見出し画像

【地方紹介15】ミディ・ピレネー地

<地方データ>
■【francerでの地方名呼称】:ミディ・ピレネー地方
■【旧地方圏区分/地方庁所在地】:
ミディ・ピレネー地方(Midi-Pyrénées)/トゥールーズ(Toulouse)
■【現地方圏区分/地方庁所在地】
オクシタニー地方(Occitanie)/トゥールーズ(Toulouse)
■【旧地方圏区分における所属県と県庁所在地】
●アリエージュ県(Ariège /09)県庁所在地:フォア(Foix)
●アヴェイロン県(Aveyron /12)県庁所在地:ロデズ(Rodez)
●ジェール県(Gers /32)県庁所在地:オーシュ(Auch)
●オート・ガロンヌ県(Haute-Garonne /31)県庁所在地:トゥールーズ(Toulouse)
●オート・ピレネー県(Hautes-Pyrénées /65)県庁所在地:タルブ(Tarbes)
●ロット県(Lot /46)県庁所在地:カオール(Cahors)
●タルン県(Tarn /81)県庁所在地:アルビ(Albi)
●タルン・エ・ガロンヌ県(Tarn-et-Garonne /82)県庁所在地:モントーバン(Montauban)

★地方概要★

フランスの田舎、この言葉がもっとも似合うと思うのが、ミディ・ピレネー地方です。大都市であるトゥールーズ、そしてここから延びる高速道路沿いの町を除けば、どれもこれも、小さく美しい村ばかり。中世の街並みを今に残す村のみが加盟できる「フランスの美しい村」協会に加盟している村を見ても、その1/3は、このミディ・ピレネー地方に集約されているほどです。中世そのままの教会や、数百年前の姿をまったく変えず、今に残る教会が残っている町も多く、どこを訪ねるのか迷ってしまいます。ヨーロッパファンの方には、是非一度訪ねていただきたい場所です。「フランスの魅力は地方にこそあり」とはいえ、地方にも魅力的な村が多数あり、観光客が世界中から来て観光地化されているのは否定できません。しかし、本当に田舎らしい田舎。電車も通っておらず、地元の人たちだけが使う一日数本の路線バスしか通っていないフランスの田舎というのも多数残っています。そういった村が一番残っているのが、このミディ・ピレネー地方です。

特に旧地方名でもあるケルシーと呼ばれる一帯は、中央山塊からドルドーニュ川が流れ、その流域にある小さな村々の美しさは格別です。西にアキテーヌ地方、東にラングドック・ルシヨン地方、そして南端はスペインとの国境、ピレネー山脈が横に広がります。また世界遺産にも登録されている巡礼路、サンチャゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路がありますが、これはフランスの各都市から出発するもので、全部で4つの道があります。しかし、最終的にはスペインのサンティアゴにいくので、結果的にこのミディ・ピレネー地方を通ります。そのため、このミディ・ピレネー地方には、村の規模と会わないような素晴らしい教会がいくつも建てられています。有名なものに、コンク、モワサックなどがあります。

山間の美しい村、コンク

また、もう一つ、巡礼地として有名な村に、ルルドがあります。ここは、近代になってからですが、ベルナデッタという少女が、村の泉が湧く洞窟で、聖母マリア様に出会い、その後、数々の奇跡が起こったことから、ヴァチカンが認める世界3大奇跡の地としても非常に有名です(他の2つは、ポルトガルのファティマと、メキシコのグアダルーペ)。現在でも、世界中のキリスト教徒は、この地へ来ればマリア様の力で、不治の病が治ると信じて、やってきます。近年は特に注目されているデスティネーション、ミディ・ピレネー地方。裏を返せば、アクセス難の村も多いのですが、その分訪ねたときの感動はひとしおでしょう。

