ボカロPをやめた話

2017年7月から2018年12月まで1年半、ニコニコ動画でボカロPをやっていました。

詳しくない方のために補足すると、ボカロPとは初音ミクをはじめとする音声合成ソフトウェアを使って、ボーカロイドが歌うオリジナル曲をネット上などで発表する生き物のことです。最近はボーカロイドのライブラリやDAW(パソコン上で打ち込みや録音編集で音楽が作れるソフト、ボーカル以外のパートはこれで作ります)が非常に発達しており、そこそこの投資とそこそこの努力をすれば誰でもボカロPになれます。

ボカロPの数は50,000人以上と言われ(今の僕のように非アクティブなボカロPを含んだ数だと思いますが)、実際、ボカロP活動をしていた期間にはtwitterやブログなどで「ボカロPはじめました」宣言を見ることはよくありましたが、やめることについて長々と言及している文章を見たことはあんまりなかった気がします。

そらまあ、星の数ほどいる底辺ボカロPの1人が趣味の活動をやめる話なんて別に面白くもないし、ためにもならないですものね。

と思いつつも、自分用の記録文章としてここに残しておくことにしました。

素人と思えぬクオリティの高さと、プロとの棲み分け

50,000人?のボカロPのレベルはピンキリで、動画のミリオン再生を出すような有名ボカロPまで行かなくとも、アマチュアの趣味の活動にしてはクオリティが高すぎると思う作品に出会うこともしばしばでした。

昨今のボカロのライブラリや各種のデジタル音源・プラグインの性能の向上の恩恵も大きいですし、ボカロ人気が高まったことでボカロP人口が増えて、競争が発生して全体のレベルを引き上げてきたのだと思います。

熱心に活動をしている方の中にはプロと遜色ない(と僕には思える)技術を持っている方もいて、個人の好みによっては「プロの商業音楽よりニコ動のボカロ曲のほうが好き」という一般人がいるのも納得します。

決してプロを舐めているわけではなくて、プロは短期間でクライアントが求める一定以上のクオリティの作品を確実に仕上げなくてはならないので、個人が好きなだけこだわって作れるアマチュア作品というのは、それだけ品質面ではアドバンテージがあります。プロのほうは音楽技術にくわえて、コンスタントに仕事として音楽作品を仕上げられる几帳面さやセルフマネジメント力、オーダーに応えられる柔軟さ、などがないと成り立たないということも想像がついてきて、自分が創作活動を始める前よりむしろ敬意を抱くようになりました。

再生数、承認欲求、広告

と、ハイレベルなアマチュアもネット界にはたくさん存在するわけですが、僕はそんなレベルからははるか遠いところにいますし、大部分のボカロPは似たり寄ったりです。

具体的にはどんなもんかというと、客観的な指標で言うと再生数で計測するしかないのですが(マイリスト数とかランキングとか他にもありますが、ニコ動ヘビーユーザー以外にもなんとなく伝わる数字ということで)、僕の場合は1年半やって2,000再生とかそんなもんでした。

その数字が多いか少ないかはどうでも良くて、この再生数という「客観的な指標」がなかなかくせものなんですよね。

ほとんどの人は、わざわざネットで発表して人の目に晒すからには、より評価され、より多く再生された方が嬉しいと考えます。また、できることなら周りに山ほどいるボカロPより高い評価を得たいとも考えます。いわゆる承認欲求の1つの形ですね。

ですが、当然ながら作品の評価と「再生数」はきれいに比例するわけではありません。どんなに素晴らしい作品でも、供給過多のアマチュア作品群の中で無名のネット新人が発表した曲など、そもそもほとんどの人の耳に触れるきっかけすらなく、あっけなく埋もれるのが普通でしょう。

そこで多くのボカロPは「営業活動」をします。具体的にはSNSアカウントで同じようなボカロPを見つけて相互フォローし、お互いの作品を拡散(シェア)する紳士協定?を結んだり、ニコニコ動画の仕組みとして提供されている「広告」の制度を使ってオススメ作品として表示されやすくしたりとか。リアルの商業活動でも同じような類のことは必要ですね。

人によってはこの「営業活動」を過剰にしてしまい、SNS活動に精を出しすぎて疲れるという不毛な状況に陥ったり、広告に馬鹿にならないお金を使ったり・・とまあ、このあたりは何をコストにして欲しいものを手に入れるかという話なので、別に悪いわけではないのですが、いわゆる「工作」という、再生数などを不当に増加させる手法に手を染める人も現れたりして、そうなるともう再生数なんて完全にデタラメな指標です。

けっきょく「純粋に実力で勝負しようとする人はなかなか(再生数という数字の上では)報われない」という構図になってしまい、これは残念なことですし、リアルの社会の縮図だよなとも思います。

frenchbreadさんの場合

僕もお金や時間をそこそこかけて「営業活動」を行い、自分の実力なら周囲の方と比べてもまあ穏当な評価だろう、というくらいの再生数を得ることはできました。

一方で、当初の「オリジナル曲を作って完成させたい」という欲望は満たされ、そこからより高みを目指したい、あるいは単にいろんな曲を作りたいという情熱は時が経つほどに薄れていきました。

それと同時に、自分の曲を聴いてもらうために、自分もできるだけ他の方の曲を聴いて拡散したり感想を伝えたりするようにしていたのですが、失礼な話「正直言ってそこまで聴きたいわけでもない曲を一生懸命に聴くために少なくない時間を割くはいかがなものか」「勉強になるといえばなるけど、そういう意味ではプロや人気ボカロPの曲を聴くほうが確実では」と思うようになり、なんだか趣味のはずが苦行をしているような気持ちになってきました。

そうでなくてもDTMやボカロP活動って相当な時間やお金を費やす趣味ですので・・。

あと、当然逆も真なりで、自分と仲良くしてくれているボカロP仲間(と表現するほど濃いつながりかどうかはさておき)にしても、別に楽しみに自分の曲を聴いてくれているわけでもなし、少なくとも自分に大した情熱がないのに聴いてもらうのは申し訳ないなと感じてきました。

でも「営業活動」がバカバカしいとか、自分の曲を聴いてもらうのが申し訳ないみたいな変な遠慮はけっきょく言い訳で、やっぱり趣味として続ける情熱がなくなったというのが本質だと思います。その情熱さえ続けば、自分の好む範囲でコントロールすればいいだけですからね。

改めて思ったこと

というわけで、要約すると「1年半くらい活動して良く言えば満足、悪く言えば飽きたのでやめました」ですね。うわ、文章長いわりになんとしょうもない・・笑

今は他にやりたいことがいろいろあるので、いったん「やめました」ですが、長い人生の中では優先度が変わることもあるでしょうから、いつかまた曲を作るかもしれないですね。

ちなみに僕は楽器をろくに弾けないまま作曲に手を染めてしまったのですが、広く「音楽という趣味を楽しむ」ということを考えると、やっぱり楽器をそこそこしっかり弾けるようになりたいと思います。年齢的にアレかなあとも思いましたが、世の中には80歳とかになってから新しいことを始めるパワフルなおじいちゃんおばあちゃんもいるわけで、自分次第ですよね。

もしかしたらこの文書を読んだ人の中には現役ボカロPの方もいるかもしれません。ぜひこれからも創作活動を続けて、アマチュア音楽界を盛り上げ続けていただければ、と勝手ながら思っております。

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