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ドヤラーの黄昏【オンガク猫団コラムvol.27】

創業40年越えの喫茶店に行った。タバコの精霊が宿っているような、煤けた純喫茶だ。以前からずっと気になっていたのだが、カフェブームのせいか、いつも混んでいて入れなかった。昨日、エアポケットのような客のいない時間に、ワイフと一緒に運よくフラリと入店することができた。東京は昨日満開宣言が出たので、多くの人は、コーヒーよりも桜に関心が寄っていたせいかも知れないな。

純喫茶といえば、何故かヨーロッパ中世騎士道世界観系(西洋派)と仕舞屋とか茅葺屋根の古民家(日本派)の2系統ある気がする。西洋派は、印象として恐ろしくタバコで煙いイメージで、日本派の店に好んで訪れるのは、サブカル臭を芬々とさせたやや無粋な人が多い印象があるけど、多分オイラの気のせいだろう。

どちらかといえば、オイラは上記日本派の喫茶店が好きである。正直なところどっちも好きなのだけど、西洋派の煙たさが少々難点だ。両派の店に共通してありそうなものといえば何だろう。パッと思いついたものを挙げてみよう。

●本
神田の古本街でも見かけないような、ひときわタバコのヤニで燻された本の数々。ゴルゴ13、楳図かずお、水木しげるといった80年代のコミックス群だ。不思議と手塚治虫の本は見当たらない。それから別冊太陽とマイナーな画家の画録。

●インテリア
金魚鉢ガラスのペンダント照明、伊万里焼きのコーヒーカップ、セピア調の古い写真。ステンドグラスのワンポイント照明。骨董のだるま時計。ガラスのケーキドーム。店のマッチとかコースターの入った猫瓶。床は板の間。立派なテーブルのわりに、古過ぎて建てつけが悪くてキコキコ鳴る木製の椅子。いつの時代のものか分からないJBLのスピーカー。

   *  *  *

看板猫がいるお店もあるね。今、しみじみ思ったのだけど、この手のお店が好きなのは、子供時代に慣れ親しんだ、駄菓子屋の郷愁となんか似ている気がする。

最近カフェがどうしてこうも人気なのか、ずっと疑問に思っていた。自分の家をカフェ風にカスタマイズすれば、安上がりだし、出かける必要なんてないじゃんか、と。おそらく、カフェに来たがる人たちは、周りに人がいるとなんとなく安心するからなんじゃないだろうか。

3.11の時、一人暮らしの人が家に独りぼっちでいることが耐えられなくなって、帰宅困難者のために解放された近くの小・中学校にいって夜を明かした、という話がある。案外、ドヤラーというスタバでマックをいじっている人たちは、カッコつけることよりも、淋しい気持ちが勝ってるんじゃないかなあ、なんてことを昨日純喫茶で考えた。

オンガク猫団(挿絵:髙田 ナッツ)

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