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「現役企業人のスキル&マインドで幸せを創出する」全員複業!合同会社サブマリンの挑戦

フリーランス・パラレルキャリアの多様な暮らし・働き方をご紹介する「働き方の挑戦者たち」。
今回ピックアップするのは、社員全員がパラレルワーカーで、それぞれが好きな事業をしているという合同会社サブマリン。大手カメラメーカーに勤める現役社員・OBの11名が立ち上げ、「お金稼ぎではない複業」を模索して事業をしていると聞けば、ますますその実態が気になります。
「なぜ複業?」「好きな事業をしていいってどういうこと?」「収益が目的じゃないなんて、大企業勤めの余裕ですよね?」なんてちょっぴり意地悪な気持ちもムクムク……!
サブマリンの宇野一義さん、富久泰志さん、江口薫さん、山谷文彦さんの4名に、複業で起業した理由とサブマリンでの新しい取り組みについて伺いました。

お話を伺った人
宇野一義さん/サブマリン メンタリング事業リーダー。本業ではシステムエンジニアとしてファクトリーオートメーション技術の開発に従事。
富久泰志さん/サブマリン コミュニティ支援事業リーダー。本業ではソフトウェア開発のプロジェクトマネジメントを担当。
江口 薫さん/サブマリンCCO。本業では光学技術開発や画像処理などに携わる。フリーランスのカメラマンとしても活動。@photo_by_hamachi
山谷 文彦さん/サブマリンCEO。有志活動サブマリンの発起人でもある。本業ではメカトロニクス開発設計やプライベート展示会の推進などに携わる。

本業への還元をめざして、複業で起業

左から宇野一義さん、富久泰志さん、江口 薫さん、山谷文彦さん。
取材はオンラインにて。山谷さんは遅れての参加となりました。

――サブマリンを立ち上げた経緯から教えてください。
 
宇野:合同会社サブマリンの創業メンバーは全員大手カメラメーカーに在籍、または在籍していた会社員で、社内で集まって有志活動をしていた仲間です。会社を発展させる新規事業を創出することを目的に、定時後や休日に仲間で集まって。いいアイデアがあったら、どんどん作ってみよう、やってみようということで、メンバーの専門領域に縛られずに活動していました。前身となる有志活動サブマリンの結成は2018年。居酒屋で「こんなのできたらおもしろいんじゃない?」って盛り上がるノリを、酒も飲まずにまじめにやっていたんです(笑)。

富久:組織のなかにいると、部門の壁もあるし、予算や採算性などクリアするべきことも多い。でも、終業後の活動なら、いったんリミッターをはずして考えることができる。趣味の延長のような感覚で自由に発想を飛ばせるから、すごく刺激的だし、おもしろかったんですね。ここでの活動が個人としての成長につながるのはもちろん、会社に還元できた事例もできました。そこでそろそろ社会に出ていくタイミングなのではないかと、2023年4月21日に11人の仲間で起業に踏み切りました。

 ――会社のメンバーが全員、複業人材というのもユニークですね。 

宇野:ほぼ全員、本業は同じ大手カメラメーカーの社員です。転職したメンバーもいますが、企業で会社員をしている、という点は全員共通ですね。私たちにとって、サブマリンでの複業は、企業での実務経験を社会の身近な人々との関係のなかで役立てる場。メンバーそれぞれが経験を積み、スキルアップし、社会との関係性を築いていくことがモチベーションです。最終的には、それらを本業にもフィードバックしていきたい、という思いも有志活動のころから変わっていません。

対価を相手に決めてもらう「HAMACHI」プロジェクト

――サブマリンでは、全員が「好きなこと」を事業にしていい、と小耳に挟んだのですが…?
 
宇野:その通りです(笑)。本業があるなかであえて複業をするからには、一人一人が熱狂できることのみをやろうじゃないか、と。たとえば、僕はメンタリング・コーチングをしていますし、ある人はプログラミングをはじめとする技術サポート、写真撮影、コンテンツ制作のサポートをしているメンバーもいれば、チームとして中小企業の事業伴走もする。11人全員が、それぞれの事業を運営しています。
 
富久:その事業を進めるうえでの我々らしい取り組みが、「HAMACHI」プロジェクトです。プロジェクト名の由来は、“How much am I?”。「私の価値はどのくらい?」という問いかけです。
 
――ちょっとドキッとする質問ですね。相手に報酬額の決定を委ねる、ということですか?
 
