へ渡っていますが、当時は川幅の広いロワール河に橋を架けるのは大変でした。そのため、橋がかけられるのは重要な街の近くに掛けられ、それがトゥール、アンボワーズ、ブロワだったのです。トゥールは古くからロワールの宗教的な中心地であり、アンボワーズやブロワはルネッサンス期以降フランス王が住んだために発展しました。橋があるがゆえに、商工業も発展し、街には人、モノ、金が集まる様になり、お城を中心に街が発展していきます。ブロワやアンボワーズはまさに城下町という雰囲気がよく残っている旧市街がありますので、古城見学だけではなく、そんな旧市街をじっくりと歩いてみてもロワール地方の魅力を感じていただけるでしょう。

城の周りに広がる城下町も魅力的なアンボワーズ

★町や村★
 
ロワール地方は、日本でも知名度の高い地方ですが、実は行政区分で見る場合「ロワール地方」というのは、実際には存在しません。西のペイ・ドゥ・ラ・ロワール地方と、その東にあるソントル(ソントル・ヴァル・ドゥ・ロワール)地方を総称して呼ぶ呼び方で、名前の通り、この2つの地方をフランスでもっとも長い川、ロワール河が流れています。やはり、フランスの北部の町ですので、全体的に平らで平地が続いていますが、ノルマンディーや、ブルターニュの町と比べると、車窓からの景色が違うことに気がつきます。そう、この地方は、緑が多く、森が非常に多いのです。
 
西のペイ・ドゥ・ラ・ロワール地方の中心にあたるのが、西部にあるナントです。それもそのはず、ブルターニュ公国がフランスに組み込まれるまでは、この町はブルターニュ公国の首都だった町でした。今でも町の真ん中には、ブルターニュ大公の城が残っています。そのため、歴史的にみるとこの町はブルターニュ地方の中心であった町なのですが、現在ではロワール地方の街となっています。中世から続く古都で、現在でも中心的な街ですので、空港もあり、TGVでパリともつながっています。
 
もう一つ、大きくはないですが、歴史のある町としてアンジェがあります。町の中心にアンジェ城が建っていますが、中世には非常に大きな勢力を持ち、今のフランス南東部プロヴァンス地方から、イタリアのナポリまで勢力を伸ばしていた権力をもった町でした。現在では、美しいルネッサンス古城が多いロワール地方ですが、アンジェのお城は、完全な中世の要塞建築が残っていて、他のお城と比べてみても雰囲気が全く違うことがわかります。城内にある「ヨハネの黙示録のタペストリー」で知られています。

要塞風の外壁が印象的なアンジェ城

東のソントル(ソントル・ヴァル・ドゥ・ロワール)地方では、百年戦争の舞台として名高いオルレアンや世界遺産の大聖堂を有するブールジュがあります。しかし、ロワール地方の中心地といった場合は、やはりトゥールの町が思い起こされます。町としては中規模都市ではありますが、町にはロワール河が流れ、西へも東へもアクセスのよい交通の要所です。パリからのアクセスもよいですし、古城巡りの際にも便利な拠点となるでしょう。近郊には美しいルネッサンス古城を有する、アンボワーズやシュノンソーがあります。

美しい街並みが残るトゥールは、まさに「フランスの庭」という表現にピッタリの街

★名産品と郷土料理★
 
ロワールは名産品と言われるとなかなか思い浮かぶような有名なものは少ないかもしれませんが、もちろんワインは作られており、その他ロワール河の恩恵を受けた名産品があります。食事では、やはりロワール河で取れるものとなり、淡水魚、川魚が料理でもよく出てきます。カワカマスの白ワインソースであったり、ウナギのマトロート(赤ワイン煮)などが比較的知られています。春には、アスパラガスも有名な地域です。
 
そして、ロワールワイン。ロワール河沿いに広がるロワール地方のワイン産地は、西から東に大きく4つに分かれ、使われるブドウ品種も地域によって変わってきます。西はナント近くで作られるミュスカデ、トゥール近郊では、白はシュナン・ブラン、赤はカベルネ・フランを使ったワイン、東のソントル・ニヴェルネ地区ではソーヴィニヨン・ブランなどが主に使われています。赤で有名なのはシノン、白はミュスカデ・セーブル・エ・メールの辛口、サンセールの辛口、また、ヴーヴレという甘口から辛口、発泡とバラエティに富むワインが生産されます。ブドウの品種も多岐にわたりますので、同じ地方のワインで飲み比べをするのも、一興です。

比較的リーズナブルなロワールワイン

西部には有名な塩の産地、ゲランドがあります。フランスで最も有名な塩といっても過言ではないゲランドの塩。太陽と風の力、粘土の地層を活かした構造を持つこの塩田で 9世紀以来、機械をほとんど使わない伝統的手法を用い、塩職人の手により生産されます。自然環境を最大限に活かしたこの製法で作られる「ゲランドの塩」は、現在ではスーパーなどでも販売されるようになりましたが、料理人からは一目置かれる一味違う塩として有名です。ちなみにゲランドの塩はブルターニュ地方というイメージがあるかもしれませんが、ゲランドの町そのものはロワール地方(ペイ・ドゥ・ラ・ロワール地方)にあります。

 
ロワール地方でも、もちろんチーズは作られていますが、この地方のチーズは、山羊乳のチーズが有名です。

主にトゥール近郊のトゥーレーヌ地区で作られるチーズ、サント・モール(Sainte Maure)は、全国的にも知名度のある山羊乳チーズです。表面に、木炭をまぶした円筒形のチーズはサント・モール・ド・トゥーレーヌと呼ばれ、表面が白カビタイプのものが、サント・モールと呼ばれます。おだやかな山羊乳の風味があり、爽やかなロワール地方の白ワインと併せて食したいチーズです。
 
四角錐の上を切り落としたような形状が特徴的な山羊乳のチーズが、ヴァランセ(Valançay)。表面には灰をまぶしてあり、この効果によって、山羊乳チーズ独特の酸味を和らげています。この独特の形には逸話があり、もともとヴァンラセは、四角錐の形をしていましたが、エジプト遠征にに失敗したナポレオンの怒りを買い、上部を切り落とされて今の形になったのだとか。熟成が進むと表面は黒からグレーに変化していき、水分が抜け硬くなります。

独特な形状の山羊乳チーズ、ヴァランセ

ロワール東部、サンセール近郊で作られる山羊乳のチーズは、クロタン・ド・シャヴィニョル(Crottin de Chavignol)。玉のような形をした小さなチーズで、表面は白い粉をうっすら纏い、所々カビに覆われています。セミハードまでいかない程よい硬さですが、熟成すると表面のカビに水分が奪われ、より硬くなります。爽やかな山羊乳チーズなので、サンセール産のソーヴィニョン・ブランとともに食べるもの良いですし、焼いたりして熱を通して食べることもあります。

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