★町や村★

ミディ・ピレネー地方は、トゥールーズを中心に交通網が整備されています。比較的大きなアルビ、ロデズ、カオールなどに列車路線が伸びています。

トゥールーズは現在、フランスで6番目の人口密集都市で、様々な地方からの影響を受け、それらが集中する位置にありました。ロラゲ峠からは地中海の、ガロンヌ川流域からは大西洋の、中央ピレネー山脈から下ってくる峡谷からはスペインの影響を受けてきました。したがって、ガロ=ロマン時代以来、様々な民族が行きかう街道の宿駅でした。 9世紀から13世紀にかけて商業で繁栄しましたが、13世紀のアルビジョワ十字軍の動乱で壊滅的な打撃をうけ、カペー王朝の王たちは、ラングドック地方まで権力を拡大する好機を得ました。 とはいえ、14世紀には、各種アカデミーの頂点にたち、「花ゲーム(jeux floraux)」と呼ばれる文学コンクール、また16世紀には藍染料が流行したおかげで、トゥールーズの栄光は保たれました。 トゥールーズは中世初期からフランス有数の芸術の中心地でした。しかし、その頃の姿を今にとどめるものは、サン=セルナン聖堂とアウグスティヌス美術館にあるロマネスク様式の彫刻だけです。 当時、トゥールーズは飛躍的な経済発展を遂げ、町を拡大したため建築を指揮するものたちには素材不足という問題が生じました。一番近くにある採石場が町から80kmも離れていたのです。そこで使ったのが、ガロンヌ川でとれる粘土を使ってつくったレンガでした。頑丈で安価なこの素材は、使いやすい反面、装飾的には優美なものではありませんでした。しかし、それは街中に影響力を持っていた托鉢修道会の要求する質素さに自然な威厳を加味することになりました。現在では、レンガ造りの建物が美しく、トゥールーズはバラ色の町と呼ばれています。

トゥールーズの中心、キャピトール広場

 アルビの町の家、橋、建築物はすべてタルン川流域で取れる粘土を原料として作られました。13世紀、アルビはキリスト教の異端とされるカタリ派の教義の信者を迎え入れた最初の町でした。そのため、カタリ派はアルビジョワ派と呼ばれることになりました。カタリ派に対する十字軍は、信仰の教義の面では聖ドミニクによって行われましたが、現実にはフランス北部と東部から派遣された軍隊によって実行され、この辺りでは恐ろしい殺戮が行われました。1208年~1229年まで続く、この戦争によってカペー王朝はラングドック地方へ勢力を延ばすことになりました。そのような暗い歴史をもつ町ですが、現在ではレンガで作られた美しい旧市街が残り、芸術性の高いサント・セシル大聖堂を中心に発展し、近年、ユネスコの世界遺産に登録されました。また、パリのモンマルトルで活躍した画家ロートレックの生地としても知られ、ロートレック美術館のコレクションには定評があります。

タルン川沿いに美しい街が広がるアルビ

カオールは、ロット川が硬い石灰岩台地に行く手を阻まれ、U字型に多く蛇行したところに築かれた町で、3方をロット川に囲まれ、まるで川中島にあるようです。町のシンボルである3つの高い塔と、堅牢な門を備えたヴァラントレ橋は町の西側にあり、外敵の侵入を防ぐための要塞で、フランス南西部にあるこの種の橋では、最大規模のものです。作られたのは、カオールが商業都市として発展した14世紀で、カオール出身のローマ教皇、アヴィニョン法王庁の2代目の法王、ヨハネス22世の時代でした。カオールは、すでに紀元前1世紀にローマの植民市となり、ガロ・ロマン時代の公衆浴場や劇場跡が残れています。3世紀にキリスト教がもたらされ、5世紀~9世紀にかけて、フン族、イスラム、ノルマン人など異民族の侵入を断続的に受けましたが、7世紀に司教座が置かれてから、町は発展しました。また、中世にはサンチャゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路として、巡礼者を集めた町でもあり、サン・テティエンヌ大聖堂には、そのころの名残が見られます。現在では、カオールワインの産地として有名になりました。

カオールのヴァラントレ橋

ピレネーの麓にある町ルルド。ルルドは、ローマ・カトリック教会によって定められたキリスト教の奇跡が起きた地の一つです。世界でたった3つしかありません。フランスのルルド、ポルトガルのファティマ、そして、メキシコのグアドルーペです。幼い少女ベルナデットが、聖母マリアに出会ったということから、その少女がマリアを見た洞窟に信仰が集まった村町です。洞窟には奇跡の泉が湧いていて、その水を飲んで、不治の病が治ったという症例がいくつも出ています。そのため、多数のホテルが建てられ、ヨーロッパはもちろん、世界中のキリスト教信者が訪れる聖地です。その奇跡が起きたときのマリアのお告げによって、ルルドには素晴らしい教会が建てられ、今では7カ国語でのミサ、そして場合によってはさらに多くの言葉によるミサがあげられています。春から秋にかけては、毎夜ロウソク行列とミサが行われ、その光景を見れば、この地が本当に聖地だということを感じられます。

