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にんげんと申します

 マンションの廊下を歩いていると、いた!ゴキブリだ!背中にはこげ茶色のぬめぬめした羽をたたみ、しゅるしゅると排水口の方へ・・・「あ、あ」と思う間もなくこんなときのために平たいのよ、とばかり、その身体は隙間をするり、抜けて消えた。

 11階まで、どうやって上がって来たのか・・・蚊は人の身体について上がってくるというが、ゴキブリは・・・そうだ、引っ越しの家具についてきたのかも。昨日一件引っ越してきたし・・・とその家に責任をなすりつけるわけにもいかないが。

 ゴキブリと見ると、なにかではたき殺そうと、残酷にんげんに変身するのは私だけだろうか。刺すわけでもなく、噛みつくわけでもないのに。

 以前、詩の会でこんな詩を発表した人がいた。

 せみさん
 ほたるさん
 すずむしさん
 私も入れて下さい
 私、ごきぶりと申します。

 蝉は昼間、木の上で鳴く。鈴虫は夜、草の中で鳴く。蛍は草の上で光る。それぞれ住み分けながら個性を発揮している。

 ゴキブリはどうだろう。自然界を他の虫たちに譲り、家の中へ移住。そして、人間からの嫌われ役を引き受けている。しかもストレス解消のための切られ役、ではなかった、叩き潰され役になって、命を落とすものもいる。
考えてみれば、健気だ。

 英語では、ゴキブリもカブトムシもビートルと呼ぶとか。これからは日本語でも角無しカブトムシ、とご奇特な方は呼んであげたらどうだろう。

 ゴキブリは、人間よりずっと前から地球上に存在していたという。人間が地球上に出現したばかりの時、もし詩人がいたら、次のように詠んだかもしれない。

 せみさん、ほたるさん
 すずむしさん
 ごきごきぶりさん
 私も入れてください
 私、にんげんと申します。

             

               おわり



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