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Daydream trips

虚無的な日々を送っているものの、時おりいいなあと思わせる観光地が幾つかある。しかし諸事情によりその地をすべて訪れる事はできない。今回は私の心惹かれるクリエイター丸岡ジョーさんによる美麗な旅の写真をご紹介しつつ、その作品から受けたインスピレーションを頼りに自分がどう過ごしたいかを空想旅日記として書き連ねてみたい。


富山県高岡市 
富山というと、巨大ダムや連峰のスペクタクルな魅力が人気の的なのかなと思うが、まず高岡市万葉歴史館を訪ねたい。そのまま観光などはせずに、少しのお菓子とお茶を買い、宿に戻る。元来人混みが苦手な自分は畳でごろごろしながら大伴家持や詠み人知らずの歌に触れ万葉の風土を追体験するほうが愉しい。翌日は気まぐれに外に出て、トラムに乗り込みのんびりと車中より街を眺めるのも良いかも。万葉線高岡軌道線なら高岡駅前停留場で降りて、富山ならではの美食も堪能したい気がするけど、戻ったらやっぱり宿の畳でごろごろしてしまうのが一番の愉しみになる。

丸岡さんの写真には花園へトリップするかの如き魔力がある。でもそれで良い。それが良い。

福岡県太宰府市
新元号「令和」の由来の地と万民に知られてからというもの、よりいっそう人気は高まっていると思う。大伴家持の父旅人、菅原道真の両名が時代は違えどこの地に赴任していた故事もあり、ぜひとも梅花の季節には天満宮に詣でたい。なお福岡グルメは詳しくないながらも山海の珍味が期待できそうで楽しみ。
帰りは門司から下関までのわずか600メートルを汽船で。子午線の采配か潮の変化がもたらす源平の運命の転回。満珠島と干珠島をとりまく海流の中、平家の最期が偲ばれる。

大伴旅人・家持父子、菅原道真、源平の合戦に思いを馳せてきたが、もともと日本古代史において聖徳太子への興味を深めていた。この際、飛鳥時代までトリップしてみたい。

奈良県

奈良、明日香村へ。
この地は高松塚をはじめ、石舞台、キトラ、マルコ山など数々の古墳で知られる。飛鳥駅付近にはレンタサイクルの利用ができるそうで、自転車をこぎながらひとつひとつ古代の都の跡を辿るのも楽しいだろうし、学びになる。さらに太子ゆかりの飛鳥寺にも足を延ばしてみれば、多くの観光客に揉まれつつも釈迦如来像を拝むに違いない。なお余力があれば橿原神宮にも詣でたいところだが、次の目的地である斑鳩に向かおう。
斑鳩の里に到着したら、日の暮れぬうちに法隆寺エリアでカフェかオーベルジュでゆっくりしたい。古刹巡りは明日にしようと思うのだ。

翌日、午前中に法隆寺へ。夢殿の救世観世音菩薩を拝観。モデルが聖徳太子であるという言い伝えも相まって厳粛な気持ちになるかと思ったら、意外にも救世観音の相貌がオープンマインドなのである。肉感的なそれでいて性別を超えた美とパワーにこちらの心が清々しくまた軽やかにもなる。とても不思議な感覚だった。
午後は中宮寺。菩薩半跏思惟像のアルカイックスマイルが優美だ。片足を組む独特のポーズは京都広隆寺の弥勒菩薩でも知られる。悠久の時を経てなおこのフォルムを保ち続ける国宝をただ眺めているだけで終わってしまった。法隆寺エリアを出ると奈良市街地へ急がねばならない。
二つの菩薩像の面影は忘れ難く、飛鳥時代から千年超の時間の果てなさを感じると同時に、人はやはり未来に生きてゆくものなのだと先人たちに諭された気がした。