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CORNER SHOP SESSIONS 出演アーティスト紹介(1)加藤伎乃



加藤伎乃。俺は彼女の生演奏をたった一回観ただけだが、それだけでも圧倒された。好きだの嫌いだのを超えた、驚き。たまらず出演を依頼した次第だ。

加藤をそこらのSSWと一緒にしてはダメだと言いたい。日本におけるSSWの評価はは、さだまさしや井上陽水に代表される、歌詞の世界を味わい、物語を読み聞かされるものが今もって基準になっている。いきおい、さだや井上の佇まいは、物語をいかに上手く、ムードを持って伝えるかという、琵琶法師の佇まいであり、語り部としてのそれである。

だが、彼女は違う。加藤が歌う時、歌とは、彼女自身が今思い、体験している気分そのものであると、聞くものが信じざるを得ない。歌詞にではない。佇まいにである。だから諸兄は、歌詞のみを聞きに行ってはならない。加藤は、その身体そのものが、歌と言っていい。ロック用語で言うところの「身体性」とは、彼女のためにある。

では、彼女の表現する、加藤自身とは何か。それはおそらく、愛を渇望する人と、俺は夢想する。溢れる愛がある。ただそれをまともに受け止めてくれる人がいない。彼女の歌は終始、その不満を歌っている気がする。それは、剥き身のままだとただ痛いだけだが、恐るべき歌唱力と、本心を寸手のところで食い止める自制心で、凡百のSSWから圧倒的に逸脱している。俺は唐突に、エイミー・ワインハウスを想起する。

ビシッと真っ直ぐ見据える視線。最後の、深々としたお辞儀。真面目で、聡明で、微かに脆い。好き嫌いは分かれるであろう。だが、この加藤伎乃の、嘘のないステージは、生きづらい人間というもののペーソスを、たっぷり教えてくれるはずだ。

観終わって「これは私だ」と思わせてくれる、数少ないアーティストである。

THE CORNER SHOP SESSIONS vol.1
3/16(土曜日)
午後6時開演。
お店自体は午後3時から開いていますので、開演以前からいらっしゃっても大丈夫です。
出演者
→(yajirushi)
加藤伎乃
The Memphis Bell
各40分くらいのギグです。宜しければ、投げ銭を!
入場無料。ただし、飲食店ですので、何か一品は必ず頼んでください。

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