江口:その通りです。ただ、報酬はお金に限りません。お金って、汎用化されていて便利ではありますが、お金がなければ価値の交換ができないわけではない、と思うんですね。
我々のスキルを社会で活かし、誰かの困りごとを解決しようというときに、その対価は必ずしもお金である必要はない。
たとえば、畑の野菜につく害虫を自動的に見つけ、農薬に頼らない害虫駆除のサポートができたとします。その対価として、新鮮な農作物をいただけたとしたら、これは我々にとっては非常にうれしいし、価値は高いんです。
 
富久:ほかにも例を挙げますと、僕たちは静岡県裾野市にある酒屋さんで、会社の方向性、経営視点からのコンサルティングなどに携わっています。僕はグラフィックレコーディング(グラレコ)が得意なので、ディスカッションをビジュアル化して1枚にまとめたりも。こういった打ち合わせを頻繁に設けることで、経営者の思いを深める壁打ち相手にもなっています。
対価としては、品評会に出すようなちょっと特別なお酒、プロジェクトとして一緒に商品の打ち出しを考えている焼酎をいただいています。僕たちの好みに合わせたお酒をセレクトしてくださるから、毎回それが楽しみなんです(笑)。金銭以外での価値交換が、双方にとっていい感じに回っているな、と感じています。

富久さんが作成したグラレコ。
イラストによって、ディスカッションのポイントがわかりやすく整理される。

宇野:そうそう、この仕組みがあれば「金銭的余裕はないけれど、新しいチャレンジをしてみたい」という人たちと「企業での経験を社会に還元しながら、スキルアップも図りたい」という我々が、双方気兼ねなく対等につながれて、関係性をつくっていける。我々にとっても学びは大きいです。

 ――新しい物々交換の形ですね。 

江口:得意と得意を交換できたらすごくいいよね、っていう発想ですよね。私は、本業では一眼レフカメラのレンズ設計、カメラの画像処理、またカメラを使って新しい価値を創出する新規事業に携わっています。また、もともと複業として、フォトグラファーとしての活動もしていました。複業は収入のためではなく、誰かの役に立ちたい、誰かの課題を自分のスキルや得意なことで解決したい、という思いがあったから。ただ、無償でやるとなると、お互いに気を遣ってしまう。そうしたときに、HAMACHIのアイデアが出てきて、「これだ!」と。

 富久:江口は、アーティストのプロフィール写真やライブ動画、ミュージックビデオの撮影もしています。僕もプロフィール写真を撮ってもらいました。 

江口さんが撮影した、手話マイムアーティストまっきぃ♪さんのプロフィール写真。
写真提供/江口 薫

江口:HAMACHIプロジェクトでは、これまで洋菓子店、マッサージ店、脱毛サロンなどの個人店から仕事を請け負っています。プロフィール写真撮影はもちろん、ホームページ作成、広報のためのYouTube動画の作り方のレクチャーなど、依頼はいろいろ。報酬としては、おいしいケーキ、マッサージの施術体験、ヒゲ脱毛と、おいしかったり、癒されたり、きれいになれたりと、ありがたいものばかりです。お客さまからはよく「こんなのでいいの?」と言われますが、みんな、自分が当たり前にできる得意なことの価値って、低くみがちなんですよね。といいながら、受け取る僕も「こんなにいただいていいの?」と思ってしまうんですけれど(笑)。こうしたコミュニケーションを通して、お互いの信頼ができていくことにもお金に換算できない価値がありますね。 

異なる背景を持つメンバーが集まる強み

――メンバーそれぞれが違う事業をされているなかで、あえてサブマリンの傘のもとに集合したのはなぜ? フリーランスとして、個人で仕事をする選択肢もありますよね?
 