聖地ルルドで行われるろうそく行列

 ★名産品と郷土料理★

ガロンヌ川流域とさらに下がったガスコーニュ地方は、大河川の運ぶ肥沃な土壌と、大西洋、中央山塊、ピレネー山脈の懐に抱かれた素晴らしく食べ物の美味しい地方でもあります。南西部は典型的な大西洋気候に属し、冬暖かく、湿潤な割には夏も涼しい。現在でも農業人口が半数以上という土地柄も手伝い、フランス人にノスタルジーを感じさせる地方です。ミディ・ピレネー地方には、フォワグラとトリュフの大生産地、ペリゴールとガスコーニュがあります。フォワグラを取るガチョウや鴨は他の七面鳥や鶏に比べれば貧しい肥料で事足りる点が幸いし、その飼育が盛んに行われています。この一帯のガチョウや鴨の飼育法は今も昔も大差ありません。とうもろこしや小麦、粟を与え、4~5ヶ月野放しに飼われたガチョウや鴨は以降、強制飼育に入り、最終的には一日1kg以上ものとうもろこしを詰め込まれ、肝臓は肥大し、フォワグラ収穫期の冬場には丸々と太らされます。

名産のフォワグラ

トリュフはというと、20世紀末の高度に発達した科学を駆使してもなお、トリュフ生成のなぞを明かすことができないと言うから、希少価値の点でも、フランス食材で右に出るものはいないと言えます。ペリゴール地方のカシの木のある野原に、寒空の下トリュフを探す豚がいる光景は今でも見ることができます(昔は豚だったが、今は犬を使用してトリュフ探しをする)日本人のわれわれにとってはマツタケのようなものだと思うと想像しやすいでしょう。

また、もう一つの名産が、高級青カビチーズとして有名なロックフォール。ロックフォールも村の名前ですが、凝縮した羊の乳に青カビを植え付け、湿気のある暗いセラーで塾生させて作ります。塩気のある独特の風味とコクがあるチーズで、口に入れたときの力強い味わいは、他のチーズでは出せないと言われます。あまりに口当たりが強く、クセが強いので、日本人の方だと、はじめはダメだという人も多いですが、この味わいが気に入ってしまうとクセになってしまうチーズです。

フランスを代表するブルーチーズ、ロックフォール

 お酒では、エレガントな高級ブランデーとして知られているアルマニャックもこの地方、ガスコーニュ地方の山岳地帯で作られています。すばらしい香り、口当たりのよさ、野性味ある辛口、コニャックが女性的と言われるのに対し、アルマニャックは男性的なブランデーと例えられます。ブランデーは、フランス語で「オー・ド・ヴィー」つまり、生命の水と呼ばれます。現在では優雅な時間を演出する美酒として人気がありますが、古くは治療薬として飲まれていました。14世紀のヴァチカンの文書によると、「節度をもって飲めば、40の効能を持つ」とされています。理解力を研ぎ澄まし、記憶力を抑止、若さを保ち、喜びを与えるとされています。また、サンチャゴ・デ・コンポステーラへの巡礼者に振舞われていました。17世紀には、北欧で人気がでて、世界中に広まりました。

高級ブランデー、アルマニャック

アルマニャックは、ユニ・ブランという酸味のある白ブドウから作られます。ユニ・ブランは他のブドウよりも熟す時期が遅いため10月の中旬に収穫され、収穫されたブドウは、アランビックと呼ばれる蒸留器ですぐに蒸留されます。蒸留は1度だけ、化学薬品は一切使用しません。ゆっくりと時間をかけて蒸留することで、よいアルマニャックを作ることにつながります。蒸留されたものは無色で、白アルマニャックと呼ばれ、52~72%のアルコール分を含んでいます。これが樫の樽に詰められて、最低6年という長い年月をかけて熟成し、コルク色の液体に変わっていきます。そして最後に数種類のより古いアルマニャックとブレンドし、蒸留水で、アルコール度を40%前後に調整し、ビン詰めされて出荷されます。ワインのように、その年に出来たものではありませんから、さまざまな年代のアルマニャックを管理し続けなければなりません。作り手は伝統的な製法を守り、時間をかけた結果、上質のアルマニャックが出来上がります。

消化を助ける効果があるアルマニャックは食後の余韻を楽しむために飲まれることが多いです。ジュースで割って、食前酒として飲まれることもあります。ガスコーニュ地方では、アルマニャックでフランベした肉料理や、アルマニャックで風味づけしたデザートもあります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?