江口:僕自身は、これまで個人の複業としてフォトグラファーの活動もしていました。では、なぜサブマリンに参画したかといえば、やはり同じ方向をむいた仲間とチームで共創できることの価値ですよね。サブマリンでは、個人での仕事以外に、チームでの事業伴走なども行っています。メンバー同士がサポートしあうことで、より質の高い仕事ができることが魅力です。
 
宇野:もともと有志活動のころから、自分たちの熱狂にもとづく事業で、会社を発展させることを目標にしていました。2030年までに売上1兆円規模の事業群の創出をめざしていて、これはなかなか一人でできることではありません。
 
――有志活動の結成は、会社の号令のもと? 所属する会社の風土として、ほかにもこうした活動をしている方が多くいらっしゃった、ということなのでしょうか?
 
富久:すべて自発的な活動ですね。2018年にサブマリンが結成されるあたりで、同時多発的にいくつかの有志活動グループができていました。元々、業務時間内のボトムアップの「オフィス改善活動」として、無線LANの導入をすすめたり、会議室の効率のよい使い方を検討していたり、社内に「チャレンジ精神」や「改善志向」が風土として根付いていることが背景にあったとも思います。
 
江口:私は宇都宮、宇野と富久は川崎、山谷は裾野の拠点にいて、それぞれの拠点で自主的に活動していた。「あちこちの拠点で活動しているなら、横串を刺してみよう!」と号令をかけたヤツがいて、それがきっかけで集まるようになったんですよね。そこで実感したのが、異なるバックグラウンドを持つ人間が集まったほうが、いいアイデアが生まれるということ。全社的にいろんな仲間と話せるので、たとえば自分の部署では実現できないアイデアも、他部署ならばプロジェクト化できることも。可能性の広がりを実感しています。会社にとっても個人にとってもメリットは大きいと思います。

複業の新しい形を模索する

――有志で行っていた改善活動にしても、会社化したサブマリンでの事業にしても、みなさんが純粋にやりたいからやっている、というのが印象的です。
 
江口:収入源としてよりも、スキルアップや経験を積む場として複業をとらえると、複業ってすごく実践的で、かつ直接お客さまと関われるおもしろさがあります。私が働く宇都宮には、さまざまな製造業のメーカーがあり、エンジニアも非常に多い。新しいスキルを身につけたいと考えている人もたくさんいます。
けれど、会社を辞めていきなりスタートアップを立ち上げるのは、リスクも大きいですよね。複業には、スキルの腕試しの場、という意味合いもあるかと思います。複業NGの会社でも、HAMACHIのように金銭的報酬が発生しなければ認められるケースもあるのでは? そういう意味でも、私たちの取り組みは複業の新しい形を模索する一歩となっているのでは、と自負しています。
 
富久:みんなが得意なことを活かし合うって、めちゃくちゃ健全で社会にとっても効率がいい形なのではないか、と思うんですよね。売上高にとらわれないと、自分の信念を曲げる必要がまったくない。やれること、自分が得意なことを伸ばしながら、もうちょっとここまでチャレンジしようという裁量も含めて、すべて自分たちで決められますから。
 
――仕事をするうえで、どこまでも自己決定できる幸福感は大きいですよね。
 
富久:ただ一方で、すべて自分たちで決めなければいけない責任もあって。起業してからは、当然ながら経営視点での視野の広がりもありました。有志活動のころは横の広がり、そして会社化してからは縦への重層化と、僕たちの視点も広く、深くなっていて、これは必ず本業にも活きてくるものだと思います。
 
山谷:サブマリンでの複業で得たものを、どう本業に還元していくかが、これからの課題です。サブマリンは利益追求型ではありませんが、本業においては2030年に1兆円規模の新規事業群をつくる、という目標は変わりません。企業人のマインドで、地域社会の身近な方々の問題解決に役立つ取り組みを重ねることが、目標への地道な一歩になると信じています。

取材・文/浦上藍子
出版社勤務を経て、2014年にフリーランスの編集・ライターとして独立。雑誌、ウェブでの記事制作、書籍のライティングなどを中心に活動しています。趣味はフラメンコと韓国ドラマ鑑賞。


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